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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
134/166

限界執筆の民

 誰かがボクの肩を支える。

 走っているのか。

 頭がぼんやりしていて、記憶の反芻が追いついていない。

 母さん。

 モヤのかかった頭の中、最期の言葉が何度も何度も繰り返される。聞きたくも、思い出したくもない記憶が、ボクの心を攻めたてる。

 ボクにもっと力があれば。ボクにもっと。そんな、できるはずもないことを考えた。

 過去は変えられず、それならば未来は暗いまま。現状を覆さなければ、この先はない。


「……藤高、どうなってる?」

「気ぃ着いたかよ。電気落として暗視ゴーグルつけてお前背負って逃げてきた。文句は後から聞く」

「上等だ、説教三時間な」

「甘んじて受けてやらぁ、乗り切ったらな」


 ボクを下ろしてから、藤高が忙しなく辺りを見渡すような音がした。


「話が違うぜ広希。あの野郎、くっきりはっきり見えてんじゃねぇか」

「追ってきてるの?」

「ばっちりな。足音はしねぇが」


 これは予想外だ。スサノオのサトリは視覚によるものとばかり。……いや、前は確実にそうだったはずだ。見てから動く。それがスサノオのやり方だった。

 そういえば、やけに自信満々だったな。前とは違うとも言っていた。鍛えたんだろう。


「情報のアップデートが必要だ。読める範囲はどうなってる?」

「前と変わんねぇ感じだな。ただ、野郎、受けないようになってやがる。魔力入りも銀も当たらなきゃ意味ねぇよ」

 精度の上昇は見て取れる。半端な攻撃は当たらないと思った方がいいか。


「ああ、あと……目を閉じてた。見間違いかもしれねぇが」

「なんだって?」

「やっこさん、見てねぇぜ」

「視覚によるものじゃない……?」


 そうなると、次に候補に上がるのは聴覚と嗅覚。……耳あたりを潰すのが手っ取り早そうだ。問題は手段をどうするかだが――


「悪いけどよ、今は逃げた方がいいんじゃねぇの」

「どうして」

「どうしてってお前、紅黒は他の神官相手で手一杯だし」


 こっちもこっちで。

 そう言いかけたかと思うと、暗闇に向けていきなり発砲した。


「来た。逃げるぞ」

「魔力あるんだから戦えるだろ」

「無理だって、ありゃ正真正銘バケモンだぜ」


 深く深く息を吐いて、藤高は言う。


「魔力の扱いが上手すぎる。あいつ、ホントに最近覚えたのかよ」


 ボクには分からない。

 魔力を使えないから――「あれ?」――おかしいぞ。


「なんか変じゃないか」


 暗闇の中なのに、藤高の居場所がはっきり分かる。

 藤高の周囲にだけ、何か……何かがあることが分かるのだ。

 空気が揺らいでいる(・・・・・・)ような感覚。実際暑くはないし炎も無い。なのに、藤高の周辺だけ奇妙に揺らいでいるのだ。


「場所が分かるぞ。はっきり分かる。藤高がどこにいるのか」

「なんだって? どんな風に感じてんの?」

「なんか、ユラユラしてる。お前の周りだけ」

「マジかよ……それが魔力だぜ」


 なぜ今なのか、心当たりはあった。母さんが残してくれたのだろう。

 これなら。


「で、聞くけどよ。スサノオの場所は分かるか?」

「……分からない」

「だから言ってんだよ、バケモノだって」


 スサノオの魔力にはほとんど揺らぎがないのだ。


「どうすれば揺れる」

「手っ取り早いのは心を乱すことだな」

「なら大丈夫だ」


 素早く作戦を組み立てる。

 今自分に出来ること、それから藤高に出来ること。今まで学んだこと。新しく、できるようになったことを組み込む。


「……ボクが前に出る。藤高は補助だ」

「死ぬ気かよ」

「スサノオはボクを殺せない」


 殺す機会なんていくらでもあった。母さんを看取るまで待ったのがいい証拠だ。そう、やつはボクを殺せるのに敢えてそうしなかったのだ。

 だからこそ、この予測は当たると踏んでいる。


「魔力を抑えろ、藤高。お前の居場所を隠す」

「オーライ」

「合図を出したら頭を狙え」


 物陰から、足音を立てて前に出る。

 藤高の発砲した方向を参考に、スサノオの位置を予測する。

 この先に奴はいるはずだ。

 ……賭ける。


「出てこいよ」


 ゆったりと。


「話でもしないか?」


 力強く。

 ザリッ、と。

 足音が鳴った。


「聞きましょう」


 良かった。

 胸を撫で下ろす。

 乗ってくれた。

 そして、ボクの苛立ちに付き合ってくれるようだ。

 有難いこと、この上ない。


「……どうしてあんなことをした」


 ぶつけてやろう。今日という日に。


「俺はやってない」

「ふざけるな。お前以外の誰が出来るんだ」

「信じなくて結構。あれは自殺です。好きなだけ調べればいい」


 ふむ、揺らいだな。


「今だ」


 空気の揺らぎが動く。

 揺らぎを追ってボクも撃つ。


「高田さん。そんな撃ち方じゃ当たりませんよ」

「数打ちゃ当たるっていうだろ」

「残念ながら、俺には縁のない話です」


 まだ揺れている。まだ揺らせるはずだ。


「母さんに恨みがあったのか?」

「その点に関しては、無いと言えば嘘になります。奴には手を焼きましたから」

「それが動機だろ」

「高田さん……」


 息を吐く音が聞こえた。


「アイツは死んでませんよ」


 呆れた物言いだ。


「死んだんだよ。あの時」

「いいや、死んでいない。どころか生きてもいません」


 何もかも、やはりぼんやりしたままだ。


「貴方は奴の正体を知らないだけです。知ってしまえばきっと同じ感想を持ちますよ」


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