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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
152/166

リターン・オブ・ザ・ヒーロー

 触れた魔力が全て消えていく。

 一瞬でいい。ほんの少し隙を作れば。紅黒と藤高が、アイツをなんとかしてくれるはず――


「狙いは良い」


 ――予測されていた。


「その能力、燃費の悪さは改善すべきだな。それから相手の能力も視野に入れることだ。そうでないと大変なことになる」


 あらかじめ魔力を消していたのか。ルシフェルにはなんの影響もなく、放たれた弾丸を全て、血で創られた盾で受け止めている。その場に留まらず太刀をも躱す徹底ぶりには頭が下がる思いだ。

 だが状況は変わった。範囲内にはミカエルもいた。呆気ない最期だと思うけど、これも戦場の常というもの――


「例えばこんな風に」


 全身の肌が粟立つ。

 背後に魔力。

 いや、それはまだ。おかしな話だけどそれはまだいい。纏ったものを取り払うことしかできなかったと言い訳が立つ。

 問題なのは。

 そう、問題なのは。


 ミカエルに全く効果がなかったことだ。


 魔力を打ち消すどころの話じゃない。本当になんの変化もない。

 カットバシで盾を少し動かしてボクが離れることまで予測していたのか、目を離した隙に魔力を溜めていた。

 恐ろしいまでに高密度な魔力。今まで完全な球体だったそれは形を歪に崩し、黒い剣の方へと傾いている。


 振るわれるのを。

「超」

 はっきりと。

「速」

 見ていた。

「斬ッ!!」


 斜めに走る斬撃。咄嗟に転がって射線上から外れる。放たれた一撃は彼方まで切り裂いて、離れた場所に力強く立っていた木々をなぎ倒していく。

 大技の後だ。隙ができるはず、盾が間に合わない内に!


「ブラッド・クロス!」


 立ち上がろうとしたボクへと赤い十字架が向かってくる。超速斬(アサルター)とは違う、殺気によるものだ。頭を出しては避けられない。

 再び屈んだところにルシフェルが来る。

 なるほど見える技を打ったのは敢えて逃げ場を無くすため――悠長に考えてる場合か。

 刀に纏わせた血が大きな刃へと結実する。魔力が固定されるのが見えた。今から回避は間に合わない。防御を。


想いの重りウェイト・オブ・ディザイア


 剣が振り下ろされる。

 ミカエルを見た。

 魔力を捏ねる。

 すり減った魔力をかき集め、具現化した盾へ、一気に流し込む。


 深紅の稲妻が迸り、その中に一抹の蒼が混じる。

 魔力と殺気。

 双方がぶつかることによる発光現象。

 このままでは、援軍より先に全滅だ。


「……教えてもらえます?」

「何を」

「なぜ……ミカエルに……」

「ああ、それ……」


 紅い。

 魔力がどんどん削られていく。


「それがアイツの能力だよ。ミカエルがその時に持った魔力を上回る力で攻撃しなければ、全てを無効化する。物理的なものはもちろん――例えそれが、お前の能力だろうとな」


 目眩がする。動悸が激しくなる。


「人はこう呼ぶ。不変(イージス)と」


 くらくらする。藤高達の方へミカエルが。


「最初っからこうなる予定だったんだよ。アイツらじゃ、どうあってもミカエルの防御を突破できない」

「……音速を……突破できるのも……」

「そうさ。傷一つ負わないのは、能力による絶対防御があるからだ」


 誤算。

 あまりにも大きな。

 最初から分かっていたのか。能力が最初から効かないメンバーを集め、この場で追い詰めると。


「嫌になるよ。こっちの都合なんて全部無視だ。しかも作戦通りと来てる。ゼウスに並ぶ知将かもな、あの子は」

「誰のことを……?」

「おっと、話しすぎた」


 魔力が尽きる。

 イメージ、水が湧き出るようなイメージ。濁流が勢いを増すような。大きな波のような。

 間に合わない。銃も効かない、殺気で削っても意味の無い神官の相手をさせるわけにはいかない。

 なんとかしなければ。なんとか。


「撤退はオススメしない」

「嫌になりますよ……」

「こうなるとは思ってたよ。舐めてたのはどっちだって話だ」


 舞い上がっていた。

 認めよう。

 神官というものを甘く見ていた。

 能力を手に入れ、その強さに酔っていた。それが事実だ。

 敵にも参謀というものがいて、しかも方舟には無限に近い兵力がある。理解していたつもりだが、たかだか数人の人間による反逆を――こうも全力で潰しにかかるとは想像していなかったのだ。


「……スサノオの、意見は……大きいようで……」

「曲がりなりにも神官だ。そう何度も敗れてちゃあ、何かあると疑うのが俺達ってものさ」


 そして考える。

 エクスやスサノオ、そして他の神官がまだ来ていない理由を。

 あまりにも楽観的すぎる考えだが、もしかすると、ゼウスに動かせる兵力は限られているのかもしれない。その中でも最高峰の二人をぶつけたと考える。

 つまり、乗り越えればボクらの勝ちだ。


「ハァ……ッ……、……ハァ……!」


 呼吸が荒い。押し込められたままルシフェルを見上げる。

 倒さなければ。

 今ここで。

 これ以上、コイツの影に怯えて生きるわけにはいかないと思った。

 神官を下したという自信が欲しいと。例えボク一人の力でなくてもいい。仲間がいればそれが成せるのだと証明したいと。

 そう願って、ルシフェル越しに空を見る。


 閃光は止み、視界は広い。

 息も絶え絶え、力が抜けていく。

 太陽が近く感じる。揺れる、これ以上は保たない。チカチカと明滅する光の粒子が目の端を踊り狂い、真昼の空を象徴する太陽が、空にある。

 そんな中、確かにボクは見た。


「……どうやら」


 陽光をその身に受けて落ちる影。


 金属で出来た大いなる翼で羽ばたく彼女を。


 ほとんど音もさせず。

 翼を畳んで急降下してくる、その姿を。


「今回もボクらの勝ちですね」


 ルシフェルが背後を振り返った。

 その影は速度を上げて肉薄し、突き出した脚をそのままルシフェルの脇へ刺して飛ばす。

 反動を使って宙返りし、華麗に着地を決めたのは。


「……ヒーローみたいだ、アポロさん」


 背中にバックパック――それから翼を生やした何かを背負った、SSIの社長だった。


「怪我は……まぁ良しとしましょう。とにかく」


 ヒーローか。

 今のこの人に、これほど似合う言葉は無いな。


「やっと貴方に追いついた」


 シュインド・アポロニア・アマーリエ・シュテルンスタイン――死神婦人(ミセス・リッチ)のお出ましだ。

追いつきましたね、ミセス・リッチに。

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