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ランサムの質問に対してはサイトウではなくタナベが答えた。
「その通りだ。さきほども伝えた通り、君は試験体の第一号だったのだ。
記憶の移行が不十分であり、サービスを跨いでの記憶の継続をすることは不可能なのだ。
それは全ては私の責任であり、恨むならばどうぞ私を恨んでもらって構わない。
だからこそせめてもの償いとして、今回この莫大な維持費がかかるサービスの継続や移行をこちらが無償で持とうという話なのだ」
「ここで俺がそれを拒否したらどうなるんだ」
ランサムは分かっていた、それは死を意味するのだということを。だが、サイトウが口にした言葉は意外なものであった。
「勿論、あなた様をここまできて一人孤独にさせるわけにはいきません。
あなた様が拒否するであろうという想定もしていました。なので代替案をここで提示させていただきます。」
「代替案だと」
「左様でございます。それは夢幻大陸パンゲアのスタンドアローン型の配布でございます。
こちらはこれまでのようにネットワークに繋がって世界中のプレーヤーとやりとりをすることはできません。
ですが、これによりランサム様の記憶、データ全てを維持したままこちらの世界を再び永遠に過ごすことができるのです。」
サイトウが提案したものは、新しいゲームへと移行し、文字通り真っ白な状態ですべてをやり直すことを選択するか、これまで20年弱過ごしていたこのパンゲアで他プレーヤーのいないパンゲアで生き続けるかの選択だった。
「そうか、少し……考えさせてくれないか……」
ランサムは目を閉じてそして座り込んだ。集中したい時は常に彼はそれをしていた。
その集中も何分経過したのだろうか、数えるものがいなかったので分かることはない。
だがその静寂はタナベの一言で破られた。
「私は世界の終わりでも、林檎の種子を植えるだろう、という言葉があってな」
ランサムは静かに目を開くと、タナベを見つめた。
「なんなんだ、それは」
「遥か昔の作家の言葉だよ。非常に胸に残る言葉だ」
タナベは優しく微笑んだ。やはり口角が変に上にあがり奇妙な笑顔だった。




