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「負けただと?」
「あぁそうだ。俺らは負けた、よって世界は滅びるんだ、あと3日後にな」
ランサムはまだこの男が冗談を言ってはぐらかそうとしているのかと思い、いい加減にしろと言いかけたが男の顔は至ってまじめだった。
「詳しく話せ」
「くくく……ここまで事情を知らないのはこのパンゲアを探してもお前さんだけじゃないか。最強にして無知か、面白いもんだ。いいだろう、教えてやる。いくら無知の討伐者様とはいえ魔王は知ってるだろう?」
「あぁそれは分かる。静寂にて圧倒の破壊神ペーニャのことだろう?」
「そうだ、俺達人間は魔王ペーニャに対して最終決戦を挑んだ。そして負けたのさ」
「なぜだ……ペーニャはその力持ってはいるが、こちらが手を出さなければ沈黙を守る存在のはずだろう」
「過程や原因なんてもはやどうでもいいんだよ。残るのは結果だけだ、過程と原因はいくらでも後で作り上げることができる」
「神はどうした、創造神メヒアがそれを静観するはずがない」
ランサムの疑問に対して、ボウデンは呆れたような顔をするとグラスに入ったブランデーを飲み干した。
「神は死んだ」
「死んだ……だと?」
「そうだ、創造神メヒアは死んだんだ。そして戦いに敗れた人類は、多くの歴戦の強者を失った。そしてペーニャは最終魔法の詠唱を終えた。」
「そんな……」
「だがな、最終魔法はその詠唱を終えたとはいえ、発動までには時間がかかる。その猶予があと3日だと言われてる」
「じゃあ、最近のこの世界の異変はすべてその影響だというのか?」
「その通りだ。もうこの世界に生き残っている人間はほとんどいない。ましてやこんな辺境の町なんかに人なんかいるわけがない」
「じゃあお前はなぜここにいるんだ」
ランサムの問いかけに対し、これまで饒舌であったボウデンが初めて言葉が詰まった。
「それは……」
ボウデンはなにか言いにくそうである様子であったが、意を決して口を開いた。
「人を……探しているんだ」
「誰を?」
「お前に言う義理はないだろう」
「言わない理由もないだろう、こんな状況だ」
「まぁそうか、別に隠す必要はない。俺は以前、共に旅をして戦った仲間を探しているんだ」
「そうか、それはすまなかったな、邪魔をしたようだ」
ランサムは、席を立とうとした。なぜならランサムは人が苦手だからだ。
これまで長い間、翼竜と共に暮らしてくらということもあるせいか、人と話すのは疲れてしまうのだ。
そして、更に用事のある人の時間を割いてまで邪魔をするつもりも毛頭にない。
「いや、いいんだ。どうせ来ない」
ボウデンは、微笑んだ。それはさっきまでの卑しい笑いではなく、優しい微笑みだった。
「どうして分かる?」
「どうせ、この世界にはもういない」
「死んだのか?」
「まぁそんなとこだろう。最終決戦に挑む前に俺と仲間達は、毎日集い語り合い馬鹿笑いをしたこの酒場で約束をしたんだ。決戦が終わったらここで再会しようと」
「……だが、来たのはお前だけだったということか」
ランサムの問いにボウデンは答えなかった。ただ、机の上に置かれているボトルからブランデーを注ぎ足して再び飲み始めた。
「討伐者様がいれば、戦況も違っていたはずだろうよ」
ボウデンは微かな声で答えた。
「たらればは好きじゃない。そして俺を過大評価しすぎだ」
「ふんっ……そうだな。中央都市センリアへ行くといい。あそこはまだ少しは人が残っている。俺より実のある話を聞くことはできるだろう、間に合えばの話だがな」
「そうか、ありがとうな。向かってみることにする。お前はまだここにいるのか?」
ランサムは立ち上がり、ボウデンに問いかけた。翼竜はその気配を鋭く察すると、音もなく飛び上がりランサムの肩付近へと漂った。
「俺は世界の終わりをここで迎えるさ。それが奴らへの餞だろうからな」
「じゃあ、それじゃあな」
ランサムが、店員の女にお金を払うと女は無言のままそれを受け取った。世界の終わりが近づいているというのにこの女は何も思わないのだろうか。
「討伐者様は、世界の最期のその日を迎えたら何を思う。悲しいか?それともこの世界の思い出に浸るのか?」
ボウデンは相変わらず椅子に腰掛けてブランデーを飲みながら机越しに問いかけてきた。
「この世界は俺の全てだ。無に帰する時は俺も無に帰るそれだけだ」
ランサムはそう答えた。ボウデンは理解したのか分からないが、ランサムに向けて手を振った。




