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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
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アウェイク・ザ・スネーク/一杯の珈琲

「ほら母さん。叶ったよ」

「昨日の今日じゃないか! いやはや驚いたな」


 次の日のことである。

 電車の中で睡眠不足を解消し、タクシーを拾って。なんとか母さんの所にたどり着いた。ユダは今日はいないみたいだ。

 どうだ驚いたか。やると決めたらボクの行動は早いんだ。


「で……紅黒。何の用?」

「神官が来ています。早く退避してください」

「狙われる理由、なんかある?」

「また怪しい研究をしているんでしょう、狙われては困ります」

「大丈夫だって、強い護衛雇ったし」

「その護衛はどこに?」

「今日は休み」


 ダメじゃないか。休憩中とかじゃなく、休みだなんて。

 今回の研究はバレるわけにはいかない。万が一が起こったら、母さんは命の危険さえある。

 何せ研究は誰にも見せていないのだから、ここで口封じされれば誰も引き継ぐことが出来ない。


「あーあ。そういう反応するって思ったよ。だから――」そういって、ポケットからUSBメモリを取り出して。「――ヒロキに研究内容を預けようと思う」


 机の上に置かれたメモリを見て、ボクらは黙った。

 その価値を知っているのは、紅黒と春原。嫌な予感がして、ボクは黙った。


 見かねた母さんは、二ヘラと笑って言った。


「なんてね。まだ纏め終わってないし、未完成だから。ヒロキには預けようと思ってるけど、もう少し先の話さ」


 なら、と紅黒。


「完成まで私たちが。ドクター、貴方を守りましょう」

「うん……ありがたいんだけどさ。あんまりべったりされると研究もやりにくいと言うか……」

「ボクでもダメ?」

「ダメだね、ダメだよ。うん」


 どうやら、余程見られたくないと見える。しかしボクらの意思も硬い。藤高も使える戦力になりつつあるし、何か起こったとしても何とでもなる。

 なにせ、ボクらは神官を退けた実力を持っている。そこから更に強くなっているのだから。

 ボクらを一人ずつ見て、母さんはため息をついた。


「仕方ない、か……近くに泊まれるよう手配しておこう。今日はゆっくりするといいよ」


 諦めたようにそう言って、それから。


「ああ、そうだ。コーヒー飲むかい?」


 美味しいコーヒーの提案があった。



◆ ◆ ◆ ◆




「呼び出しとは随分だな」

「ほぼ電車移動だろ。文句言うな新入りクン」

「……走ってきた」

「ヒャハ! マージかよバッカでー」

「人目に付くのを避けたんだ」むしろ褒められてもいい。「いつ戦闘になるか分からんからな。同じ電車に乗るわけにはいかん」

「いやいや、懸命な判断有難く受け取るぜェ?」


 そう言いながら、エクスはなおも望遠鏡を覗く。


「で……聞きてェことがあんのよ」

「俺に答えられると?」

「だから呼んだ。早めにな」


 今までの、ふざけきった空気感が一気に冷たく張り詰める。


「なんで人外が二人もいんの?」

「……一人は蛇だろ」

「そりゃ分かるがよ。……違うぜ。二人いるからややこしいわけよ」


 そう言って、僕にも望遠鏡を見るよう促す。


「見えるか?」

「ああ。全員いるな」


 高田さんと紅黒。春原と藤高。それから……白衣の……


「なるほどな」


 ……白衣の女、か。


「二人。紅黒がそうだと?」

「うんにゃ、女じゃねぇ。男の方さ」


 なに?


