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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
142/166

バニシング・ポイント/高田くん捕獲大作戦

 力を試すには対象が必要で。

 僕の力はNSに試すのが最良で。

 だから、彼らのことを考えながら数分は歩いていた。

 方舟の空はすっかり落ち着いた黒色で、だと言うのに暗いと感じることは無い。奇妙だし不思議だと思ったが、今はどうでもいいことだ。

 見つかるにしても少数のグループと鉢合わせたい。人数が多いほど報告されて取り返しがつかなくなる可能性が高いから。


 方舟には何も無いと思っていたが、歩くにつれてそうでもないことが分かった。

 何かが戦った跡。

 積み上げられた瓦礫。

 天井に向かって伸びる無数の柱。

 一応舟としての構造は備えているらしい。終わりの見えない階段なんかもみつけた。

 隠れ場所があるのはいいことだ、戦うにしても戦略を立てられる。

 ……と。


「見つけた」


 ……数は三。軍服。見たことの無い銃を構えた……同じ顔のNS。

 なるほど、魔力の様子が良く見える――無色透明で無味無臭。見えていると言うのは些か変だが――空気の揺らぎがはっきりと視認できる。

 魔力はあらゆる物事にプラスの作用をもたらすと、ドクトルは言っていたか。

 魔力を見る力にもそれは適用されるのか……ものは試しだ。


「うん……よく見える」


 NSの魔力、その細かい部分までよく見える。パターンか、なるほど。そういう風になっているのか。今強化されているのかは分からないが、銃を構えて歩いているあたり、臨戦態勢であることは間違いない。何が起こっても対処出来る状態……ふむ。


 こんな感じか。


「……温かいんだな」


 さて、何かが足りていない感じがする。スサノオの魔力にはパターンが見られなかったことは覚えているし……しっかり見ていなかっただけと言われればそれまでだ。しかしそうではないと言い切れる。


 スサノオの魔力には動きがあった。

 留めておくのは良くないのだろう。たしか、そう……こんな感じで……


 回すんだ。

 球体をイメージ。その外周に魔力を這わせて回していくイメージを。自分の内側へと向けて螺旋を描く。

 もっと早く。もっと早く。

 もっと廻れ。もっと。


 まだ離れた位置にいるNSが一斉に振り向いた。

 魔力を感知されたらしい。全員が一斉というのがミソだ。ボクの魔力はそれほど分かりやすく、警戒するに足るということで、そして――三人で掛かれば勝てる程度だと言うこと。

 上々だ。

 物陰から姿を見せて、ボクはNSと対峙した。



◆ ◆ ◆ ◆



「…………」

「どうしたスサノオ、珍しく凹んで」

「……謹慎はつらい」

「そりゃ、こんだけポカやらかせばな」

「ノア様のあの口振り、お前のことも感づいていた。それから……再三の注意。怒鳴られることはなかったが、あれはあれでキツい」


 某日某所、政世にて。

 僕はジェノンを連れて、少しだけ長い謹慎期間をせめて楽しむことにした。


「ぼくはまぁまぁ満足だな。お前はやっぱり優しいよ」

「まだ言うか。別に殺したって……」いや、それはないな。「俺は優しいのか?」

「なんだよ急に。優しいだろ」

「いや、それはないだろう。昔のあだ名なんて酷かったぞ」


 興味無さげにフーンと返しボトルに入ったコーヒーを飲むジェノン。


「いいんじゃないか、謹慎。戦いばっかりじゃ疲れる」

「俺は別に疲れてない」

「ぼくが疲れるって言ってんだ。無茶ばっかりしやがって、視覚共有の後しばらく吐き気が止まんなかったぞ」

「……それは、悪い」


 自販機の周りに人気はない。もうすぐ明け方だからか、それとも単純にそういう場所なのか。

 川の近くに設置された自販機で屯しながら、ジェノンと落ち着いて話す。


「なぁ、なんでもっとちゃんと、高田を狙わないんだ?」

「…………ミカエルと同じ理由だよ」

「またアイツかよ。知らないんだからきっちり話せ」


 ベンチに腰掛けて、少しだけ青みがかった空を見上げる。


「好きな人は殺したくない」

「他の人間は殺せるのに?」

「少なくとも、俺にとって高田さんは特別だ。出来れば戦いとは無縁であって欲しいとも思う」

「ふーん……やっぱり情け深いんだな」

「やっぱりってなんだ、やっぱりって」

「いや? ぼくを匿ってくれてるからな、やっぱりそうなんだって」


 言い返せる材料が何も無い。

 謹慎か。こうして自らを鑑みるにはいい機会かもしれない。

 ジェノンを連れて、深夜に散歩。明るくなるまで行く宛てもなく歩いて。

 なんだか昔を思い出す。


「……ジェノン。ケーキは好きか?」

「嫌いじゃない」

「なら明日は喫茶店に行こう。あそこのチーズケーキは絶品なんだ」

「いいね。明日の予定があるって最高だ」


 明日の予定、か。

 そういえば、一つ思い出した。

 ふと時計を確認する。……ふむ、そろそろ頃合だ。


「予定と言えば、今から一つあるんだ」

「あー、なんだっけ。お前の兄貴の?」

「その通りだ。しばらく見張っててくれ。誰も来ない方が集中できる」


 明日に支障が出ない程度だといいな。

 僕は意識を深く沈めた。



◆ ◆ ◆ ◆



「由々しき事態である」


 目の前に映ったのはノア様だ。

 ……いや、少し違うか。玉座……離れた所にノア様の姿が見える。

 入り込んだルシフェルの意識から伝わるのは疲弊。ノア様から一刻も早く離れたいという強い思念だ。


「数日前。スサノオとエクスシアから受けた報告通り、方舟に人間が紛れ込んだ。そこまではまだ良い。ままある事よ。しかし問題はその先……」


 これ以上は近付けないのだろうか、異様に魔力の巡りを早めているが。これ防御してるのか? 一体何を? なんで防御体制になってるんだコイツ。


「……その人間を補足したNSと連絡が絶たれた。スサノオの例もある。おそらく魔力に覚醒したのだろう。ただ殺されたというのならいつも通り対処するところだが」


 おい、俯くな。ノア様の顔が見えん。


「問題が発生した。派遣したNSの死体が悉く見つからん。捕獲してどこかの部屋に飛ばされたことも考慮せねばなるまいて。かと言って、深層にばかり兵を割く訳にもいかぬ」


 座るな。立って聞け、話を。


「ゼウス。ルシフェルを連れて深層を探れ。鍵を貸す。他の神官は表層と中層を警邏せよ。良いか、必ず捕らえよ。なんとしても――蛇の尾を掴むのだ」

「大捕物だな。ッシャ行くぞルシフェル。久方ぶりの大仕事だァ」


 話が終わったと見るや、ルシフェルの視線が玉座――の近くにいるゼウスへと向いた。


「高田くん捕獲作戦――状況開始だぜボケども!」


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