表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
141/166

Let's give you power

 力と言うのは劇薬だ。

 ボクはその怖さをよく知っている。理解すればするほどに、人を深く強く侵す毒。

 スサノオがそうであるように、力を手にすることでボク自身が変質してしまうかもしれない。

 なんて考えて、おかしな話だと笑い飛ばす。


 ボク自身か。


 こんなに薄っぺらで、軽々しくて、頼りないもの、他にあるか。

 ボクという存在は、ボク自身の記憶によってしか作れない。

 人は、新しいことを覚えたり、忘れたりするから人が変わってしまうんだ。

 ボクには出来ないことだ、忘れるなんて。


「はい、ゆっくり息を吸ってー」


 受けてやろうじゃないか。

 その条件とやらを。

 麻酔を吸い込んだ意識はそこで途切れた。



◆ ◆ ◆ ◆



 次に目が覚めた時、自分の中で何かが変わったことが分かった。今まで無かったものがそこにあり、見えなかったものが鮮明に見えている。

 呼吸に異変もない。執刀の跡もだ。外部から何かが付け加えられたわけではないらしい。

 少し広い、病室のような部屋で、夢も見なかった睡眠中のことを考えていた。

 いったい何をされたのだろう。


「おや、お目覚めのようだね」


 ベッドに横たわったまま、上機嫌なドクトルの声を聞いた。

 本当はもう少し眠っていたい。でも、そういうわけにもいかない。取引は成立したのだから、早く政世に戻らないと。

 エクスは頭の切れる神官だ。少なくとも、鍵を使って逃げたことや、まだ生きているであろうことは報告しているに違いない。憶測でものを語るやつとは思えないし、早く行動しないと逃げられなくなるかもしれない。

 そう。状況は依然良くないし、好転する気配もない。政世が今どうなっているかも分からない。


 藤高のことが心配だった。

 そりゃあ、紅黒のことも、春原のことも気がかりだけど。

 何よりも、藤高のことが心配だった。

 ボクはアイツに、スサノオを止めろと言ったんだ。藤高はそれをやり遂げた。ボクがデータを記憶し、逃げ遂せるまでの時間を稼いでみせた。でもその後は? エクスとスサノオが、誰にもトドメを刺さずにおとなしく帰るだろうか?


「どうやって帰ればいいんですか?」

「せっかちだな。もう少しゆっくりしていったら?」

「ありがたい提案ですけど、急ぐ身なんです」


 とても無事とは思えない。

 せめて生きていて欲しい。

 アイツは有能な駒だからとか、そんなことじゃなく。

 ただ、友達として。

 あんな無茶なこと頼んでごめん。そう言って謝って、またいつもみたいに笑い合いたいんだ。


「能力の試し打ちもしてないのに?」


 と……物思いに耽っていると、ドクトルが奇妙なことを言い出した。


「なんですって?」

「だから、能力さ。せっかくあげたんだから、せめて試して感想聞かせてよ」

「……能力って、なんです?」

「ハァ……? またそこから?」


 ドクトルが曰く。


「能力っていうのは、結合した魔力の特殊な形質――それ自体が持つ効果のことさ。魂ってものには人それぞれ形があって、その中でも特異な形を持った魂に能力は発現する」

「発現すると、どうなるんです?」

「当然、その能力に見合った効果を発揮できる。肉体強化だったり、血液を操ったり、巨大化したりね」

「便利ですね」

「他人事だな! 君にだってもう、能力は宿ってるんだぜ?」


 いつの間にやら隣にいたドクトルは、ボクのことを指さして。


「高田 広希。君にはとっておきを与えることにした」


 もう宿っているらしい、その能力とやら。

 さてはて本当なら大した収穫だ。


「どうやって使うんです?」

「それは自分で確かめて」

「……貴方が勝手に選んで、勝手に魂を弄ったんですよね? ちょっと不親切じゃあ――」

「仕方ないんだよこればっかりは」


 ボクの反論を途中で切って、ドクトルが言う。


「能力の形質。確かにそれ自体は与えることができるよ。でも、与えた後『どんな能力として固定されるか』までは予測できなくてね」

「……嘘ですね」

「おや。どうしてだい?」

「貴方、科学者でしょう。ある程度予測が付いているものでないと、ボクみたいな奴に預けておけるわけが無い」


 そのはずだ。

 能力の形質。そこまで分かっているならば、どう変化していくのかある程度予測はしているはずだと考えた。

 だから、今知るべきは――


「結局。どんな能力をくっ付けたんですか」

「いや、くっ付けたわけじゃないよ。そりゃ貼ったりもしたけど、ほとんど切ったり削ったりだから」

「言い訳はいいんで」

「こりゃ手厳しいね」


 指で顎を擦りながら、ドクトルは暫し考えているようだった。

 彼がパチンと指を鳴らすと、その掌にはミルが現れる。


「匂いってものはどうして発生するか、知ってる?」

「……そういう分子構造だから」

「ざっくりと言えばね。なら、どうすれば匂いを感じなくなる?」

「匂いの元を断つ」

「他のやり方は?」

「……消臭剤を使って打ち消す」

「いいね。他には?」

「………………分子の繋がりを切って、匂いそのものを変えてしまう」


 豆が粉末にされていく。

 細かく、細かく。

 コーヒーのいい香りがした。


「正解」


 続け様に指を鳴らすと、フィルターやら何やら、必要なもの一式が出現する。


「君に与えたのはそういう能力(チカラ)だよ」


 いつの間にか握られていたケトルから、粉末のセットされたフィルターへと湯が落ちていく。


「魔力の結合を切る能力。他対象、任意発動型。どんな形での発動かは分からない。そこは本人の使いやすいように変わっていくからね」


 そういえば、聞きそびれていたな。


「あの、基本的なことだと思うんですけど、聞いていいですか?」

「どうぞ」

「……魔力って結合するんですか」

「ああ、まぁ、そうか。普通はそこまで繊細に見ないのかもね」


 カップに注がれたコーヒーが湯気を立たせている。


「魔力は結合し、様々な形質になる。それによってプラスの作用をもたらすわけだな」

「てことは――」

「厄介なのは、この結合パターンがややこしい上に、無限に近い程の数があるってことさ」

 ドクトルはふと微笑んだ。

「ただまぁ……パターンである以上、再現性はある。覚えていればの話だけど」


 コーヒーを飲んだ。

 どうやら砂糖を入れてくれたらしい。

 ほんの少しだけ、甘い。


 ヒントをくれたんだ、きっと。そう思うことにした。

 科学者にしては情報を渡しすぎだと思うけど、これはいわゆる研究成果というやつなのだろう。

 それから、ボクに与えた能力の行く末が気になっている。


 魔力は結合する。

 パターンによって干渉し、物質にプラスの作用を起こす。

 ならば、もしその結合を断ち切ることが出来たなら。

 ……なんか紅黒の殺気も似たような力だよな。なんてことを思わなくもない。


 そしてもう一つ考えることがある。

 魔力はパターンに過ぎないということだ。

 つまり覚えてさえいれば。

 記憶していればそれでいいわけだ。

 あとは同じ形に加工していくだけ。

 なんだ、思ったより簡単じゃないか。


「じゃ、このコーヒーを飲んだら」

「うん、試し打ちしてくるといいよ。外に出ればNSはわんさかいる。来るのに使った鍵があれば、いつでもあの部屋に戻ってこれるし……ああそうだ」


 ドクトルがドアに近付いた。


「ここにまた戻ってきたいなら、この部屋のことを思い浮かべるといい。ドア同士の行き来を許可しておこう」


 さて、それじゃあ行こう。

 新たな力、どれほどのものか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