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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
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僕が分かる?

「…………僕が分かる?」

「――ドク、ト……」明るい。光……光だ!「ドクトル!!」僕は還ってこれたのだ!

  がばっと体を起こした。

「よかった。…………随分探したんだよ?」

 眩暈がして、俯く。

 数度深呼吸――今度はちゃんと呼吸できる。

 顔を上げると、そこはついさっき出たはずの部屋だった。

「……探したのか?」

「十日はね。いやはや手間取ったよ」

「十日も……!?」

 信じられない。僕はつい数分前ここを出たばかりのはず――。

「君。鍵使わなかったでしょ」

「――あ」

「手に持ってるだけで良かったのに」咎めるような声。「ポケットにしまうから」

 そこは、説明不足だ。ドクトルに非があるだろう。

 なるほど、そうか。僕は彼の協力を蹴った。

 協力関係に無いのなら、説明など無くて当たり前だ。

 まだ頭痛が残っているような気がして額を抑える。あの割れるような痛みが尾を引いて、頭の中の奥底がまだじくじくと痛む。

「教えてくれ」目を瞑っても思い出せないから。「俺に何が起きた?」

「最初からそうすれば良かったんだよ」

「うるさい」

「頑固なんだな、君って奴は」

 ドクトルはため息を吐いて俯いた。それから額に手を当て、天井を仰ぐ。

「………どう説明したものかなぁ」

「難しいのか?」

「ちょっとね」指同士で小さく間隔を開けて見せ。「魂に関することだから」

 僕はベッドの真新しいシーツの感触を確かめながら、ぼんやりとドクトルの言葉を聞いた。

「安心して欲しいのは、君はやっぱり死んでないってこと、かな。」

 机の上で、ドクトルが何かを弄んでいる。両手に収まるような大きさ……あれは、珈琲豆を挽く……なんだ、あれだ。名称が思い出せない。というか、知らない。

「でもおかしなことに、生きてもいなかったんだ、この十日間」

「……?」

「釈然としない顔だね」

 ドクトルが再度ため息をつくと、彼は白衣のポケットに手を突っ込んで数度まさぐる。

「それじゃ一つずつ疑問を解いていこうか」

 ポケットからは、いったいどうやって収納したのか、珈琲豆の入った袋が取り出された。

「最初に『魔力』の説明からだ」

 ドクトルはさも当たり前とでもいうように、袋の封を切って弄んでいた器械に豆を入れる。

「前提条件の話、その一」取っ手を回す。「魔力という粒子の存在」

 豆を磨り潰す音が部屋中に響いた。

「現在、過去、未来、どの場所に於いても、魔力というものは存在している」

「突拍子もない話だ」

「聞きなよ。基礎は大事だろ?」

 続いて、部屋に珈琲の香りが漂い始める。

「魔力というのは互いに引き合う性質を持っていてね。これらが一定のパターンを形成すると」

 言葉の途中でドクトルが指を鳴らすと、今度は机の上にカップが一つ現れた。……まるで魔法だ。

「こんな風に、色んな事象を『起こす』ことができる」

「……どうやって淹れるんだ?」

 ドクトルは僕の言葉を無視して続ける。

「でも実際、無から有を作ってる……ってわけじゃないんだ」

「抽出するんだよな?」

「魔力の働きはそこじゃなくて、たとえば1だった可能性を10に、ないし100に増やす――あらゆる事象に『プラスの作用』をもたらす。そこなんだな」

「前みたいな淹れ方は……」

「分かりやすく言おう」また指を鳴らす。「珈琲を美味しく淹れるには?」

 そこには珈琲を抽出する――また名前は知らないが――器械があった。

「手順を踏んで正しく淹れる」前回を思い出して。「ビーカーは使わない」

 ドクトルは「手厳しい」とつぶやく。

「ビーカーで粉末をお湯に溶かす。フィルターやサイフォンを用いて抽出する。……どっちも『コーヒーという飲み物であること』には違わないでしょ?」

「前者は泥水と大差ないと思うが」

「寝起きで結構舌が回るじゃない? ま、とにかく、だ」

