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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
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ニュープロジェクト

「トラックの運転なんて出来るんだ」

「知識はあります」

「待――」知識だけかよ。「事故るなよ」

「ご安心を! まだ人は殺してません」


 安心できない。やはりコイツもNSだ、倫理観がどこかズレている。

 何を運んでいるのか知れないが、目的地に向かっているなら良しとしよう。


 しばらく走り続けて、トラックが停まった。


 郊外の……寂れた建物。


「着きました」

「ありがと」

「私は荷物の運搬があるので」


 そういうと、トラックはボクを置いて去っていく。

 ここからは一人だ。

 インターホンも何も無い扉の前に立ち、襟を正した。

 ピシリとした制服のまま来たものだから、なんだか畏まってしまう。母さんは格好など気にする人ではないけれど、何せ会うのは久々だ。

 否が応にも緊張はする。


 ドアノブに手を掛ける、と――


「不用心だな……」


 ――鍵はかかっていなかった。

 準備をしてくれたのか、玄関周りは整頓されている。そういえば、実家でもボクが口うるさく片付けろと言っていたっけ。ここに来て、やっと言うことを聞いてくれるなんて。

 感動的な再開になりそうだ。


 長い通路を歩きながら、聞き耳を立てる。

 人の気配が全くない。母さんはバタバタと歩く癖があるから、動いていたら分かるはずなんだけど。外から見ても大きな建物だったし、離れているのかな。


 施設の案内板を見て、とりあえず応接室を目指す。

 時間は昼をとっくに過ぎている。昼食中ということもないだろう。……そういえば、母さんが食事をしているところは見たことないな。


 ゆっくりと歩いて、応接室までたどり着いた。

 バタバタと音がする。

 後ろからだ。


 どうやら、まだ準備は終わっていなかったらしい。懐かしい感じだ。数ヶ月会っていないだけなのに、騒がしい足音に、口元が綻んだ。

 振り返ると、そこにはよく知る人がいた。


 久しぶり。ここで何してるの? そんな質問をするより早く、その人が口を開いたものだから、ボクは思わず苦笑いして、いつものように言葉を返すことになった。


「やぁ、おっと! ごめんね、もう来たのかい? 準備がまだ終わってなくって――ああ、とにかく。コーヒーが置いてあるよ、飲むといい。落ち着く。そうほとんどの世界で言われてる」


「……手伝おっか?」



◆ ◆ ◆ ◆



「いや悪いね。資料の片付けを手伝わせちゃったよ」

「いいよ、いつものことだし」


 応接室はちゃんと片付けられていて安心した。

 無駄に広い部屋でコーヒーを口にしながら、母さんと二人。

 何か用があるから呼び出されたんだろう。


「……なんの用だったの?」

「紅黒に会ったんでしょ? 調子はどうかなって」

「ああ、まぁ、元気そうだった――」

「じゃなくて。広希の調子さ」

「ボク?」

「そう。私の見立てだと、そろそろ魔力が覚醒してるはずだけど」


 メガネを正しながら、母さんはそう言った。


「環境は整ってるからね。どうなの?」

「母さん……心配とかないの」

「心配? 広希を? 冗談キッツいなぁ」


 マグカップを傾けて。


「方舟から生還したじゃない。何を心配することがある?」


 おそらくユダから聞いた――いやもしかして。


「ユダを寄越したのは母さんなの?」

「いいや。ちょっと間に合わなくてね。別の人に頼んだんだ」

「どこまで知ってるんだよ母さんは」


 一番最初の記憶から、この人がいる。実の親でないことは確かだけれど、それだけ不気味とも言えた。

 この体質、完全記憶が確かなものなら、産んでくれた人の顔だって分かるはずなのだから。


「方舟のことは少し知ってるよ、そこでの移動方法も」


 白衣のポケットを探り、何かを取り出した。

 見た覚えがある物だ。


「今日は、これを渡そうと思って呼んだんだ」


 机の上に、二つの鍵が置かれる。見た目は全く同じもので、彫られた柄や傷まで再現されている。


「これは“鍵”と呼ばれるものだよ」

「いや、知ってるけど」

「んっんー、ちょーっと説明を聞きなって」


 呆れた調子で母さんは言って。


「この鍵はね、方舟での移動に使われているんだ。魔力を流して空中で捻る。それだけで方舟内にあるどこかの部屋へのマドが開くのさ」

「移動先は特定できないの?」

「一つの鍵につき、一つの部屋、だね」


 飛べる部屋は限られているらしい。この鍵を使えば方舟に入れるのか。

 じゃあ、あの“トビラ”とやらはなんだったんだろう。

 鍵が入口だとすると、あの“トビラ”は出口か。


「……なんでくれるの?」

「いやぁ、研究に協力してほしくて」


 やはりこうなるか。

 母さんが呼び出す理由なんてそれしかないだろうし。

 さて困った、研究には触れるなと言われている。……関係ないか。


「分かった」どうせ、協力しないともらえないし。「で、どんな研究なの?」


 母さんは満足気に笑った。


「方舟に兵器を造りたくって」


 とんでもない提案が来た。


「資料とか、設計図とか、まだ纏めてる途中だけどね。たぶん、紅葉組の利益になるんじゃないかな」

「その話、SSIには通ってるの?」


 兵器の建設とは予想外だった。それもわざわざ方舟に。

 なぜこちらの世界ではなく方舟なのか、予想はつく。


「話はこれからつけるさ、SSIの技術は不可欠だしね」


 まず、土地の用意ができない。

 政世で大規模な兵器を建てるとなると、それなりに問題があるのだ。ただでさえ戦争のない世界。そんな場所で、目立つ兵器は造れない。許可が下りるまで時間もかかる。

 それならば、誰のものでもない方舟で勝手に作ってしまえばいい、という発想だろう。


 もう一つの可能性として、方舟にあることで真価を発揮する兵器か。

 想像もつかないが、そっちの線もありそうだ。


 いずれにしても、資料にさえ目を通さなければ問題は無いだろう。ボクは話を持って帰るだけだ。


「じゃ……今ある資料だけでももらえない? ボクからも話してみるよ」

「おお、助かるね。ついでに鍵も片方あげよう」

「両方じゃなくて?」

「ふふふ、一つだけだよ。もう片方の使い方は決まってるから」


 相変わらず、隠し事をする人だ


「あ、コーヒー。おかわりいるかい?」

「もらおうかな……いつの間にコーヒーの淹れ方なんて覚えたの?」

「これが、話せばちょっと長くなるんだな。聞く?」

「もちろん」


 このまま帰るのはもったいない。

 だって久々に会うんだから、下らない話をしてもいい。

 ボクは母さんと、世間話に花を咲かせた。


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