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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
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方舟へ

短く行きます

 背後で扉が閉まる音がした。まぶしさに目が眩むんで目をつむる――

「……?」

 ――いざ身構えて出た外に、眩しさは無かった。

 鼻を突くような香りも、耳障りな喧噪もない。

 皮膚を焦がす暑さも、肌を刺す冷たさもない。

 そこにはひたすら、広大な「無」が有った。

 ふと視線を少し上げ、ずっと向こうの方へと視線を投げてみても、地平線が見えるほど、やはりそこには何もない。

 そういえば、光源はどこにも無いのに暗くもない。自分の手足ははっきり見えているし、さっきも言ったように、はるか遠くまで見渡せるのに。

 なぜ、と独り言を零さぬように空を見上げると、そこに答えはあった。

「……黒い」

 空が黒い。

 人工的に塗りつぶされたのか。そう思えるほど空は真っ黒だ。なるほどこれなら青空のような明るさは微塵も感じない――それでも眩しく感じないのは、些か疑問だが。

 真っ黒な空に、痩せこけた大地。それが果てしなく思えるほど、延々と続いている。

 なるほどこれが。

「死後の世界、か」

 呟いてみても言葉を返すものは無い。僕はその世界で、その方舟の中で紛れもなく一人だった。

 寒気がする。遠近感が狂う。自分が立っているのがどこなのか、本当の意味で理解していないことに――ふと気が付いてしまう。

 不意に、足の力が抜けて膝を着く。視界が揺らぐような感覚――いや、違う、揺らいでいるのだ。滲むように、陽炎のように、はるか遠くの地平線が揺らいで見える。

 吐き気に襲われて目を伏せる。息苦しい。呼吸が思うようにできない。空気の中に、何か吸ったことのないものが混じっているような違和感があった。何かが足りない――何か――とても大切なものを――僕は――……。

 耐えられない。咄嗟に目を閉じその場にうずくまる。

 鈍い音。鈍痛。頭痛。生温かな感触。頬に当たる固い何か。

 確かめようと目を開けて。


 僕はその空が、本当は極彩色で出来ていることを知った。


 今まで黒かった空を埋め尽くすように。或いは落書きのように乱暴に、或いは点描のように繊細に、無数の色、色が散りばめられて、その空は赤く、その空は青く、その空は目まぐるしく輝きを増して、そして、つまり、そうか、混じって混じりあってだからこそ、だから、空は真っ黒に見えて。

 だったらなぜさっきはあんなに黒く見えたのだろう? なぜ今はこう見えるのだろう? 僕の中で何か――決定的な何かが――変化し。今、違った景色を見せている。

 もう一度目を閉じる。今度は割れるような頭痛に襲われて、やはり息を吸おうとし、出来ない。肉体にいくら酸素を、空気を供給しても……意識が……遠のくのを…………阻止、できない………………。


……。

 重い。

 起き上がることができないほどに重い。指一本も動かせないほど狭い空間の中にいる。

 不思議と浮遊感がある。それが逆に不安を煽っていた。

 今度は空も地面も真っ黒だ。立っているのか横たわっているのかも分からない。何も見えない、何も……、見えない? そもそも目はどこだ?

 手を。腕を。脚を指を――無い。

 何も無い。上も下も右も左も方向はおろか肉体さえ。意識だけが、小さな器の中でふわふわと気ままに浮かんでいる。

 ここは……閉じた、容器の中? 出口は、光は、体は、どこに――、もしかして、出られない――このままずっとここに?

 嫌だ……嫌だ! それは、それだけは! こんな、何もない場所に! ずっと何も、何一つ成せないなんて、そんな!

 まだやりたことがある! 後悔だって! 伝えたいことだって! 夢だって! まだ道の途中なのに――!

 だから、頼む、ここから、どうか、ここから。誰か、ここから。ここから僕を出してくれ…………。



 不意に、誰かが手を叩いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 個人的には嫌いではない内容です。 会話の掛け合いがとてもテンポが良く、文が詰まっているのにも関わらず、すんなりと読むことができました。 キャラも立っていて、楽しめました。 [気になる点]…
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