 変わった形状の紙――えぇっと。なんというのだったか?「今回はフィルターで抽出するんだけど」そう、フィルターだ。

「こうやって、ちゃんとした方が何倍も美味しくなるでしょ? 魔力の作用ってのは、そういうことなんだな」

 なんだかよくわからない説明を受けている気がする。

 というか、僕が十日もの間眠っていたことに関する説明になっていない。

「さ……て。質問は一旦待って欲しいんだ。ここからが本番」

 どこから熱湯が注がれているのか……セットされたフィルターから、コーヒーが抽出されて落ちてくる。

「魔力はすべての事象にプラスになる力。簡単に言うとこうだ。とりあえず、分かったことにして話を進めると」

 滴り落ちたそれらが、容器の底を満たし始める。

「次は魂の話になってくる」

 数分の沈黙があった。僕の興味が、ドクトルの話から、コーヒーの方へと移ったが故だろう。

 最初から、あまり興味のない話なのだが。

 僕がそれをじっと見つめていると、雫が落ち切ったらしい。ドクトルはフィルター部分を外す。

「続き、いい?」

「ああ。ちゃんと美味かったら聞く」

「いや、美味しいよ。これは保証する」何を以てだ。「君寝てても飲んでたしそれ」

「はっ?」

 手渡されたカップには並々とコーヒーが注がれている。

 僕はカップを慎重に口元まで運んで、まだ熱いそれを零さないよう少しだけ飲んだ。

「美味い、もう一杯」

「話の後でね」ドクトルは三度目のため息を吐いた。「言ったでしょ、ここからが本番なの」

 僕がコーヒーをもう一口含むのを見てから、ドクトルは説明を続ける。

「さっき言ったけど。魔力と言うのは互いに引き合い、結合する。それらが一定のパターンを形成すると事象がプラス――つまり強化される」

 頷いておく。

「問題なのは、このパターンと言うのが実に多岐に渡る上、なぜか同じものは作れないってことなんだ。これを踏まえた上で、笑わず聞いてほしいんだけど」

 カップを胸元まで下げたところで、ドクトルは話の続きを切り出した。

「魔力がある特殊はパターンを形成した時、そこに自我が産まれるんだよ」

 ……なんとなく、言わんとすることは分かった気がする。

「自我を持った魔力の塊。僕らはこれを、魂と呼んでる」

「分からんな。一向に繋がってこないぞ」

「待ちなって」

 ベットの隣に据え付けられた物置台にカップを置く。

「……おかわり?」

「オッケー。落ち着いていこう」

 ドクトルに、置いたばかりのカップを手渡す。

「魂と言うのは絶えず燃える炉のようなものなんだ。自我を発生させた魔力は、何故か自分自身で魔力を生成するようになる」

 そのコーヒーに、前回のような苦味はない。いや、苦いことに違いは無いが。

「これが成長するってことなんだ。」ドクトルが頭を掻いていた。「魂が、魔力が多く、大きくなっていくに連れ、肉体はそれに応じたカタチになっていく」

「個人差、というやつか?」

「そうそう、それそれ。個人差が出るわけだな。肉体のカタチは魂のカタチも同義だ」

 随分と、飲みやすくなったように感じる。

「…………そんな話は聞いたことがないな」

「まぁね。君の世界の人間はこのこと全然知らないし」困り顔で腕を組む。「なのに、体の方からは常に魔力が漏れてるんだよ。わずかにだけど」

「嘘だろう」

「本当さ。他人の魔力を感知できるようにね」

 なるほど、気配を感じる、というものの正体だろうか。あれはてっきり、人の呼吸音や足音、そういったものから来る違和感が原因だと思っていたが。

「分かる? 要するに、認識と実態に大きなギャップがあるってことなんだよ」

「ギャップ?」

「そ、ギャップ。無い、と信じていたものが本当は存在してたってこと。それも無数に、しかもそれらが今まで自分を生かしてたってことを、表層意識で認識できていない」

 表層……?

「あー、つまり、分かってないってこと。透明人間が、見えないなら居ないも同じって言ってるようなものさ」

「見えないんだから居ないだろ」

「ところがどっこい、いるんだな。そこらじゅうにいて、魂の方はそれを分かってるんだな」

 分かったような、分からないような。


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