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コーヒーとイチゴショートケーキ

作者: geriramamu

カランコロン

この音が好きだ。来訪者を告げるベルの音が好きだ。


チクタクチクタク

時計の音が好きだ。特に開店したこの時間が最高に好きだ。


ガガガガ

椅子を引く音が好きだ。特にカウンターの、ちょうど僕から見て右端の音が好きだ


コン、ココン

机をたたく音が好きだ。僕を呼ぶための樹木がたてるその音が好きだ。


いそいそと食器を拭くその手をやめて呼ばれた先へ顔を出すと、やはりやはり君がいた。


「いらっしゃいませ」


ご注文は何になされますか?なんて不躾なことは聞かない。いや聞く必要がない。

おそらく僕のそんな言葉を待たずして彼女はきっとこういうだろう。


「コーヒーとイチゴショートケーキ」

コーヒーとイチゴショートケーキ


「かしこまりました」


軽く頷いて厨房に入るが実はもうできている。この時間に君が来てくれるような気がして。……まぁたまに無駄になってしまうが……別に彼女のためだけに作っているわけではないのだし…そう僕もショートケーキは大好きなんだ。


まぁ出来ているとはいえすぐに持っていくようでは流石に怪しまれるだろうし。うまい具合に皿に乗せてコーヒーを作る。


ちょっとした自慢だがコーヒーだけは胸を張れる。君がおいしいと言ってくれたこのコーヒーなら胸を張れる。


小皿を二つ持ってカウンターに戻る。

そしてさながら宝石でも扱うかのように慎重に置いた。


「お待たせいたしました」


短くそう告げると君は薄く笑みを浮かべて「ありがとう」と言った。まぁ僕としてはそれだけで、あぁ生きててよかったなぁと大げさなことを考えてしまう。


そういえば、と店に置かれているレコードに手を伸ばす。開店してから忘れていたが音楽をかけようとボタンを押す。


喫茶店にはjazz…安直すぎだと友人には馬鹿にされたが僕はそうは思わない。やはりシンプルなのが一番なのだ。


カチャ…カチャ

音楽に小さく食器とフォークが当たる音が交じる。

そして最後にコーヒーを飲み終えて君は言った。


「…ごちそうさま、本当においしかった」


ニコリと笑う君。


ああ、やはりそうなのだ。君が好きなんだと。




カランコロン

この音が好きだ。あぁ私は今ここに来たのだと教えてくれるこの音が好きだ。


チクタクチクタク

時計の音が好きだ。特に開店して誰もいないことを教えてくれるこの音が好きだ。


ガガガガ

椅子を引く音が好きだ。


コン、ココン

机をたたく音が好きだ。彼を呼ぶための秘密の合図のようで好きだ。


そこから一瞬の間をおいて出てきたのは、やはりやはり彼だった。


「いらっしゃいませ」


私が頼むものは決まっている。コーヒーとイチゴショートケーキが一番好きな組み合わせだ。

特に彼の淹れるコーヒーは本当においしい。


「コーヒーとイチゴショートケーキ」


「かしこまりました」


軽く頷いた彼は厨房に戻っていくが、あまり待たされたことがない。もしかして私のために準備されていたりして。なんて流石に小説の読みすぎだろうけど……まぁ少しくらい夢を見てもバチは当たらない、と思う。



とはいえ、彼がいない間は少し寂しい。あまり言葉を交わすようなことはないけれど、そばに居るだけで十分幸せを感じることができるのだ。…ほのかにコーヒーの香りが鼻孔をくすぐる。


そろそろかな?


まだかな?


なんて少女さながらそわそわしてしまう自分が恥ずかしいなぁなんて考えていたら彼が小皿を二つ持って帰ってきた。

それを私の前に丁寧に置いて


「お待たせいたしました」


といった。聞く人が聞けば不愛想に感じるかもしれないけれど、そんな彼が好きなのだから仕方がない。


私も薄く笑みを浮かべて「ありがとう」と言った。


まぁ正直、背伸びしている感じが拭えないが…。


カチャ…カチャ

静かな空間に陶磁器が触れ合うとこうまで大きくなるのかと驚く。

マナー違反になっていないだろうか?うるさく感じていないだろうか?そんな不安はすぐに消えた。


不意に音楽が流れ始めたのだ。ほんのりとしっとりと響く音色に今まで不安はそこまで深刻なものではないことを教えてくれた。

気づかれないようにほっとしていると、いつの間にか目の前のケーキは消え去っていた。

そして最後にコーヒーを飲みお代わりするか逡巡するがやめておくことにする。


「…ごちそうさま、本当においしかった」


何時も同じこと言っている気がするが、こればかりは本音なので仕方ない。


しかし、まぁ。それを聞いて顔を綻ばせる彼はなんというか…ずるい。


そうなっては思い知るしかないのだ。


やっぱり、あなたが好きなんだと












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