タイトル思い付かんわ
能力を発動。縄を消して立ち上がる。視界はまだ揺れている。
「寝てろって――おっと」
ボクに意識が向いた瞬間、藤高の発砲がルシフェルを襲う。ボクに対して少しだけ距離を開け、トラックから引き離していく。
「そんなに大事かね、そのトラック。どうせ中身は空だろ?」
見抜かれている。
「そうとも限りませんよ。急な襲撃だったものでね、鍵を使う暇も無かった」
「吹かすじゃないか、安全運転マンめ」
そう言えば、銀剣を帯びていない。あれは魔力を通さないから、鍵を使って召喚することはできないはずだ。思い込みは良くないが、使う時はいつも腰に帯びていた。可能性は低いだろう。
あれがないなら、援軍まで待てる。
「ホーントにやな仕事だよ。これで休みを貰えるって言うんなら、今頃俺は一生有給取っていられる」
「ちょっとさぁ、真面目にやんなってルシフェル」
「あのなぁ……別に弾丸飛び交う戦場ってわけじゃないんだ。たまには気楽にやらせてくれよ」
ちらりとミカエルを見ると、間合いの外からこちらを警戒しているだけだ。運転手の春原をどうにかしようとは思っていない。
春原が連絡を回しているはず。どんな援軍かも分からないが、陸路が使えない以上は空からだ。
悟られないようにしなければ。あわよくば倒せることが最善だが、そう都合良くはいかないだろう。ルシフェルの強さはまだ底が見えていない。方舟で戦った時もそうだった。
あの時は運良く逃げられただけ。今回はそういう訳にもいかない。
処理できるところからだな。ミカエルから片付けるしかない。
知っている動きをどう掛け合わせて隙を作るべきか……そう言えばそうか。ボクらは盾を持った相手と戦ったことなど無いんだ。今のスサノオならいざ知らず、今再現できる動きは昔のスサノオのそれだけ。経験があるとしても、それは精々二刀流、しかも竹刀に限った話。真剣ではなく盾すらもない。
今になって理解することだが、ボクらは本当に、戦闘──闘争というものから遠い世界にいたのだ。
なんの因果か、こんな厄介なやつを相手にしているけれど。というか、猛攻を凌ぎながらまだ生きていることが奇跡に等しいわけだけど。
「防御ばっかじゃつまんないよ君ィ」
「すみませんね、こちとら少し前まで普通の人間だったもので」
人を殴ることに今更躊躇はない。しかし攻撃の隙がほとんどないのだ。盾で受けるだけでなく、いなしたり、その盾で直接打撃に転じたり。多彩な攻撃をなんとか防ぐだけで手一杯。とてもじゃないけれど藤高たちの援護になど回れない。
正直このまま時間を稼ぐしかないだろうな。手がないこともないが。
「案外粘るな。紅黒以外は相手にならんと思っていたが、ちゃんと鍛えてる」
紅黒を押さえつけながら、藤高を警戒する。
「いや、相手になるかって聞かれればそんなことは全然ないわけだが」
弾丸をものともせずかわし、開いた距離でも紅黒と戦える。刀一本。武装の差があると言うのに大したものだ。
ボクはボクで。
「ほれほれ来なよ。そろそろ本気でやっちゃうぞ!」
「ああもう……!」
問題がある。
想像していたよりも威力が出ない。
動きは全く同じはずだけど、盾を弾き飛ばすこともできなければ吹っ飛ばすこともできない。
「……スサノオと比べて、どうです?」
「重さ不足かな。動きも全然違う」
「はぁ……?」動きは同じはずだろ。「節穴ですか?」
「俄は嫌いって言ったでしょ」
さて、意味が分からないな。動きが同じなら威力は同じはず。足りない筋力は魔力で補っているはずだ。しかし動きまで違うという。
盾による殴打をかわしながら、動きについて考える。
運動量の違いか。恐らくそこだ。何かが決定的に違う……今考えても仕方ないことか。身体能力はボクの専門ではないし……おっと。
「さすがに刃物は怖いですね」
「当たらないのはスサノオと一緒か」
思考をシフト。回避を重点的に行う。相手の動きはだいたい覚えた。回避行動をインプットして、魔力によるイメージ強化によって体を自動で動かす。体力の消耗がどうなるかは予測できないが、このまま意味の無い攻撃を続けるよりかは効率的だ。
頭に幾つかのイメージを浮かべる。魔力の消費は高速回転させることによって抑える。スサノオが見せた動かし方だ。
さて、回避する方法は決まった。あとはどうやって乱戦に持ち込むか。
……どうにかできそうな技を一つだけ知っている。当て方を工夫すれば決まるはずだ。
ミカエルの行動は防御が基本だ。ボクに対して散々言っておきながらなんとも腹の立つ話だが、余計な考えだ。今はそれは置いておこう。
盾を構えての突進。まずはこれをかわす。体の角度を変えて剣の側へと回り込む。
魔力の強化も無しに手を出すと、当然嫌がるようにかわす。そこまではいい。
どうしても盾を正面に構え直すというのだから、これ以上無いほどに分かりやすいと思う。
イメージを追加。
あの技のイメージに魔力を乗せて──背筋に電流。
「カットバシ!!」
手に持った剣をバットのように振るい、盾の縁に打ち当てる。
鈍い音がして、ミカエルの腕が若干上がる──それだけだ。
最初から威力には期待していない。
この僅かな隙が必要だった。
たった数秒の隙間が。
空いた掌を相手に向ける。
能力を発動し、肉体を消せないまでも魔力を打ち消す。
剣と盾。重いはずだ。強化を張り直すまでの時間があればいい。
藤高の方へ脚を向けて駆ける。
ルシフェルとミカエル、その二人を結ぶ線の中間へ。
魔力を広範囲に広げる。多少の巻き添えはやむを得ない。
それに、影響が大きく出るのはミカエルだけだ。
広げた魔力の全てに、一気に能力を展開した。