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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
124/166

次の作戦へ

「今日会議だっけ」

「あ? あー……」


 日付を思い出そうとした。

 方舟では意味が無いことを思い出した。


「そろそろ戻るか?」

「“トビラ”、どこに開いてるって?」

「待て、ミカエルに聞く」


 石畳の街の片隅で、ジェノンは適当な段差に腰掛けている。


 ヒュっと身を躱しながら、ポケットをまさぐった。


「あれ、どこだ?」


 端末どこいった。

 利き腕側のポケットに入っているはず。

 ヒュっと身を躱す。

 どこにしまったか思い出そうとして、背中に手を着いた。


「そうだ、鞄」


 肩提げの鞄にしまってジェノンに預けたっけ。


「悪い、俺の鞄を投げてくれ」

「はいはい」


 ヒュっと身を躱す。

 鈍い音がした。


「今ので最後か?」

「らしいな」


 投げられた鞄をキャッチして、中をまさぐった。


「刀無し、魔力無しでも相手にならん」

「オマケに直接攻撃も縛ってやったろ」

「それでもだ」


 あったあった。


「街中のチンピラじゃあ、肩透かしだろうが」


 端末を耳にあてながら、地面を見る。

 殴ってもいないチンピラ達が、お互いに重なるようにして倒れていた。


「ああ、ミカエルか? 教えて欲しいんだが、ここから方舟に戻るには――」



◆ ◆ ◆ ◆



 あの敗北から一月が経っていた。

 その間に鍛錬を重ね、少しずつだが強くなった自覚がある。

 ジェノンの指導は確かなものだ。


「ちょっとさースサノオさー、お姉ちゃんに冷たいんじゃないかな最近!」

「何が姉だ。お前はただの同僚だ」

「センパイなんですけどー!」


 方舟に戻った僕を待ち構えていたのは不機嫌極まるミカエルだった。

 これから予定があると言うのに困ったものである。


「会議終わったら遊び! ケーキ食べたいんだからね!」

「一人で食ってろ」

「やーだーやーだー! ちゃんとした喫茶店いーきーたーいー!」


 一人で行けばいいものを、どうやらジェノンとつるんでいるのが気に食わないらしい。

 適当にあしらっておくしかない。


「次の作戦次第だ。予定が空くかどうかはな」

「何よもう、作戦、作戦、作戦! スサノオの頭ん中には戦うことしかないわけ!?」

「悪いか」

「悪いって前から言ってんじゃんか!」


 さて、本当に行かないと。ノア様との謁見に遅れるわけにはいかない。


「そろそろ行く。ミカエル、くれぐれも部屋を汚すなよ」


 帰って早々大掃除をしたこっちの身にもなってくれ。




「で……結局、ミカエルがゴネにゴネたと」

「申し訳ありません……遅れるつもりは毛ほども……」

「良い。面を上げよ」


 そんなこんな、ようやっと玉座に辿り着いた。

 僕が来る頃には既に揃って――というより、今回招集を受けたのは、二人だけのようだった。


 僕とゼウス。

 たった二人。


「じゃあ早速聞こうかねェ……ノア様よぉ、今日はどう言ったご用向きで?」

「そう畏まるなゼウス。なに、少しな」


 ノア様はと言うと、神妙な面持ちで大きな本のページを捲っている。


「ふむ……やはり見当たらん」


 そう言うと、ノア様は本を閉じた。


「『蛇』に動きがある」

「……何? 封印はどうした」

「歴史には綻んだ形跡など微塵も綴られておらん。しかし、確かなことだ」

「根拠は?」

「やつの気配が日を追うごとに強くなっておる。何らかの方法で脱出したか、それとも……」


 話に混ざれない。

 蛇。封印。そんな単語が何度も飛び交う。

 なんとか理解しようと耳を傾けていると、聞いたことのある名前が飛び出す。


「紅黒……と言ったか。なぜあれがまだ生きている?」

「なんだと?」

「数年前、ルシフェルが暗殺を企てたはずであろう。あの時、成功の報告を受けた。しかし――」


