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第二話 体が膨らんで…




世界がまるで海藻のように歪む。

しかし、目の前にいる女だけは歪んで見えない。

むしろ、どんどんその存在感は増していった。

女の瞳に目が離せない。

頭に女の声だけが響いてくる。



「inflate、inflate、inflate…」



(???)





突然、何かが体に入ってくる感じがした。



どこからでもない。


何か体に吸い込まれていくようだ。



グググ…



(???)



さっきから腹に違和感を感じる…




ほんの少しだけ、視線を落とした。






「!!!!!!」









俺の腹はなんと、膨らんでしまっていた。


驚いて大声を出そうとしても、声にならない声しか出ない。







ググググッ!




「むうっ!!!」



腹が押し広げられる感覚が起き、急激に腹が膨らみ始める。



すでに俺の腹のサイズは出産直前の妊婦を超えているだろう。





「expand、expand、expand…」






だが、女は動じる様子も無く、ただただ俺を見つめて、呪文を唱えている。


吸い込まれるような綺麗な目だった。


再び女の瞳を見つめてしまう。



カチッ


金属音が聞こえた。

ジーンズのベルトが外れたのだ。






俺はだんだん怖くなってきた。

何せ、俺の腹が急激に膨らまされているのだ。



だが、不思議と重さは感じない。




いや、むしろ、俺の体は重さが失われていき、どんどん軽くなっていく。


逃げようとしても、体はピクリとも動かない。

それどころか、変に気持ち良くなってくる。



「くっ・・・ああっ!」






グググググッ!!




今度は尻も膨らみ始めた。

いや、尻だけではない。


背中、いや体全体が丸みを帯びながら膨らんできたのだ。





「ぐ、わぁっ…」




どんどん服がキツくなっていく。

膨らみ続ける体をギュウギュウに締め付けてくる。

羽織っているジャケットすらキツい。

パンツも尻と股間に集中攻撃をしてくる。





ビリッ



パンツが千切れた。

股間への攻撃が和らいだことに少しほっとするが、それを皮切りに




ビリッ

ビリッ

ビリビリッ!


服の至るところが破け始める。



お気に入りのジャケットは真っ二つに裂け、ジーンズは尻に大きな穴を開ける。

素材の柔らかいTシャツも既に所々が裂けている。



ググググッ!!!




「か、はぁっ…!」


今度は手足まで膨らみ始めた。



手はどんどん膨らんでいき、無事だったジャケットの袖が遂に千切れる。

下半身の辺りに残っていたジーンズも足の膨張によりトドメを刺された。

足の先までも膨らんでいてスニーカーが足を締め付ける。

靴擦れの十倍は痛い。

が、すぐにスニーカーも裂ける。



これで俺の着ていた衣服は全てなくなった。


つまり、俺は完全に全裸というわけだ。




「round、round、round…」


女の呪文が変わる。


途端に、膨らみ続けている体に腕や腿が一体化して丸みを帯びる。


関節という概念は完全になくなり、肩から肘まで体の変化に巻き込まれ丸くなり膨らんでいく。

腿も体と一体化してしまい、真ん丸になってしまった。

この変化には足が耐えきれず、思わずバランスを崩してしまう。





「ひゃっ・・・」




ついに耐えきれなくなり、仰向けに倒れてしまう。


しかし、俺が感じたのはコンクリートの強い衝撃ではなく、俺自身のコロンとしたボールのようになってしまった、柔らかい背中の感触だった。


そして女の瞳から解放され、自分の体を確認する。


そこには。




(な、なんだよ、コレは…)



肌色。

第一印象はそれだ。

しかも、やけに光沢があってツヤツヤしている。



そうだ、これじゃまるで…







もう、何がどうなっているのか、

訳がわからない。




あぁ、これは夢なんだ。

百合が事故に遭ったのも。

俺がこんな目に遭っているのも。

夢だ夢。




そう考えるしかなかった。





だがいつまで経っても夢は醒めない。



そう、


これは紛れもない、現実だからだ。



女が動いた。


さっきから胸に触れていたが、俺が仰向けに倒れてしまったせいだ。


俺に向かってくる。


やはり体は動かない。


指先すら動かない。



?いや、待て。


俺は今仰向けに転がっている。

そして、さっき俺の服は全て破れてしまった。

つまりだ。


「!!!!!!!!!!!/////」


俺は異性の目の前で男の象徴を堂々と披露させてしまっているということだ。

足で隠そうとするが、腿は体と一体化してしまったせいで既にない。

そもそも体が動かない。


女の動きが止まる。


ちょうど股間の正面だ。


まさか、まさかとは思うが。


そんなことをされると、男としての人生が終わる気がする。

既にこの姿では人間ではないのだが。



ついに、

女の手が、

股間に。



触れた。




(?)



なんだ?

触れられた感触は確かにある。

だが、突起物に触られた感触はない。

いや、そもそもさっきから異性に触られてソレが勃たないはずがないのだ。


だが、俺の股間は全く反応しなかった。


そういえば、この俺の視界に広がっている肌色。

信じたくはないが、これは俺の身体、だと思う。

しかし、視界にあるはずの突起物が、




ない。



下半身の後部にあるはずの割れ目も、穴も。







感覚がない。






つまり、俺の。



俺は?



どこに?




混乱が限界値を突破していると、

女が呪文を再開する。



「float、float、float…」



「!!!!!!」







突然、体中から重さが消え去った。



そして、ゆっくり、ゆっくりと


俺の体…のようなものは







フワフワと浮いていった。







(あ、ああ…)









俺の体はまるで














風船のようになってしまっていた。









そして、視界が目まぐるしく動き、

気がついた時には、






俺は真っ白な空間に浮いていた。





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