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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
143/166

レッツ・ショー・ミー

「調子はどうだい広希君」

「なんですか急に。まぁまぁ……あー、ちょっと悪いかも」

「おや、そうなのかい? 治してあげようか?」

「結構です。ドクトルの治療はなんか、信用できません」

「つれないなぁ」


 能力を試してから数日経って、ボクは今ドクトルの部屋にいる。


「体調は悪くないんですよ。ただ」

「ただ?」

「状況が悪い」

「はぁ?」

「今日方舟を出ます。出口は一つ。トビラに向かえばいいはずだ」


 ドクトルは机に頬杖をついた。なんとも寂しそうにボクを見る。

 数日の付き合いだ。愛着がわいているはずもない。


「ゆっくりすればいいのに」

「そうもいきません。ちょっと能力を使いすぎた。そろそろ神官が動くはず。バタバタしてるうちに帰りますよ」

「そっか」


 大きくため息をついて、ドクトルはポケットをまさぐった。


「じゃあこれは今から君のものだ。うまく使いたまえ」


 机の上に置かれたのは、鍵とUSBメモリ。目的だったものだ。これがあれば胸を張って帰れる。

 立ち上がってからコーヒーを飲み干した。カップを返すついでのように机に寄る。

 鍵とメモリを手に入れて。


「……ああ、そうそう」まだ聞かなきゃいけないことがあった。「スサノオという神官を知っていますよね?」


 じっとドクトルを睨む。


「神官のことはだいたい知ってるが……はて……そんな子いたかな」

「とぼけないで」

「なんだい急にがっついて」

「必要なんです。やつの情報が」

「どうして」

「今のボクでは倒せない」

「それこそ、どうして――ああ、そういうこと」


 くるりと背を向けて、ドクトルが伸びをした。欠伸混じりに息を吐く。


「僕が能力を与えたんじゃないかって?」

「奴は神官で、そして人間だ」

 ここ数日で思い知った。方舟は人間を歓迎したりしないのだと。ここは歴とした死者の國で、生きている人間が居てはいけない場所なのだと。

「奴が生き残れた理由はここにいたから。違いますか?」

「いい推理だね。探偵になれるよ」

「仲間が既に探偵でして。お株を奪う気はありません」

「でも残念だな。肝心なところが外れてる」

「どこが」

「それは――」


 チラリと、ドクトルがドアを見た。


「――確かめた方が早いか。行った行った。研究所を戦場にされるのは懲り懲りなんだ」


 次の瞬間、ドアが蹴破られた。


「集金でェす。神妙にお縄についてくださァい」


 入ってきたのは大柄な男と――


「なぁゼウス、やっぱ登場やり直さん? ダサイってこれ」

「るっせェなぁいンだよこれで。どーせオレらァチンピラなんだから」


 ――スサノオと同じ顔をした男。


「誰だ、アンタら」

「おぉっと! 自己紹介が遅れたなぁ……オレ様はゼウス。大神官様ゼウス様よ。覚える必要はねェ、お前は今日これから死ぬからな」

「で、その腰巾着のルシフェルだ。以後よろしく」

「緊張感ねェなぁルシフェルよォ!」

「いいじゃんよ別に……乗り気じゃないんだ」


 気だるそうに髪の毛を乱しながら、ルシフェルがボクを指さした。


「これ、弟も見てるからそのつもりで」


 ……弟? ああそうか、なるほど。


「それでスサノオが神官にね」

「理解が早くて助かるよ」


 まさかこっちに親族がいるとは思いもしなかった。となるとルシフェルは人間か? 不味いな、能力効果が半減どころじゃ――


「うお!」

「余所見してんじゃねェよガキが。さっさと終わらせんぞ」


 ゼウスの手には槍。それで突いてきた。あまり殺意を感じなかったあたり、どうやら様子見か。

 しかし、いつの間に槍なんか。鍵を使った様子もない。ルシフェルに意識がいった一瞬でどうやったのだろう。


 槍を注視する。


「まったく……」

 なるほど魔力で。そういう能力か?