 不意に、ノア様の目が僕を見た。


「――スサノオ。貴殿は確かに紅黒を見たのだな?」

「見たどころか。戦闘になりました」

「処分したのかね?」

「……いえ。結果は敗走です」


 相変わらず、事実は苦いままだ。


「フハッ! 笑えるぜ、天下のスサノオ様々が! 負けたってェのかぁ?」

「うるさいぞ、ゼウス」次は負けない。「あの時は色々とおかしかった」


 そう、圧倒的有利な状況を覆されたのだ。

 紅黒の実力は確かなものだが、もしかするとそれだけではないかもしれない。


「やつは魔力を使っては来ませんでした。その代わり……」

「代わりに? なんだ、言ってみよ」

「……赤いオーラを使います。殺気、と呼んでいました」


 反応したのはゼウスだ。

 首を傾げるノア様とは対照的に、少しだけ強く僕を睨んでくる。


「殺気だァ?」

「ああとも。本人の口から聞いた。確かに殺気と」


 それから、これも言った方がいいだろう。


「なんだったか……魔力、循環……? 反転、だったか。確かにそんなことを言っていた」


 やつの正式な名前はうろ覚えだが、記憶にはっきり残っている部分もある。


「紅骨の96番。故に紅黒と」


 大きく大きくため息をついて、ノア様は指を組んで言った。


「ゼウス、魔導石はどこに?」

「指示通りだ。西洋地区のドイツに移動させた」

「よろしい。ならばヘルメスを使う。紅黒の動向を監視せよ」

「あい分かった。見つけ次第、どうする?」


 ゼウスの言葉に、ノア様はしばらく考えた。


「『蛇』との接触を待つ」

「いいのか?」

「うむ。下手な行動は控え、敵の動きを待て」


 なるほど……ドイツ。

 政世の管轄か。

 だから僕が呼ばれたと。


「スサノオ、神官を一人貸す。紅黒と蛇を捉えて見せよ」


 さて、ようやっと出番だ。


「御意に」


 面目躍如の時が来た。



◆ ◆ ◆ ◆



「やったやったやった! もっちろん私だよね? ね! ね!?」

「いや、今回は他の神官を借りる」

「なんで!?」

「理由は色々だ」


 部屋に戻って話の内容を伝えた途端、ミカエルがはしゃぎ出した。

 どうやら作戦に同行できると思っていたらしい。


「お前は顔を見られてる。紅黒に近付けないなら意味がない」


 連れて行かない最たる理由はこれだ。

 僕を助けた時、それから学校でのこと。

 ミカエルは顔が割れている。

 能力はまだ見せていないはずだが、高田さんは一度見聞きしたことを絶対に忘れない。

 紅黒にも当然、警戒するよう伝えているだろう……というのはジェノンの受け売りだが。


「じゃあ誰を借りるのさ! 私以外にそんな優しい神官いないよ?」

「あのな……」


 当てはある。


「俺を神官に推薦した奴があと一人いるだろう。今回はそいつに頼むことにする」


 そういうと、ミカエルは驚くほど静かになった。


「そういうわけだ。エクスシアとやらに会ってくる」

「やめとけよ」

「なぜだジェノン。どうしてミカエルと同じ反応をする」

「そりゃあ、ね」


 部屋の隅に置かれたパソコンを弄りながら、ジェノンはこちらを見もせずに言った。


「そいつ、ぼくを殺そうとした神官だから」

「なんだと」

「言った通りさ。宗世の神官、エクスシア。異端審問と、他宗派の撲滅を主にやってるやつだ」


 画面の電源を落としてから、ジェノンが椅子を回した。


「実力は折り紙付き。手も足も出なかった」


 嘘をついている様子はない。あっても分からないのだが。


「なら問題ない」


 ジェノンのことはまだノア様にも知られていない。

 はずだ。

 このまま黙っておけばなんとでもなるだろうし、会わせなければいい。万が一出くわしてしまっても、ジェノンはその体からして変わっているのだから、やはり問題ないだろう。


「そうか」と短く肯定して。「気を付けろよスサノオ」

「どうして」

「アイツ、相当な変人だぞ」


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