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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Beyond belief
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なぜ拘束した?

 ――たんかー、担架。タンカーだって。誰か持ってきて速く。――そうそうついでに動けないよう縛って――――よしこれでいい。

 ――いや驚いたな! まさか人間が私にねー。これで魔力使えないんでしょ?

 ――末恐ろしいなぁ……ま、ゼウスなら問題ないでしょ、パパっと連れてくから、みんなあがっといて――



 ……。

 …………。

「……うあああああ!」

 ――なんとか弾かないと、この軌道確実に斬られる。腕を、腕を右腕を盾にして――

「あ、おはよう」

「ああああああ!?」

「あっはは、何そのリアクマジウケる」

「あ……?」剣、を、や、り、「あ? 」過ごし――「…………あ」

「随分なお目覚めだね、君」

「ミカエル! 貴様――」勝負はまだ付いていないぞ、と言いかけて「――なぜ拘束した?」直前で、質問に切り替えた。

 どうやら座っているらしい。

 肘掛と背もたれ――豪華な椅子だ、きっと客人用のものだろうと思うだろう。


 今その椅子の上で拘束されている、僕を除けばだが。


「うーん。色々と理由はあるけど、まずはそうね」

 僕を指さして。

「ちょっと腹が立ったから、かな」

 拘束されている理由――理由? 理由なのかこれは――を話してくれた。

「あとは、逃げないように、暴れないように。ついでに話をしやすいように」

 ミカエルは僕より少し離れたソファに寝転がっている。

 何かのページをめくる――あれは、小説だろうか?

「私さ、政世好きなんだよね。漫才が面白いじゃん。あとアニメも最高だと思う! それに、小説も漫画も。他の世界じゃあんまりないんだよねー」

「おい」分かる言葉で話せ。「どうなってるんだ、俺は」

 ミカエルが寝返りを打って仰向けになる。

「強めの魔力酔いだよ」

 体に視線を落とす。

「私が斬るよりちょっと早く、君が気絶して倒れたの」

 通りで無傷だと思った。

 良かった、と安堵すべきなのか。

「で」いや、たぶん、まだ早いな。「ここはどこだ?」

「偉い人の部屋だよ」

 右腕が念入りに拘束されている――こちらばかりは少しも動かせない。容態を確認したかったのだが。

「あ、右腕は動かさない方がいいよ? 思いっ切り折っちゃったし」

「随分手厚いな」添え木も何も無い。「割と痛むぞ?」

「我慢我慢。そこは黙っててもらえると嬉しいかな」

 またページをめくって。

「ま、もうちょっと待っててよ。しばらくしたら来ると思う」

「……誰が?」

「偉い人だよ。この部屋の持ち主」

 頭が痛む。最初に方舟に出た時と同じだ、奥底にジクジクとした痛みが残って尾を引いている。意識もはっきりしているし、目もしっかり見えている。室内にいる内はどうやら「魔力酔い」とやらにはならないようだ。

 まぁ、それも、僕が魔力を扱えていないのが原因だろうが。

 ミカエルの服に血はついていない。どうやら着替えたのか。となると、僕は少しは長く眠っていたようだ。


 魂が体を離れることは無かったか。


 しかしこれでは鍵を握れない。まだポケットの中にあるのかは分からないが……。

「…………一応聞いとくけどさ。君の出身てどこ?」

「日本。極東地区の小国だ」

「ふーん。……じゃ本当に政世なんだ」

「なぁ」だから、分かるように。「政世というのはなんだ?」

「そこから?」

 ミカエルが本を閉じる。

 ソファの脇に文庫本を置いて、ゆっくりと半身を起こした。

「んー……幾つかある世界の一つだよ。一番平和、文化的な世界」

 理解が追いつかないのだが。

 しかし、一番平和か。

「じゃ――お前は平和な世界にいた俺に」ニヤリと笑う。「傷を負わされたわけだ」

「殴っていーい?」

「事実だろ、そう怒るな」

 平和だったとは思う。

 大きな戦争はない。大人はもちろん子供同士でも、揉めることは良しとされなかった。皆々で仲良く手を繋ごうかと言う、そんな世界だ。

 それが人類の夢だったと、我々はそれを成し遂げたのだと、授業でしきりに聞かされた記憶が朧気にあった。

 では人間が、真に皆幸せなのかと聞かれれば、そんなことは無いのだが。

「ホント、不思議。政世の子供って言ったらだいたい、棒切れで人を殴ったこともないって言うのに」

「殴り慣れてて悪かったな」つい倒そうとしてしまった。「そういう人間もいる」

 さて、いよいよ感覚まで戻ってきたか。右腕の痛みが酷くなってきた。

 深く沈むような痛み――全身がじとりと汗ばむ。

 目が覚める前からずっと椅子に縛られているのだから、休めているわけもない。ドクトルの部屋が恋しかった。

 そういえば、あいつは机を用意してくれたのだろうか。

「幾つか」つい顔をしかめる。「あると言ったな、世界が」

 ミカエルを見る。ソファに置いた小説にまた手を伸ばしていた。

「ん、まぁね。もういいっしょ、あんまり関係ない話だし」

 どうやら詳しく話すつもりはないようだ。これ以上なにか聞き出すのは難しい。


 諦めて、部屋を観察してみる。


 書斎……だろうか。目の前には仕事机が置かれている。机の上は整頓されていて、下敷きと万年筆、あとは数枚紙が置かれている程度だ。

 本棚の類はどこにもなく、この部屋が仕事をするため――あるいは尋問のため――に使われていることが伺える。

 頭上に蛍光灯が一つ。どこから電気を引いているのだろう。

 壁も床も天井も、真っ黒な壁紙が貼られている。暗くはないはずなのに、なんだか不思議な感じだ。

 そして……机の背後に、扉が一つ。

 普通逆じゃないか?

 僕の背後に扉があるべきではないか。

 あの扉から誰か入ってくるのか、それとも、僕の背後にもう一つ扉があるのか。

 広い背もたれのせいで後ろが見えない。


 不安に駆られた。

 今後ろから何かされたら抵抗できない。いや。前からであっても抵抗できないことに変わりがないが。

 見えないということが怖かった。

 いつまでも後ろを見ようとしても仕方がないことは分かっているが、どうしても。


 見えないと分かっているものほど見たくなるのだ。


 首を回して……もう少し体の自由が利けば。

 なんとか後ろを見ようともがいてみる。

 上半身を捻る――「痛ッ」――やめておこう、右腕が軋む。処置も施されていないのだ、下手に動かすのは良くない。

 汗がやまない。深呼吸を繰り返す。

「お……時間だ」ソファで慌ただしく姿勢を正す。「来たよ」

 今の今までだらけきっていたミカエルが、急に姿勢と服装を正した。ついでだろうか、前髪を弄っている。

「そんなに変わらないだろ……」

「君は黙ってて!」

 ドアノブを回す音。

 前の扉からだ。それが押し開けられる。

 ゆっくりとまず、この部屋に入ってきたのは大きな溜息だった。

「ったく……オレ今忙しいんだけどォ」

 続いて、開かれた扉の向こうに見えたのは。


「お呼び出しとはずいぶんじゃねェか」


 その溜息に勝るとも劣らない大男。

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