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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
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ドア・トゥー・ドア/珈琲とケーキ

 一瞬の出来事だった。


 駆け出す。

 ルシフェルの銀剣目掛けて突っ込む。

 手首と肘を取って互いに逆に回す。

 銀剣を落とした。

 ルシフェルの血が壁を作り出す。

 銀剣が地面に落ちる直前。

 ボクが広げた魔力の範囲内、全てに能力を発動する。


 壁が溶けて血液へ変化する。

 急な出来事にルシフェルが眩む。

 銀剣を手に取って。

 振るう――


「ぅぐ……っ!」


 重い。

 銀の重量は充分考慮した、しかしそれでも振れない。

 無茶な強化が祟ったのか全身が軋む。

 関係あるか!

 トビラを背にして、ルシフェルへ銀剣を叩きつける。

 これで相手は魔力を使えない。

 あとは後ろに退くだけで。


「逃がさないと言ったはず」


 自分の非力さを心底呪った。

 ルシフェルはいとも簡単に銀剣を奪い返し、ボクの胸ぐらを掴んだ。


「驚いた……もう属性変化まで使えるのか。それとも偶然か――」


 身長差も相まって、体が宙を浮く。


「――だがまだ素人だ」


 手が無い。

 今出来ることはやった。

 届かない。

 あまりにも残酷な現実。

 せめてあと一人、仲間がいてくれれば。


「来てもらうぞ。お前を殺人と器物損壊罪で訴える。理由はもちろん分かるよな。近い内に拷問する。情報は吐いてもらう。ゼウスに詫びも入れてもらう。お前は侵入者だ。牢屋にぶち込まれるのを楽しみにしておけよ」

「エラッソーに……! 他人がそんなに嫌いか……!」


 息も絶え絶えに、なんとか言い返した。

 憎まれ口を叩くくらいのことしか出来ない。文字通りの悪足掻き。


「別に嫌いじゃないとも。むしろ好きさ」

「だったら、なんで」

「ゼウスも言ったろ。これは仕事だ。そこに感情は必要ない。ノアに逆らったら文字通り消されるんでな」

「NSなら……って話でしょそれ」


 貧血を起こしているはずなのに、ルシフェルの力は緩まない。


「アンタはNSですらないじゃないか……!」


 今まで余裕を浮かべていたルシフェルの表情が、一気に険しい物になった。


「アンタは人間だ……! ボクの能力で消せなかった。それが証拠だよ……!」


 掴む手の力が一層強くなった。


「そうやって弟を(ほだし)たわけか?」


「な、なに――」

「見ていたよ。お前がスサノオに声を掛けたその瞬間をな。お前は確かにスサノオを助け、アイツを認めて『正義』を説いた」


 その声に覇気が宿っていく。


「なぜ諦めさせなかった」


 ルシフェルの魔力に赤色が混じっていく。


「なぜ止めなかった?」


 息苦しい――この圧迫感はなんだ。


「なぜ認めてやらなかったんだ」


 体が――重く――


「スサノオを人間だと認めてやれば……弟はこんなことにはならなかったはずだろ?」

「ハ……神官が聞いて呆れる」


 ――何を怒ってるんだコイツは。


「スサノオが人間に思えなかった。ボクと同じ側にいる者だと。それだけのことです」


 一目瞭然じゃないか。魔力もなく、能力もなく、社会経験もない、ただ力の無い学生。そうであるべきボクたちなのに、ボクとスサノオは、周りと余りに違っていた。

 スサノオはどうしようもなく強くて、諦め知らずで、どれだけのことがあっても進み続ける心を持っていた。

 ボクはボクで、どんな手段を使ってでもしたいことは叶えてきた。記憶の薄れない脳と戦いながら、それでも折れることが出来ず。いつか来る戦いに怯えることが嫌で仕方なくて、だから集めようとしたんだ。


