表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
158/166

サンダーボルト/凍て付く波動

おひさやで~~!!

 予想だにしない角度――盾の外から斬撃が襲い来る。左手に意識が向いたその瞬間、逆の手に持ち替えたのか。

 対応できる。未だ刃は斬り上げるのみ。構えさえ動かせば――「なァ――⁉」――外れた左手が、再び柄、を、掴んで――


「武神流」


 刃が無抵抗な胴を斜めに掠め斬る。


蔦漆(つたうるし)


 攻撃は直撃。思わず盾を取り落とす。

 一瞬の内に斬撃が三段階に変化した。動きを追いきれないわけではなかったはず。魔力による強化は感覚にも及んでいるのに。


 サトリ。一秒先の予知。

 ()()()()()()()()を読まれたのだ。

 ボクがどうやって避けるか。それを先に見て、どの技を使えば当たるかを判断する。

 そしてそこに、難しい思考は必要としない。なぜならそれは、今まで幾万と振るってきたものの内一つに過ぎないから。

 コイツには出来るのだ。

 一秒先に、刃を置くということが。

 達人技と言わざるを得ない。

 屈んで盾を拾う暇はない。

 突きが来る。軸をずらして――「藤高ァ!」――盾の淵を強く踏みつけて浮かばせる。重なった銃撃が盾に当たって軌道を変える。

 魔力によって威力を上げた鉛が刀をずらした。空中の盾をキャッチして、再び構える。


 流血が酷い。

 たったの一撃……。

「冗談キツイな」

 心が折れそうだ。

 さっきのように接近を許せば如何に藤高と言えど撃てはしない。

 距離を保つ必要があるな。刀の間合いで闘うわけにはいかない。

 分かったことはある。スサノオに銃弾は当たる。呼吸のないただの物質の動きはやはり読めないと見ていい。

「……」体に沁みついた選択か。「勝ちに行く」こっちにも一つだけあるな。


 ボクの体質は特別だ。あらゆる全ての物事を記憶しておける。だから式を覚えておいて後から意味を当てはめれば、大抵のことは理解できる。

 そう、できるのだ。

 盾を投げたとしても、その軌道は計算によって、一瞬で割り出せる。


 深く深く息を吸って、一気に魔力の回転を上げる。傷の治癒をすぐさま終わらせて。

 循環させる場所を、強化するものを、少しだけ変える。


「藤高……もう作戦はナシだ」

「なんだって? 諦めるには早いだろ」

「ああ。諦めるつもりはないよ」


 防御は捨てる。


「合図したら撃て。指示はそれだけだ。後は自分で動く。出来るよな?」

「……OK」


 それじゃあ、行ってみるか。


「待たせたなスサノオ。ここから先は小細工抜きだ」


 式を思い浮かべ。

 イメージを強化。

 電光が走り、身体が想像をそっくりそのままなぞる。

 不変の盾が手元を離れ、スサノオへと向かう。予想通り、打ち落とすことはせず、スサノオは避けた。

 その脇へとすかさず回り込み、手に溜めた魔力を電撃へ変化させ。

「単純な」

「そうかな?」

 壁で何度も跳ね返った盾が、スサノオの背中を強く打つ。


「喰らえスタンガン!」


 驚きに満ちたスサノオの肉体に、強烈な電気を叩き込む。盾を掴んで前へ構えて。

「藤高!」

「あいよ!」

 ダメージはあるはずだ。それでも魔力で無理やり体を動かすか。本当は麻痺がきついはず。

 残念だな。

 跳弾さえ読めれば、回避できた攻撃だったのに。


 真正面に構えた盾で、藤高の放った銃弾を弾く。それが脚に直撃して、スサノオの動きが今度こそ止まった。


 好機。

 盾の淵をスサノオへとぶち当てる。

 強化された肉体による単純極まる殴打。スサノオのような相手には、こういう攻撃が一番効くだろう。

 案の定スサノオは間合いを保てず大きく崩れる。


 畳みかけるには今しかない。

 藤高に合図を送る。

 銃を構えると同時に魔力を展開。スサノオとの距離を少しだけ詰める。

 スサノオがこっちを見た。

 藤高へも視線を送る。

 荒い呼吸。自分のものか。

 発砲まで、あと一秒。



◆ ◆ ◆ ◆



 一瞬飛びかけた意識を取り戻し、強く相手をねめつける。大した効果などないだろうが、今は威嚇などより視ることが必要だ。

 高田さんの魔力を感じる。電撃のない魔力を。藤高がこちらに向けて構えている。

 能力の使用はない――本当に?

