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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
156/166

摩天楼

 思えば遠くへ来たものだ。

 同じ場所を見つめ、道は違えども二人で進んできたはずだった。

 僕と高田さんはいつしか目的を違え、今こうして敵対するに至った。


 高い高い摩天楼の最上階。ワンフロア丸々人を払って、ここを戦場へと変えた。

 監視も居なければ、僕以外の神官もいない。


「トビラはこの階のどこかにあります」

「先に辿り着けと?」

「……随分悠長な考えだ」


 ここで対峙しているというのに余裕を見せる。数か月前のこの人とは似ても似つかない。

 変わってしまったんだな……。


「逃がすと思いますか?」


 机に直接腰かけて、まだ刀は抜かない。じっと、かつて恋した人を見た。


 なぜここまで来れたのか。何を考え成そうとするのか。

 ただじっと見てみても答えは出ない。そこに何があるわけでもないのに、そこに、その足跡に、何かを見つけようとする。


「……お強くなられた」

「どうした急に」

「そのままの意味です。お強くなられた。魔力の操作にも慣れている。それに何より……」


 相手は手ぶらだ。


「その自信に満ちた立ち振る舞い」


 これでこそ高田 広希。


「持ち得た能力ゆえか……それとも、成長した駒への信頼か……」


 何重にも策を巡らせて、確実に勝てる手を打つ。時と場に合わせ、柔軟に作戦を変え……。


「打ち破りますとも。貴方の全てを真っ向から」


 ……そんなものは関係がない。

 全てを打ち砕くこと。

 それで以て、守るべき存在の元へ帰ること。

 それが誓いだ。

 それが願いだ。

 勝つことが。勝つことで。

 それが、願いの成就へ利いてくる。


 これが勝利だ。


「踊りましょう。貴方の心が折れるまで」


 重い腰を上げて、柄に手をかけ――

「!」

 発砲音がして柄が弾かれる。

 音のした方へ目を向けて。


「動きは早い」

 広げた魔力が打ち消される。施した強化がたち消えて、急激な脱力感に思わず体制を崩す。

「が――」

 サトリは死なない。

 ふと微笑む。

 一秒先、か。

 これほど心を満たす神託は無いな。


「まだ及ばない」


 視えた。

 藤高と高田さん二人による二方面から、動く方向を読んでの精密射撃……。


 敢えてその場を動かず、崩れる勢いに任せて銃弾を躱す。前へ倒れるように調整して、狙いを定める。


「本気で来い!」


 心臓で回転させた魔力を。

 一拍。

 全身へと高速で循環させる。


 警戒されていた。

 相手の能力が展開しようとしている。

 呼吸は読める――問題なく。

 脚へと力を込めて。


 0.1――

 刀を横へ凪ぐ。

 0.5――

 気配を掴んだ。


 一秒。

 藤高との間合いを噛み潰す。

 勢いをそのままに、影へと潜む相手へと、すれ違いざまに切りつける。

 もう一度刀を振って。

 刀身を軸に、体制を、今度は高田さんへと向ける。

 魔力の循環をもう一度心臓へ納め、一拍で再び全身へと回す。

 高田さんの左へ飛び出して、一度疾走を止める。

 体へと逆流する力を整えて魔力を乗せ。


「我流――」


 再現された技の、本物をぶつける。


「カットバシ!!」


 手応えあり。

 魔力も力も無効化されず、刀の芯から切っ先まで流れて伝わっていく。

 骨の砕ける感触が伝わる。

 斬らずに吹き飛ばす。

 刀を振り抜いて、高田さんを壁へと叩きつける。


 瓦礫の音。

 流れる沈黙。


 一瞬の交錯だが、これで充分だ。

 余力を残そうなどという甘えた考えは捨てたはず。

 治癒を済ませた藤高と高田さん。

 頭を振りながらため息をついて、その魔力が電気を帯びる。


「不意を突かれた」

「何を言います。真っ向から叩きましたよ」

「突然消えるとは思わないだろ」

「まだまだ未熟ですね」


 魔力を使い始めたばかりなのに、もう体を治せている。強化も申し分ない。

 何をどうしたか、魔力に帯電させるなんてことすらできるなんて。

 このまま育てば脅威になる。どこからどう見たって明らかだ。そうなる前に潰さなければならない。

 弱点はある。付け入る隙も。

 魔力の熟練度合など、この戦いの中で追い抜かれることだろう。だからそれ以外だ。まだ勝てる部分がある。


「全く理解できないよ。どうして同じ動きなのに、威力に差があるんだ」

「身体操作ってやつですよ。一朝一夕でどうにかできるものじゃない」


 目に魔力を集めているな。


「……無駄ですよ。目で見てどうにかするには時間が足りない」

「本気で言ってる?」

「俺はいつだって本気だ」


 これまでどれだけ剣を振ってきたと思っている。

 どれだけの敗北を経て、どうして折れずにここに立っていると思っているんだ。


「鍛錬もなしにここまで来れたこと。それは認めます」あなたはきっと天才なのだろう。「しかしそれだけだ。能力と魔力でここまで来れただけ」


 分厚くなった掌の煩わしさを。

 徐々に手に馴染む竹刀の感触を。

 何度も剥がれる足裏の痛みを。

 そうして少しずつ、強く大きくなっていく肉体の。

 わずかに感じる、温もりと誇りを。


「負けてなんてあげませんから」


 この人は知らずにここまで来たんだ。

 そんな相手に負けるわけにはいかない。

 文字通り厚みが違うのだから。

 僕の持てる力の全てを以てして、貴方の全てを否定しよう。



◆ ◆ ◆ ◆



 勝てると思っていた。

 苦戦などしないと。

 今まで勝てたのだから、今回もそうだと。

 コイツを相手に目的を遂行できないことなどなかったから、今回もそうなるはずだと。

「……」

 計画が違う。

 勝てる気がしない。

 なぜかは分からない。でも勝てる気がしない。今まで勝てていたのに。


 積み重ねの厚さとスサノオは言った。確かに自分には無いものだ。その経験を人の真似とこの能力で超えてきた。

 仲間の協力があってようやく辿り着いたこの場所にいたのはスサノオで、だからこそ楽に超えられると高を括っていたんだ。

 まだ足りないのか。方舟は、こんなにも遠いのか。


 真正面から闘うのは得策ではない。さっさと逃げてトビラを探すべきだ。

「藤高、退くぞ」

「逃げらんねぇだろこれ」

「そこをなんとかするんだよ」

 スサノオはどこまで知っているのか……恐らく電撃のことは割れているだろう。ルシフェルの目を通して見ていたはずだ。能力の範囲を広げるにしても、目の前にいるスサノオは魔力なしでも闘えると来た。

 そういえば、そうだ。思い返せばただの一度も、こいつとは真正面から闘っていない。いつもいつも正面戦闘を回避して、藤高にも足止め程度しか頼んでこなかった。


 だけど今回は違う。

 今に限って、こいつは確実にここで倒さなければならないのだ。

 トビラを抜けて方舟に出ても、行動不能にしていなければすぐさま追いかけてくる。それでは意味がないのだ。後ろから斬られるようなことはないだろうが、方舟での勝負自体を回避できなければ意味がない。向こうで足止めを食らって数で叩かれるなんて本末転倒もいい所だ。

 それに、兵器の動力源のこともある。


 魔導石は確保しなければならない。


 当然のように、ボクらは越えねばならないわけだ。

 この、真正面から超えたことのない壁を。


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