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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
154/166

ゴー・アンド・ゴー!

「なんとも誇らしげじゃないか。どれだけ危険な代物か分かってるのか、それ」

「分かっていますとも。技術自体に罪がないことはね」

「人間は間違うと言うんだ」

「そうならないために代を重ねる」

「ちゃんと教える時間も無いのにか?」

「時間は我々が作っていくんです」

「できないね。お前らの希望は今日潰えるから」


 どこか苛立った様子のルシフェルが、ふとボクを見た。


「確認しておきたい」

「……ボクに、ですか」

「ああ。…………お前が作ったわけじゃないよな?」

「まさか! あんな高尚なもの作れませんよ」

「安心した。まだなんとかできそうだ」


 さて、反撃開始だ。

 随分と回復した。身体の動きも、魔力の動きも存分に見た。

 カウンターを合わせることはできそうだ。


 それに、さっき()()こともある。


 試す相手としては申し分ないだろう。何せ相手は神官。致命とはいかないまでも、動きを封じることは叶いそうだ。


 イメージしろ。

 再現しろ。

 魔力の配列。

 動きをトレースした時に走ったあの電撃と、殺気との衝突で発生するあの稲妻。

 二つの共通点を、自分の魔力で再現するんだ。


「社長」

「ええ。行けますか?」

「もちろん!」


 ふっと短く息を吐き。

 踏み込んだかと思うと、急上昇して敵の頭上を取る。

 翼を展開するのが見える。

 予測。

 あの揺らめくような煌めき。

 不規則に増える羽。

 上からの攻撃。

 たどり着いた結論は、ボクもルシフェルも同じか。


 ルシフェルが魔力を纏うのと、ボクが駆け出すのは同時だった。

 ぎょっとしたような表情を見せるが、もう遅い。

 翼から射出された鉄の矢が、雨のように降り注ぐ。


 ここからだ。


 魔力を捏ねる。

 電撃を再現。

 視線の先へ動くイメージを重ね、発生した磁力で矢を弾く。


 防御に徹したルシフェルへ肉薄し。

 一度だけ見た動きを――ダメか。まだ追いつけない。

 そっと相手の脇腹に手を添えて。

 技の名前は、えーっと――


「寝ててください」


 ――無くてもいいや。そういうこだわりはいらない。

 ただ一つだけ、魔力によって電撃を放ったという事実さえあれば。


 一度体を痙攣させたかと思うと、ルシフェルがその膝を折って俯いた。

 魔力を電撃に変換したまま、今度は藤高の方へ向かう。

 ミカエルには恐らく通らない攻撃だ。

 だからこそ、これは倒すためには使わない。

 離脱するための一手。

 次の策を練らなければ。

 

 思考を巡らせる。

 電撃の再現は可能。

 次は炎でも作ってみるか。

 スサノオの持つ熱は一度見ている。

 ただ少し困ったのは、ゼウスの能力で精製したものとは違い……これらには実体がない。

 無いものを扱うのは難しい。どの程度の量で、どの程度の威力が出るか。……まぁその辺は実験を繰り返すのが手っ取り早いか。


 とりあえずこのまま電撃で攻めよう。

 また他のことも思いついた。やりたいことばかり増えていく。


 電撃を纏ったままミカエルの方へ動く。

 イメージによる動きの補助と強化。双方が効果を発揮して、あっという間に距離を食い潰す。

 完全に不意を突いた。球体に触れれば振り向くだろうが、それより早く動けるはずだ。


 電撃を、放出ではなく肉体強化へと向ける。

 球体に触れた瞬間振り返ったミカエルの盾を両手で掴み。

 腕の曲がらない方向へ、ぐるりと回す。

「ちょ――」

 こうなるとたまらず離すしかないわけだ。

 盾を構えて。

 藤高が発砲する。

 軌道を観測。

 ミカエルが躱し。

 角度を計算し、調整。


 盾で銃弾を跳ね返し、ミカエルへと当てる。


「いったいんだってもう……!」


 怯んだミカエルに対して、電気を纏わせた盾を投げつける。当然のように受け取った瞬間、その体内へと電撃が迸る。

 なるほど。その防御力も完璧じゃないな。油断もあるだろうが、魔力が薄い瞬間を突けば攻撃は通る。


 意識を刈り取る電撃の、その一瞬。

「ナイスです」

 爪による一撃がミカエルを吹き飛ばす。

 近くにいた藤高とボクを、その爪で引っ掴み。

「……二人が限界です」


 社長が紅黒を見た。


「よろしい。決着を付けてから向かいます」


 紅黒はそう答え。


「武運を」


 ボクたちを掴んだその爪と翼は、一気に上空へと飛び立った。

 あっという間の離脱の上、急激にかかったGに、ボクは思わず目を瞑る。

 だから見逃したし、聞き逃したのだ。


 ルシフェルが行ったルーティンと。


「逃がさない」


 その殺気の高まりを。


想いの重りウェイト・オブ・ディザイア――グラビティ・レイン!!」


 目を開けた瞬間分かったのは、ボクらが闘っていたその場所は、広大な円の中だということだ。何者かが――十中八九ルシフェルだろうが――描いた大きな円の中。


 その円で区切られた空間が、俄かに赤く光って。


「え」


 見えたその瞬間――


 グンと何かに強くひかれた。地面? いや違う、もっと大きな力で。重い。体が重い。纏わりつくような重さ。

 それが全身を、地面へ強く引いている。

 円の内部にあった雑木や車は自重でひしゃげ、ミカエルすらもその場に磔にしている。

 なんだ、これは。

 こんなことができるのか。これほど広範囲に、魔力の、殺気の影響を。


 たった一人の人間に、こんな芸当が可能なのか。


 地面が近づいてくる。ジェットを吹かしても、ただ空しく唸るばかりだ。

 せっかく作り出したこの瞬間を、たった一瞬で――


「行けよ……! さっさとよ!」


 潰れたはずのトラックの脇。

 そこから、小さな影が駆け出した。

 春原だ。

 春原が、銀のナイフを握りしめ、ルシフェルへ駆け寄り突き刺した。


「お役御免にゃ丁度いい日だ! 私のことは置いてけ!」


 殺気が消える。

 重さが消える。


「出席番号22番――春原 新芽、走ります!!」


 その命が。

 その命を。

 燃やす瞬間を、確かに見ていた。


 決めなければ。

 命じなければ。

 もう、後悔なんてしないと。

 もう、別れも言えないなんて嫌だと、そう強く思ったから。


「春原……」


 だから。


「……お前のことを信じるぞ! 方舟でまた逢おう!!」


 追いついてくれ。例えどんな形であってもいい。

 ボクたちの前に、また。


「ボクらは先に行く!」


 巡り合えると信じてる。


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