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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
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「で、オレ様に鍵を借りに来たと」

「ああ。問題ないだろ?」

「いや、あるね。戻って来てるか分かんねェ」


 ソファでタバコを燻らすゼウスは真剣な面持ちでそう言った。

 相変わらず、一人用にしては広い部屋だ。

「アイツの予定まで把握してねェわ、すまん」

「謝ることは無い。急な話だった」

 素直に返すと、ゼウスは意外そうな顔をした。


「なによ、どうした坊主。やけに大人しいじゃあねェの」

「こういう日もある」


 言われてみれば、ゼウスには噛み付いてばかりいた気がする。

 態度を改めようと思ったのだ。そう、なんというか――


「世話になったからな。ルシフェルを貸してくれて助かった」

「ああ……特訓だろ? 成果は楽しみにしてんだぜ?」


 ――一ヶ月の間、ルシフェルの予定を抑えてくれたのはゼウスなのだ。

 ルシフェルを相手にした鍛錬は有意義なものだったから、本当に感謝している。


「で、今度はエクスをね……」

「ダメか?」

「や、ダメってことぁねェんだ。ただアイツにも事情があらぁな。予定を合わせるよう伝えとく」


 机に広げられた書類を見て、何やらブツブツと呟くゼウス。

 筋骨隆々な男なのに、書類仕事とは。なんだか似合わない。


「なに見てんだよ」

「別に、似合わないな、なんて思ってないぞ」

「うるせェな、俺だって面倒な書類は早く片付けてェよ」

「どう面倒なんだ?」

「こう見えて人手不足でな。神官は常に空席があんだ」


 だから推薦制度を作ったとゼウスは言う。

 滅多なことでは神官に成ることは出来ないが、空席を有能な人材で減らせるからいい制度なのだと。


「なぜ推薦なんだ?」

「あー、それはな、実を言うとエクスが関わってんだその話にはな」


 灰皿に吸殻を落として。


「腕は立つのにただのNSだったんでな。そういう奴が日の目を見るよう、推薦制度を作った」


 そこに人間も含めるあたり、ゼウスの度量が伺える。


「能力はあったのか?」

「あったってェより、開花したってのが正しいな。たまにあンだ、そういうことは」

「……なるほど」


 肝に銘じておこう。


「なら、しばらくは政世にいておくよ」

「助かるぜ。滞在先は決まってるのか?」

「いや、適当に探すさ」

「なら手配してやる」


 そう言って、近くに置いてあった財布を探り。


「ここのホテルはオススメだ。このカード見せりゃ泊まれる」


 随分手厚いことで。


「優しいなお前は」

「そうじゃなきゃ生き残ってねェよ」


 受け取ったものはポケットにしまっておく。

 さて次だ。聞きたいことはまだまだある。


「……『蛇』とはなんだ?」


 聞いてみると、ゼウスは髪を乱雑に乱して、しばらく俯いた。

 話しにくいことなのか、話せないことなのか。


「方舟に封印した『何か』だよ」


 濁すように、ゼウスは言った。


「方舟の深層、その一番底の底。そこにやつはいる」

「封印……?」

「しっかりと閉じ込めてあるはずなんだよ。二度と悪さ出来ねェようにな」


 気分が悪くなったのか、タバコを一本咥えて。


「世界がこうなる前、オレと兄貴の二人で封印したんだ」

「お前、弟だったのか」

「言ってなかったか?」

「初めて聞いた」


 紫煙が燻る。


「まぁ……兄貴とオレで封印した。それは確かだ。兄貴は蛇を監視するために方舟の管理者に、オレは封印の監視員になった」


 懐かしむような様子はなかった。今もはっきりと覚えているのか、その口調は強い。


「しかしまぁ、二千年以上も昔のことだ。封印を見に行くにしても……」

「しても?」

「オレはそこまで潜れない」


 深層は気配を探りにくいと、確かに誰かが言っていた。

 深層を自由に移動するNSは珍しいとも、確かに聞いた。

 そこには蛇が関わっているのか。


「蛇が外に出てるかもしれねェ。なら人間の世界にも何かが起こってる。早いとこ魔導石を回収して、もう一度封印を張り直す……これが目的だな」


 しかし問題点も多いとゼウスは続ける。


「魔導石に関しちゃ、不確定要素が多くてな……その出現は歴史に刻まれるが、逆に言えば歴史に刻まれるまで現れない。簡単には手出し出来ねェわけで――」

「だから、観測できる世界を広げる、と?」

「冴えてんねェ! その通りだ! そのためならなんだってやる。それが兄貴の方針さ」


 さっきからもしやと思っていたが、あえて聞かなかったことがある。

 ゼウスの兄と言うのは――


「ノア様と兄弟なのか?」

「そうだが」

「……」


 ――あっさり言ってのけるな。


「言ってなかったか。ノアはオレの実の兄貴さ。それこそ、生きてた頃は」


 言いかけて、ゼウスの肺に煙が入った。


「この話やめるわ」

「どうした急に」

「気分じゃねェし、教えたくねェ」


 たっぷりと燻らせて。


「『蛇』の正体に関しちゃ、オレらにもよく分かってないことが多い。ただ、一つはっきりしてることがある」


 今度は、蛇の話か。


「やつは人間の作り方を知ってる」


 ――心当たりがあった。

 いや、考えすぎか。しかし。

 おそらく、おそらく、だが。ゼウスが言っているのは、単純な性行為の話ではない。どうすれば人間が増えるのか、そんな単純な話ではないはずだ。

 ゼウスの言いたいのは、おそらく――


「やつはアダムを創った」


 ――そういうことだ。


「なら、なぜノア様が神なんだ?」

「今のところはってことさ。玉座に座った者が神になる。方舟はそういう場所だからな」

「なぜ分かるんだ、アダムを創ったと」

「状況証拠だ」

「それだけか?」

「揃いすぎてるからな」


 話せることはそれだけだとゼウスは言って、手を僕に向けて払った。

 丁度いい、僕にも確かめたいことが出来た。伝達も済んだし頃合いだろう。

 それに、そろそろ鍛錬の時間だ。


「ドイツに向かう」

「おう。良きに計らえ」

「何様だ貴様」

「ゼウス様々大神官様でェす」


 気の抜けた返事だな。


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