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道なりを進んだ先にある小高い丘の上へと辿り着いた時には、日蝕はほぼ終わりかけていた。
そして日蝕の終わりは、世界の終わりの時間であることを同時に伝えることでもあった。
蝕を終えそうな空は、透き通る橙色をしており、それはこの世の全ての想いを吸収していきそうであった。
丘の先まで歩くとセンリアの町が見渡すことができる。
この町では一体いくつの出会いが生まれ別れがあったのだろうか。それが全て無に帰することを考えると、これまでそのようなものとはほぼ無縁であったランサムでさえも虚しい気持ちに襲われた。
そのときランサムは風が切れる感覚を覚えた。顔をあげると、翼竜が戻ってきていた。
「お前も、長い間俺と一緒にいてくれてるな」
ランサムが優しく話しかけると翼竜は、軽く一鳴きしランサムの隣に着地した。
「お前は、俺の唯一の家族のようなもんだ。俺にはもう最期の別れをするような人も一緒に最期を楽しむような人もいない。
だがな、それを悲しいことだと思ってはいない。これまで思ったこともないし、いずれこういう日が来るだろうとも思っていた。
もちろんそれはこういう状況だとは想定していなかったがな。でもな、お前は違うんだよ。お前はこれまでずっと俺の傍にいてくれた。気軽に別れを告げるには、お前に情が移りすぎているんだよ」
ランサムが、翼竜の頭を撫でると翼竜は気持ち良さそうにその掌に顔をすり寄せた。
「お前には名前がないんだ。それはお前を貰った時に必要ないと思ったからだ。
そもそも竜属は人間に懐くことはないんだ。中には特別な力を持ち心を通わすことのできる奴もいるようだが、俺にはそんな力がないことは明白だった。
だが、お前は俺に心を開いてくれた。俺はお前に感謝しているんだ。お前がいなきゃここまでこの世界を楽しむことはできなかっただろう。
お前と俺は似たような者同士だったからかもしれないな。次の人生でも会う時があったらお前に是非とも名前をつけようじゃないか。約束しよう。……あぁ見ろ、世界が終わり往く」
ランサムが指をさした先に悠然と輝く陽が膨張していくと共に輝きが増していく。
はじめそれは、強いライトを当てられたような輝きであったが、少しづつ強くなっていくと世界は白に包まれていった。
それは、不思議と暖かく優しい気持ちだけがランサムを覆った。意識が少しづつ朦朧としだしてたランサムが目を瞑り最期に聞こえた音は翼竜が長く鳴いている声だった。




