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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
128/166

待ち合わせ

「で、エクスはなんて?」

「一時間後、店と席を指定してきた」

「ふーん……」


 ホテルの一室で出掛ける準備をしながら、ジェノンの質問に答える。


第二の眼(セカンドアイ)は付けて行く。何かあったら連絡はするとも。例えば逃げろとかな」

「そうならないよう、早めに指示を仰げよな」


 頷いて。


「行ってくる」

「帰ってこいよ」


 状況によるな。




 そんなこんな、待ち合わせには間に合ったわけだが。

「……遅い」


 間違っていなければ、10分前にはここにエクスが来ているはずだ。

 僕は未だに一人でいるから、相手が遅れているか場所を間違えたかのどちらか。

 ケーキを口に運びながら、ひたすら待つのにも飽きてくる。

 コーヒーカップを傾ける。


 端末が鳴った。知らない番号だ。

 数回無視しても掛けてくるということは、おそらくこれがエクスの連絡先なのだろう。

 通話を繋げ、端末を耳に当てる。


「もし――」

『右向け〜右ィ! 見覚えある影があンだろぉ? 来ると思ってそこを指定したんだよォオレってばやっぱ天才じゃね?』

「……誰だお前」

『おっとっとぉ! コイツァ失礼自己紹介が遅れたな! オレっち、エクスシア! 今お前の少し後ろに居るの!』

「なぜ顔を見せない?」

『分っかんねぇやつだなぁ。方舟の奴が二人も揃ってちゃあ疑われんだろぉ? せっかく紅黒チャンはおデート中で油断してるってのにさぁ!?』


 バッと右を向いた。――いる。


「確認した」

『よォ〜し……そのまま監視してろよ。オレ、ナンパしてみっから』

「なに」


 右側の離れた席、違和感なく視線を伸ばしたその先、隅。紅黒と、小柄な女。確か春原とか呼ばれていたか。

 なるほどプライベートらしい。表情に緊張感はない。今なら。


『おい、アホかお前? 魔力を揺らすんじゃあねぇよォ』


 折角の努力が水の泡だと、エクスは小さな声で言った。


『詳しく知らねぇがよ、こういうやつは鍵を持ってるのが相場だ。街中で帯刀したがるアホはお前くらいさ』


 自然にしとけ。

 言われてから、コーヒーをまた飲んだ。


『ま、見とけ――オレのナンパが終わったらすぐ席から離れろ』


 なるほど。

 先に支払いを済ませる店を選んだのはそういう理由か。

 テラスで待ち合わせたのにも理由があった。顔合わせなど、エクスにとってはどうでもいいことなのだ。

 先にやれることをやっておく。それがエクスシアのやり方なのだろう。

 見せてもらおう。

 紅黒達が席についた。

 まさにその瞬間だ。本当にその瞬間。今までもそこにいたはずのエクスが、急に――急に――


「お姉さ〜ん! 今からオレと遊ばなぁい?」


 ――なんだあいつ!?

 声を掛け方がおかしいとか、そんなことはこの際置いておこう。

 あれが、エクスシアなのか?

 部分的に色の違うカラフルな髪を、あえて寝癖のようにキメていて、ダサいグラサン。その上服装はやたらと派手で、季節に合わない革のジャンパーが嫌になるくらい目立つ。

 意味が分からない。

 これほどに目立つ存在が、急に現れたように見えた。そんなはずはないのだ、奴はずっとここにいた。僕に気付かれないのをいいことに、少し前から監視していたに違いはないんだ。