 あの盾をもう一度作れない保証など、どこにあるというのだ?

 高田さんの能力は魔力を無効化すること。あの常軌を逸した記憶力は、技術か体質によるものだ。


 一度見たものは決して忘れない――だからこそ恐るるに足る相手。


 この広げた魔力に宿る膨大な選択肢こそが、彼の持つ武器なのだ。

 彼の今まで闘ってきた者たちが確かな血肉となり、この魔力という、物言わぬ無色透明な粒子を脅威そのものへと変えている。

 ミカエルが。

 ルシフェルが。

 ゼウスですら。

 彼にとっては生きるための餌に過ぎない。


 ふと目を閉じる。

 時間がない。

 イメージの中でしかやったことがないが……打開するにはこの技しかない。


 強く思い描く。

 強く強く、ただそれに集中する。

 自分の未来を。その一挙手一投足を。

 細かなの呼吸の音、動き、微かな振動すらも捉え。


 それをそのまま、今この時へ再現する。


「フゥー……ッ」


 藤高の銃弾が、予知をなぞって迫る。

 動きを見せれば高田さんの魔力が悪さをするだろう。

 悪戯好きなその好奇心が僕を殺す前に、奥の手を切る。


 そうだな……技の名は。


昇華領域(しょうかりょういき)――」ぐっと深く心を殺し。「不香(ふこう)の華」


 魔力に宿る熱が一気に冷め、周囲から振動を奪う。

 速度が落ちた銃弾を、刃で力強く叩き落とす。


「その雷、俺に見せたのは失敗だったな」


 周囲はぐっと冷え込んで。


「動けないでしょう?」


 標的は、その動きを止めた。


 ずいぶん前から、漠然と考えてはいた。魔力の使い方が本当に、ただ循環させることによる強化だけなのかと。

 疑問は高田さんと戦ううちに実態を帯び始め、紅黒との戦いで確信に変わり。

 ドイツでの一件で、技として成った。


 魔力は粒子だ。全てのものにプラスの作用をもたらす粒子。

 それはただそこにあるだけでは意味をなさず、誰かの意思によって流動して初めて力を発揮する。

 そう、動かすこと。

 魔力を動かすことにこそ、その力の真髄がある。


 心底思った。ジェノンがいて良かったと。

 僕が提示した何気ない疑問をあいつが調べ、実験を繰り返し、ようやく分かってきたのだ。


 魔力は振動させることで属性が宿る。

 その姿は感情によって多種多様。

 激情によって震えれば熱を孕み。

 その真逆――感情を殺せば、その魔力は熱を失い、周囲の魔力から振動を奪う。

 属性という意味で言えば、氷、だろうか。


 魔力の振動を抑えること自体はすぐにできた。

 問題だったのは、纏う魔力を広げること。

 しかしそれも今となっては問題ない。

 高田さんをさんざ見て、呼吸は覚えた。


 魔力を広げる呼吸と、心から来る振動。二つを同時に扱い、属性の宿る領域を作り出す。


 それがこの技『昇華領域』だ。後の文句はまぁ――冬に関したちょっとした洒落だが。


 この領域は魔力の振動を奪い、相手からそのエネルギーをも奪う。この場では魔力は打ち消されるわけではなく、ただそこから動けなくなるのだ。

 そうまるで、凍り付いたかのように。


「よーいドン、だ」


 僕がこの技を選んだ理由などただ一つしかない。

 それは俺がスサノオだから。

 真っ向勝負なら負け無しの雄。

 それがスサノオなのだから。


「アンタらに勝つ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