「ゆっくりさせてくださいよ」


 魔力を回転させ、肉体を強化する。

 槍を紙一重で躱し、相手の動きを記憶しておく。

 流派などは分からないが、数パターンは既に見た。これで少しは安全に戦えるはずだ。

 さて、どのタイミングで仕掛けるかな。


「へー今のを躱すかい。てっきりただのラッキーボーイかと思ったが」


 ゼウスが槍を構える。


「案外やる方かもな?」


 その姿、あまりにも堂に入っている。

 一目見ただけで分かる、素人にも伝わる年月の重み。

「あなた、強いんですね」

 はっきりとそう感じた。

「カッ! こいつぁ嬉しいねェ……トーシロのガキにも伝わるたぁ」


 低く腰を落とし。

 ――来る。


「ま……別段テメェに恨みは無ェが、仕事なんでな」


 音もなくゼウスの姿が消えた。


「悪いがぶち殺されてくれ」


 薄く広げた魔力の網に反応有り。背後だ。

 躱す――ルシフェルが動く。

 回避した方向へ合わせるように、ルシフェルの居合が飛んできた。

 分かりやすい挟撃だ。スサノオならどうするだろうな……っと。

 魔力で指を強化。


「こんなもんですか」


 突きの軌道は読めているし、居合の動きにも意外性がない。

 スサノオより遅く感じるのは、実力の差なのかはたまた手を抜いているだけか。

 指で攻撃を摘んで止めながら、そんなことを思った。


 魔力の有用性はこれだ。大きな渦から小さな渦へ。その差が大きいほど、魔力がもたらす効果は上がる。

 他のところが手薄になるのが難点だが、最初のハッタリにしては上出来だろう。


「こんなもんですか」

「やるじゃん」

「おでれェたぞ」


 力を込めて武器を弾く。

 数歩下がって二人を視野に。

 ドアが遠い。

 逃がさないつもりだと伝わってくる。

 さて、どうしたものか。ここで戦闘を続けるのは得策じゃないだろうし、ドクトルも望むところではないだろう。

 となるとどうにかして逃げるしかないが。


「……お強いんですね、本当に」


 隙がない。

 間合いも詰めて来ないし、動いても反応される。能力を使うわけにもいかないし、意表を突くことは難しい。

 ではどうするのかという話だが。


「残念ですよ。まともに相手する人なら良かったんですが」


 観察は終わった。


「ボクはそういう人じゃない」


 ゼウスの魔力を真似て捏ねる。

 能力にもパターンが適用されることが分かった。普通の魔力よりも単純だ。能力によって決まった効果があるのだから、細部の違いしかないことには頷ける。

 こんな感じだ。


「……なるほど」


 上着のポケットに手を突っ込んで、その中で小さなナイフを生成する。

 確かな重み。金属の質感。

 上手くいったようだな。……便利な能力だ。よくよくしっかり覚えておこう(・・・・・・)


「余裕だなクソガキ。奥の手はあるんだろ?」

「どうでしょうね」


 能力のことは知っているようだ。その特性上、証拠が残ったとは思えない。ただ死に方が少々奇妙だったために能力によるものと結論付けた――とするのが定石か。


「ボクは逃げますよ」反撃開始だ。「止めてみてください」


 ポケットから手を出す。

 ナイフのリーチに反応した。届かないという確信。ルシフェルの剣が振るわれる。

 刃を叩き落とす動き。

 勢いは落ちない。


 ここだ。


「フゥッ!!」


 素早く手首を返し、ナイフの性質をそのままに鞭へと変化させる。「えっ待っ」瞬間、鋼鉄の鞭がルシフェルの剣を絡め取って自由を奪う。

 ぐんと力強く引き。

「うぉおおオイオイオイオイ!!」


 ルシフェルの体勢を崩した。

 ゼウスの突きがボクの脳天目掛け飛ぶ。

 速度と角度。込められた魔力。そして、その結合。

 全て記憶通りだ。


 体を少しだけ屈め、すかさず鞭をしならせルシフェルから剣を奪う。頭上を過ぎていくゼウスの槍。その柄にソっと手を添えて。


「それじゃ」


 ボクは能力を発動した。



◆ ◆ ◆ ◆



 ……なんだ、これは。

 異様な風景を見ていた。ルシフェルの目を通して。

 ナイフが鞭へと変化した。その時点でもう理解が追い付かないが恐ろしいのはその後だ。


 あれではまるでサトリではないか。


 予知していなければ躱せないはずだ。死角からの攻撃だった。魔力を広範囲に展開することによる感覚の延長――それにともない皮膚感覚の強化――それがあったとしても、あの速度の攻撃を、あれ程正確に避け、その上で反撃をして見せた。


 それも、最も意表を突く反撃を。


「なァァッ」


 ゼウスの槍、その穂先が消滅し、瞬く間、連鎖していくように柄がゼウスの手元へ向けて消滅していく。

 手から離して槍が消滅した頃には既に遅い。消滅の連鎖はゼウスの指へと駆け上り、肘まで到達し――


「ウォォラッ」


 ――雄叫びと共に、ゼウスが自分の肩を切り離す。

 見るともう片方の手が巨大な刃に変化している。

 高田さんから目を離した。

 隙が出来た。

 ルシフェルの目が、もう一度高田さんの手に握られた鞭を見る。


「ボクは帰ります」


 言葉と共に、鞭が煙幕へと姿を変えた。

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