 全く、見つけることすらできなかった。

 驚きを飲み込めないままでいると、不意に紅黒がニッコリ笑ったと思うとエクスの頬を張った。

 酷い……しかも「消えてください」とか言われてる……。


 あ、会話が終わった。席をたたなければ。

 荷物を持って、急いでその場を離れた。



 しばらく歩くと、前からさっき見たばかりの変人が来た。


「……お前がエクスシア」

「おっすよっす! ハジメマシテだなァどうよ? 最近やってる?」


 騒がしいやつだ。

 僕と同じ程度――つまり、言ってしまえば低め――の身長に、ギラギラした格好。これだけ目立つのに、目の前に立たれるまで気付くことさえできないとは。


「やってるって、何を」

「そりゃ、何ってナニをさ」


 ため息が漏れる。


「真面目にやれ……」

「やなこった! 好感持たれちゃ戦いにくいぜ」


 なるほど、これがエクス。通りでミカエルが黙ったわけだ。

 こちらの話も聞かず、ベラベラと喋り続けるその様子。低いのか高いのか分からない声。何もかもが不安定で、見ていておかしな気分になる。


「なぜあんなことしたんだ?」

「ああ、ナンパ? ありゃ必要だったんだよ。紅黒チャンみてーな女はな、オレみたいなんにああやって声掛けられンのが一番ムカつくってわけ」


 これで問題ないと言って、エクスは鍵を空中で捻った。


「飲む?」


 手には酒瓶が握られている。


「俺はまだ未成年だ」

「クヒヒ、知ってる知ってる。おちょくってんだよ」


 ホントにムカつくぞ、こいつ。


「ま、いーや……なんかスッキリした。なんでオレっち呼んだわけ?」

「会ってみたかった、というのが一番だな」


 僕を推薦した神官のうち、知らない名前は一つだけで、それがエクスだった。どんなNSが推してくれたのか、密かに楽しみにしていたのに。


「期待外れかい?」

「……これから決める」

「いいねぇそうしてくれると助かりまくりハマグリ」

「……」喋りにくい。「任務については聞いているのか?」

「聞いてる聞いてる。接触待つんだろ?」

「ああ。それまでは監視だ」

「かったりぃからこっちから動かしてやってんだよ。紅黒チャンは勘がいいらしいじゃん。オレが神官だってすぐ分かったはずだぜぇ」


 ビールを呷ってエクスは言った。


「神官が来てる。声を掛けてきた。とくりゃあ、ちったぁ焦んだろ。すぐにでもご主人たまに会いた〜い! ってなるはずさ」


 繰り返すが、コイツ、ホントにムカつく。


「あとは追いかけるだけって寸法よ。簡単だろ?」


 考えはしっかりとあるらしい。そう言えば気になっていたが、蛇との接触はどうやって感知するのだろう。

 僕らは、蛇とやらの正体すら知らないのに。


「まさかとは思うが……」

「安心しろって。ストーキングはオレがやる」


 肩を叩いてエクスが言った。


「まだそういうことには不慣れだろ? コイツは重要な任務だからなァ。新人には任せられねぇ」

「蛇について、知っているのか?」

「いや、オレもあんまり。ただまぁそれ関連の仕事は何回かこなしたことがある」


 エクスの仕事か、興味があるな。

 聞くまでもなく、語ってくれるようだ。


「蛇自体はお目にかかったことが無ぇが、だいたいは蛇の作った『実験体』の始末だったな……厄介なのが多いんだ。よく覚えてんのは二百年ほど前の仕事でなぁ……いやぁアイツは強かった」

「お前、何年生きてるんだ」

「結構古参だぜ。細かくは数えてねぇけどな、だいたい千年くらいか」

「能力の発現は――」

「オイコラ、それ誰から聞いた?」

「ゼウスから、直接」

「あん人はマジでよ……」


 内緒なんだぜと言って。エクスは少しだけ、ほんの少しだけ親しみのある笑顔を見せた。

 もしかすると、本当は良い奴なのかもしれない。


「宗世にいた時、ちょっとな。兆しはだいぶ前からあった」


 感じ取れるものなのかと聞くと、エクスは「人による」と答える。


「突然目覚めるやつもいる。そこんとこ気を付けろよ」


 ……肝に銘じておこう。


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