 ボクと同じ、バケモノの兵隊を。


「同類を集めようとして何が悪いんだ。NSだって同じでしょう」


 徒党を組んで対抗する。ノアってやつはそれを何千年も昔から続けてきたんだ。それはたぶん、世界が欲しかったからじゃない。


「何が目的なんですか。ドクトルでも殺そうと?」

「お前が知る必要は無い」

「情報が欲しいならそっちも話すべきだ」

「言ったはずだぞ。知る必要は無い」

「そうやってまた、蚊帳の外に」

「弟の望みだよ。お前を戦いから遠ざけろってな」

 随分お優しいお言葉だな。

 さて、そろそろ回復出来た。

「それはできません」

 潮時だ。

「もう関わってしまったから」


 ルシフェルの腕を掴んで、自分の魔力を刃へと変化させる。

 覚えておいたゼウスの能力――魔力の変化と固定だ。

 ルシフェルの腕が思わずボクを離す。重力に任せ、ボクはトビラの中へと落ちていった。



◆ ◆ ◆ ◆



 次の日、明朝。

「昨日に増して不機嫌だな」

「うるさいぞ」

「で、結局どうなったんだ?」

「……高田さんは戻ってきたよ」

「へぇ。じゃ、お前の兄貴、負けたの?」

「冗談だな。負けるわけが無い」

 勝ったのかと聞かれれば怪しいが。それでもルシフェルは負けなかった。

 高田さんの力が人にとって大きな脅威でないこと、魔力による動きの再現、能力のコピー。ルシフェルは僕に必要な情報を渡してくれている。

 ただ、やはり。

 高田さんを戦いから下ろして欲しかったとは思う。


「やっぱり慣れない。好きな人と戦うのは」

「なんだよ。スサノオは強敵が好きなんじゃないのか」

「それは、敵としてという話だ。人として好きな相手と戦ったことはない」

「そうなのか?」

「そうとも」


 妹とはよく組手をしたが、あれは戦いとは呼べないものだ。よく怒っては僕に挑んできたが、片手間で対処出来ていたし、怪我をさせない配慮までしていたから。


「とことん優しい奴め。戦いに向いてないよスサノオ」

「なんだジェノン。嫌味か?」

「大真面目。お前は戦いに向いてない」


 喫茶店でコーヒーとケーキを頼んでしばらく。店員が僕たちの妙な雰囲気に警戒し、中々注文を持ってこない。

 喧嘩しているように見えるのだろう。


「正確に言うと、今のスタイルと、お前本来のスタイルが合ってない」


 喧嘩か。そうなのかもしれない。


「本来のスタイル、と言うと?」

「お前は自分のためだけに戦うタイプじゃないってことさ」

「何を馬鹿な。俺は俺のためだけに復讐までやったんだぞ」

「バカはそっちだ」

「なんだと」

「お前が復讐したのは、妹の尊厳を守りたかったからだろ」


 言い返せなくなる。

 違う。と言いかけたけど。

 でも、言い返せない。


「そうまでして、本当は妹を守っていたかったんじゃないのか?」

「……」

「それを失ってお前は宙ぶらりんになって。今度は高田を手に入れて、それを守ろうとした」


 目と目があって、少しの沈黙が流れた。

 店員がオドオドしながらコーヒーを持ってくる。

 ジェノンは笑顔で応え、僕はしかめっ面だ。

 香りを楽しむジェノンとは対照的に、僕は角砂糖を幾つも溶かしていく。


「お前が欲しいのは最強って称号だ。でもそれは、自分の力を誇示するためだけじゃなく――」

「言うな」

「なんで?」

「それ以上言ったら、ジェノン。俺は本当に空っぽになってしまう」

「不思議なことを言うやつだ。お前は今強くなったじゃないか。その理由を考えたことはないのか?」

「ある。鍛錬のおかげだ」


 ジェノンがカップを置いた。

 僕は逆に、コーヒーを口に含む。



「ぼくを守ると決めただろ」



 甘いと思った。

 とんだ甘ったれだ。


「それじゃあ、なにか。俺は自分のためでなく、誰かのために戦う時が一番強いのだと?」

「ああとも。ルシフェルからもそう聞いてる」

「クソ兄貴が……」


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