「男?」

「ああ」

「なぜそう思う?」

「分かんだろ。人間の気配じゃねぇよ」

「根拠は」

「魔力をよく見てみろ。オレらに近いだろ」


 言われてから、良く目を凝らす。

 疑いの目を向けて見る。疑って見た。そんなはずはないと。

 しかし、見れば見るほど、その違和感は浮き彫りになっていく。

 二人。二人、か。

 これで家族を名乗っているとは、なんとも歪な関係だ。


「……蛇は俺が捕らえよう」

「お、んじゃオレっちが紅黒チャン買い?」

「そうなる。くれぐれも殺すなよ」

「死なねぇ程度にぶっ殺すさぁ」


 欠伸をかまして、エクスはぐっと伸びをした。


「ウ――ッシ。夜になったら起こしてくれ。オレっちは寝る!昨日からストーキングしっぱなしで疲れちまってなぁ」

「ああ。助かった、ゆっくり休んでくれ」


 ヒラヒラと手を振って、エクスは別室へと消えていった。



 大きく大きく息を吐いて、僕はまた望遠鏡を覗いた。


 レンズに映るその人の、その仕草をよく知っていた。嫌になるほど知っていた。僕がきっかけで練習したであろうその一連の仕草を、本当に、うんざりするほど知っていた。


「……第二の眼(セカンド・アイ)


 小声で呟いて、いつぞやもらったものを起動する。


 第二の眼、セカンド・アイ。眼とは名ばかり。その実態は、同じように第二の眼(セカンド・アイ)をつけた者と、魔力による通信を可能とする装置――早い話が、テレパシー用デバイスだ。ジェノンはそう言っていた。他にも色々使い方があるが、今はいいだろう。


(ジェノン、聞こえるか?)


 心の中で語りかける。魔力を乗せて。


(ああ、よく聞こえるよ)


 返ってきた。

 どうやら、個人的に頼んだ確認が終わったらしい。


(やつはいたか?)


 答え次第で状況は変わる。僕は一縷の望みもなく、ジェノンの答えを待った。

 丁度白衣の女がコーヒーを淹れ終わる頃、答えは返って来た。


(居なかったよ。部屋のどこを探してもね)


 そうか。

 そうか、そうか。

 やっぱりか(・・・・・)


(ありがとう。そのまま俺の部屋に戻ってくれ。指示が必要になったらまた繋ぐ)

(O・K。何も言わないことを祈ってる)


 おそらく、僕の予測は当たっているだろう。

 さて、夜になったら作戦開始だ。



◆ ◆ ◆ ◆



 その日は丁度新月で、黒い服を着ていたから潜入は簡単に済んだ。

 誰もいないのは確認済みで、だからこそ正面から行くのはやめておいた。

 コソコソと窓を壊し、音を立てずに入り込み。

 研究室へと忍び込む。


 明かりが着いていた。

 白衣の女は眠くなるような様子もなく、いそいそと研究に勤しむ。

 入ってきた僕を気にかけることはせず、ひたすら計算式を書き続けている。

 そうか、コイツ、やっぱり科学者なんだ。なんてことを思って、しばらく見ていた。そういえば、自分は科学者だと言うのが、コイツの談だったな。そんな風に、少しだけ前のことに思いを馳せた。


 しばらく、女の様子を見ていた。

 どうやら答えが出たらしい。

 フゥと大きくため息をついて、女は僕のことを見もせずに言った。


「待たせたね。ずいぶん久しぶりじゃないか」

「居なくなったのはお前だろ」

「お、調べたんだ? 偉いじゃないの」


 僕も大きく息を吐く。

 できれば嘘であって欲しいと思う。違うのだと。この女は本当に無関係で、昔、覚えていないほど昔、ほんの少し関わったことがあるだけなのだと、そう言い聞かせたい。


「ま、つもる話もあるだろうけどさ」


 けど、無理だ。

 僕は誰よりも知っているから。その香りを。その仕草を。


「とりあえず、コーヒー飲むかい? 落ち着く。この世界ではそう言われてる」


 僕は誰よりも知っているから。

 その珈琲の味を。


「上手くなったな、ドクトル」

「褒めるなよ、らしくもない」


 女の姿をしたまま、彼は否定もせずに言った。

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