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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
165/166

天網恢恢

 ふぅと大きく息を吐く。

 条件を整理してみると、案外なんとかなりそうと思う。

 現状、スサノオの行動は反射によるもの。自動的なものであって、それ以上はなさそうだ。

 プログラムも大体分かる。半径2メートル以内に近付いたら熱波と斬撃。相手を吹き飛ばしてから迎撃だ。

 回復が追いついていないから、迎撃は気になるほどのものでも無い。剣を一度振るう程度で精一杯だろう。

 冷静に戦術を組み立てる。勘定に入れるべきはどこまで助けるかではない。


 どこまで許容するか。


 スサノオの、ひいては俺のダメージをどこまで受け入れるか。

 まぁ……。

「考えんのやめよ」

 なるようにしかならんか。


 勝負は早めに着けた方がいい。圧倒的に早く。守りではなく責め一辺倒だ。

 一刻も早く、暴走状態を超えるほどの消耗を強いる。

 やることは決まりだ。

 攻撃に移る。内ポッケから、血液の入った小瓶を取り出して。


媒介変形(ブラッド・ジオメトリ)


 小瓶の中身に魔力を込める。外側に漏れないよう丹精を込めて、能力を発動。相手が殺気を使うと分かれば、俺が直に触れない限りは怖くない。


 瓶を天井に投げると同時、スサノオに向けて再三駆け出す。


 半径2メートル――来た。

「ブラッド・クロス」

 迫り来る波動を切り払う。直撃コースだ。避けるかな? まぁ当たってもいいんだけど。

「おー……マジで避けない?」

 スサノオは微動だにせず、斬撃に殺気をぶつけて受け止めて見せた。

 面白いな。こんな風に止めるなんて非効率の極みだ。どうやら最適な行動を取れるわけではないらしい。

 重畳。防御に振った分近付けた。

 無防備に項垂れてるとこ悪いけど、致命傷を負って気絶してもらおう。

 剣を振りかぶる。

「おいおい……動けるんかい」

 こちらの攻撃に反応した。

 予備動作も無く、スサノオは後退して距離を取った。

 続いて、小瓶の血液を変形させた無数の血の槍も、ひらりとかわして見せた。

 早すぎる。

 おかしい。

 自我と呼べるほどの意識は残っていないはずだ。となれば新しい技も習得できない――え? コイツ無意識でやってる?

 技を見せるのは上手くないかもしれないな。学習されるのは厄介だ。


 スサノオの最も特筆すべき強さはこれだと言うことを思い知る。

 無意識に根付いた強さへの意欲。

 貪欲な姿勢。

 コイツには、「自分より強い」という一点において、敵味方や、好き嫌いといったものがない。そして強さを取り入れるためなら命さえも惜しまないのだ。

 スサノオの強さは、この向こう見ずが支えている。今も尚だ。

 一体どこまで成長するのか見てみたい気もするが、だからこそさっさと終わらせないと。

 考えを変える必要が、確実にある。

 まず、スサノオにはまだ殺気を扱える土台がない。

 これは明確だ。暴走の長さ、どれだけ少なく見積もっても五分以上。それでも尚このままということが事実を物語っている。殺気の正体は振動によって高エネルギー化した魔力粒子――前に自分でそう纏めてる。

 つまりスサノオには、ジェノンの喪失に耐えうる精神的な土台が無かったわけだ。

「そりゃそうだよな……」

 普通に生きて、十五歳。味わうはずのない喪失。ただでさえスサノオは、受け止めるよりも発散する方で家族を失った事実と向き合ってきたんだから。

 土台が無いなら根本から崩れる。

 つまり魂を構成する魔力が殺気に変換されてきていると見ていい。異常なまでの出力過多が動かぬ証拠。

 ついでに言うと、さっき俺の魔力を巡らせた時に理解できている。

 あとは深度の問題と、どうやって制御してやるか、だが――

「あーあ、マジかよ。命賭けちゃお」

 ――貸一(かしいち)ってことで。

 もう一度、ゼウスから頼まれた条件を整理する。

 一つ。魂が修復可能であること。

 一つ。肉体が修復可能であること。

 最後に一つ。廃人にしないこと。

 いいじゃないか。

 ため息一つ。

「帰って原稿やんなきゃなんだよ」

 対策は思いついた。

 あとは実行するだけだ。

 大きく息を吸って、踏み込む。

 スサノオの体内に俺の魔力を確認。まだ循環を保っている。

 距離二メートル――来た。斬撃と熱波。

「ブラッド・クロス!」

 殺気には殺気をぶつけんだよ。そう言わんばかりに十字架の斬撃で散らす。圧力の壁には穴が開き、見事潜入に成功だ。

 問題はここからなんだがな。

 もう一つ仕込んでおいた小瓶を、また空中に投げる。

媒介変形(ブラッド・ジオメトリ)

 見たばかりだから、さすがに覚えているんだろう。暴走状態でも少しだけ焦りが見える。はたまた魔力の動きで感知したのか、スサノオの狙いが明確にこちらへ向いた。

 圧倒的な殺意。背中に悪寒が走り、汗が滴る。

 ここまでビビったのはいつ以来か。

 それに反応するように、俺は――

「頼むぞ……!」

 ――いつもよりゆっくりと剣を振る。

 これは本当に苦肉の策だ。スサノオのようにサトリでも持っていればこんなリスクは犯さずに済んだろう。しかしこれしかなかった。

 投げた小瓶が上昇しきって、止まり、落ち始める。

 スサノオの刃が俺の体を袈裟になぞる。

 思い出すのは、いつぞやのこと。

 血を流し、二人で笑って最後だと言った、あの時のことだ。


痛みの鎖(ペインチェーン)


 使う技は同じでも。

 スサノオ。今の俺は、あの時とはもう違うぞ。

 倒すためではなく、助けるために、この力を振るう。


 いける。確信に近いカタチ。これならば条件を全て満たす。

 意識をスサノオの血液へ。そこに乗せた俺の魔力にイメージを乗せる。

 ついでに弱った部分の補強もしてやるよ。兄ちゃんは優しいんだ。さぁ……勝負は一瞬。

構築(コンストラクション)

 これで決める!

「血晶展開・全適用(フルアプライ)

 

 刹那、紅い先行が幾重にもなって迸る。

 スサノオの体内から数え切れないほどの赤い線。それが網目状になって外へ飛び出す。

 それを受け止めるようにして、小瓶がパリン、と音を立てて割れた。

「無問題だ」

 そこから、巨大な網が出現し、血と繋がる。

 スサノオから飛び出した血液は、小瓶からの網と繋がる。そして巨大な半球となって――巡る。

「天網恢恢、疎にして漏らさず」

 俺の魔力と、スサノオの殺気。

 それらが網の中で巡りながら混ざり合い、振動を分けて回り始める。

「血の一滴も零さない」


 殺気の正体は振動。それによる高エネルギー状態。

 つまり、ただの魔力には振動に対する許容量が存在する。

 凄まじい振動を持つ殺気と、ただの魔力が隣合うとどうなるか? 答えは簡単、お互いが中和しあって、ほんの少し属性の宿った魔力に変わる。

 スサノオの内側から、殺気を運び出し。

 俺の魔力で中和し、再び内側へ返す。


 さぁ、駄々っ子の時間は終わりだ。


「戻ってこい、スサノオ」


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