表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
163/166

暴走

 よく保ってる方だ。素直にそう思う。普通、これだけの殺気が暴走したら体の方が持たない。

 鍛えた結果か。

 頭が下がるよ。お前はいつまでも真っ直ぐで眩しい。

 さてスサノオ、まずは炎を止めないとな。確か、こんな感じだったか。

「昇華領域、不香の華」

 凄い技だ。魔力の振動を抑え、それを周囲に伝播させることで凍てつかせるとは。

 柔軟な発想。それを実現するだけの実力に、技の明確なイメージ。

 自分自身の呼吸を読み、確実に使える段階まで押し上げている。こんな風に技を作る人間には初めてお目にかかった。

 ま、俺は完璧にマネできるんですけどね。初めてお目にかかったけど似たような技は腐るほど見てきたし。つーかこのレベルは割といるし。

 なぁスサノオムカつくだろう? お前の研鑽なんて所詮その程度なんだよ。

 この一か月間、お前の成長は確かに目を見張るものがあったし、一つ高みへ上ったのも事実だ。

 だがまだ足りない。俺の命を握るというなら、ここで終わってもらっちゃ困るな。


「行ったか」


 トビラの向こうへ消えていく二つの人影を確認。命令は果たした。

 さぁ、兄弟喧嘩といこうじゃないか。


 凍ったそばから切り刻まれていく。部屋は灼熱の蒸気に焼かれ、スサノオの涙すら見えない。

 深い哀しみだけが伝わった。

 焼かれているのは目に見えるものだけではない。ハッキリと分かるほど、スサノオの命はすり減っている。

 近くに居れば伝わってくるはずの声が、今は酷く小さい。集中できるのは有難い限りだが、そんな軽口を叩く訳にはいかなかった。

「スサノオ、聞こえてるか?」

 俺の呼びかけに応えない。

 下手に近寄っても逆効果だろう。今、弟の視界がまともだとは思えない。

 剣を抜くことすら忘れ、腕に抱いた黒い塊に縋り付いている。どこからどう見ても尋常な精神状態ではなかった。俺が来たことに気付いているかどうか……分からないなら確かめるしかない。

「行くぞ、頼むから早めに済ませてくれよ」

 一歩近付――「うおおお!!」――いかん、防具がいきなり焼き切れた。

 ある程度の耐火性は保証してきたのにこのザマか。

 ……単純に燃えた訳では無いな。その前におかしなことになった。

「斬る方が先か」

 後退り冷静に分析する。

 距離三メートル弱。ここからスサノオへ寄る毎に、斬撃を浴びせられる。現状でも魔力による防御が徐々に削られているあたり、距離が詰まるほどに斬撃の密度は上がると見ていい。

 魔力切れは無いが、一度に持てる魔力量には限界がある。現状維持も難しい。

 加えて、スサノオ自身の消耗。

 身体を覆う魔力の全てを殺気に変換し続けている。未だに止まる気配がない。このまま進めば魂にまで影響が及ぶかもしれない……いや、それは希望的観測が過ぎるか。

 既に影響は出ていると考えよう。人の形を保っているから進行はそれほどでもないだろうが、問題なのは肉体だ。

 魔力をもう一度纏い直し、スサノオを見る。

「ああもう!」

 言わんこっちゃ無い!

 血を吐いたのが見えた。内臓にガタが来たか。

 予測は出来る。スサノオは動かないのではなく動けないのだ。

 恐らく骨の中身が削られて、激痛と自重に耐え兼ねている。縋り付いているように見えるだけで、ただ蹲っているだけか。

 対策が必要だ。とにかく本能が働いている今のうちに、魔力を届けなければ。

 意を決してスサノオの方へと踏み込む。魔力を纏い直したのが幸をそうした。

 耐えられる。

「起きろこの馬鹿!」

 凄まじい速度ですり減って行く俺の魔力。熱気の中を駆け抜けて、スサノオの元へと辿り着く。

 物凄く触りたくない! けど仕方ない! こうしないと死ぬからな!

「痛くないですよ〜っと!」

 スサノオの手を取って、無理やり魔力を流し込む。

 あ、ヤバい。

 殺気の原料は魔力だ。

 つまり、今与えたものも軒並み殺気にされるのであって――

「ひえぇ……!!」

 熱風と斬撃の嵐。吹き飛ばされながら、僅かに残った俺の魔力のコントロールを手放さず、スサノオの体内で循環させる。

 殺気と魔力。

 断ち切る力と結ぶ力。

 相反する二つの力を一つの肉体で、矛盾させずに廻す。

 他人の体でやるのは初めてだが、相手がスサノオで良かった。あと数分は保ちそうだ。

 壁に叩き付けられる手前でなんとか踏ん張って持ち直す。

「さぁて」

 魔力をもう一度纏って。

「どうすっかなぁ……!」

 このままでは埒が明かない。

 本気で戦っても、気を失うことはないかもしれない。殺気がどう動いているかまるで分からない以上、下手に突くわけにもいかない。

「……」

 いや、最初から分かっていたことか。

 詰まるところ、弟の気が済むまで、俺がここで付き合うしかないのだ。

 挑発し、煽り、嗾け、唆し、怒りの対象を俺へと変えるしかない。

 なんというか最悪だ。

 スサノオ……お兄ちゃん、心が折れそうだよ……。

「うお、うお! うおお!」

 こういうのには反応してくるんかい。

 足掻きとばかりに放たれた熱波。その場で踏ん張って、残った魔力のほとんどを強化に回す。

 放たれていた殺気が少しだけマシになって、弟がゆっくりと立ち上がる。

 空気は怪しげに揺らめいて、その怒りがまだ納まっていないことを知った。

 正直言ってブルっちまうほど怖いけど、仕方がない。

 剣を抜く余裕くらいは出来た。

 命の取り合いには凡そ似つかわしくないが、滅多にない機会だ。

 ゆっくりと呼吸を整える。

 殺気を暴走させたバケモノに対し、何処までやれるか――「ああ、悪い。こういう言い方は良くないな」――折角だ。

「来いよ。お兄ちゃんが全力で慰めてやる」

 スサノオ。お前に少し稽古を付けてやろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