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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
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ちょっ待てよミカエル見たいアニメあるからってそんな――行っちゃった……

 冷たい……。

 なんなんもう。

 ミカエル何で俺に任せたの?

 本人どっかいったし、なんでコイツが起きるまで看てなきゃいけないんだろ……いや、言いたいこと分かるよ? 足繋いだの俺だし、魔力で治癒し続けるのが一番手っ取り早いし……でもさ、こいつの部屋なんもないんだもんさ。


つらいって。


 なんでこういうとこが似てるかね。俺に足らんとこ持ってるってならもっとさ、ゲームとかさ、漫画とかさ……持ってろよ! ホント!


 いやいやいやいや、ちょっと待って。まだ聞いて。お願い。そこの君だよ。

 俺の愚痴聞いてよ。

 ちっちゃい女の子が急に来てだよ? しかも突然足の縫合頼まれたってわけ。そんなことある? 俺は色々忙しいのに……や、予定はあったよ。あと半日寝倒すって予定がさ。それがおじゃん。


 あーあ。俺の半日。


 我が弟ながら無茶しすぎって思うんだよな。皆どうよ?コイツの行動おかしくない? なんか怖ぇよ俺。


 はぁ……ゼウスの真似しても面白くないわ……はよ起きろ。


 誰も見てるわけないし、適当に魔力で回復掛けとくか。もうほとんど繋がってるけど、ちゃんと動くかなぁ。他人の四肢を繋ぐのは初めてじゃないけど、何せ突然のことだったし……準備期間ってのがさ。


 とにかく困った。さっさと帰って寝直さないと――


「うるさいぞ…………」

「あ、起きた?」

「…………お前、そんなに喋るんだな」

「これが普通さ。会ったばっかん時がおかしかったの」

「ルシフェル……」


 ま、いいや。起きたなら一応調子でも聞いて――ああ、もう! やかましいぞ!」

「スサノオ、後半声出てる」

「お前の! 思考が! ガンガンと! うるさいんだよ!!」

「つれないこと言うなよー。お兄ちゃんが治してやったんだぜぇ?」

「気持ち悪い! ルシフェルはもっと真面目なはずだ!」

「バハハハ!! バッカでー! 余所行きの俺が本物だと思ってんだ?」

「はぁ……うるさい……静かにしてくれ……」


 ここは、どこだ。

 起きたらここにいた。

 少し前からルシフェルの目を通して見ていたが、どうやらコイツの部屋というわけでもない。いったいどこに連れてこられたんだ。

 ミカエルが来たところまでは覚えているが――ちなここ医務室な。魔力使えんのしかいねぇからあんま使わんけどあると色々便利なん――うるさい。本当に。勘弁してくれ。



 それにしても医務室か。

 ということは、やはり脚は。


「ルシフェル」

「なん。どしたん」

「…………一人にしてくれ」

「エッ!! 今日はもう帰っていいのか!?」

「そう言ってる」

「うめ……うめ……」

「さっさと行け……頼むから……」


 そろそろ限界だ。

 そもそもなんでまだ思考が繋がったままなんだ。これは現実なのか。意識が朦朧とする。そのせいか。ルシフェルの思考が頭の中に響いてくる。近くにいるというだけでここまで影響が出るなんて。


「あっそうだ」

「早く行け」

「隣にいるんよ」

「……誰が」

「ジェノンとか言ったっけ。その子」


 居るのか――いるいる。どうすんの?


「入ってくるな」

「それ、どっちに言った?」

「両方」

「へいよ。んじゃ、ジェノンも連れてくわ」


 ヒラヒラと手を振って、ルシフェルが出ていった。

 やっと、静かになった。

 静かに。


「クソ……」


 ああ、クソ。なのになんで。


「ああ……ああああ……ああああああ!!」


 うるさいんだ。なんて。なんてうるさい。


「クソォ!!」


 頭の中に、映像が何度も何度も何度も何度も何度も――何度も。

 何度だって、何度でも、僕に反芻させてくれる。

 認めたくない現実を。

 ありのままの事実を。

 ただただ目の前に並べ立ててくる。


「こんな……! あんなことが……!」


 砕くつもりで奥歯を噛む。

 ギチギチと嫌な音が響いても、その瞬間の音も、光も、痛みも、消してはくれない。


 顔を覆った手の指が、千切らんばかりに僕の髪を掴んだ。


「この俺に対して! 猪口才な、あんな、小細工で! この俺が! この俺が!!」


 負けた。


「屈辱だ……!」


 負けたんだ。


 どんなに卑怯な手段であろうとも、相手は勝った。

 罠に、策に、知に。無惨に無様な負けを晒したのは、結局僕だ。


「このスサノオが! 負けるなんて!!」


 声が震える。はっきりと言ってやったはずなのに。声が震えるんだ。雫の熱。熱い呼吸。跳ねる肩。


 胸に空いた穴。


「ああ、クソ……! クソォ…………!!」


 痛みなんてものじゃない。

 痛みがあればどんなにマシか。

 痛みで喚き散らせれば、どんなに楽か。


 痛みなんてものじゃないんだ。

 どこに向けていいかも分からない、ムシャクシャとして、もやりとして、今にでも動き出しそうで、でもとてつもない重さを持っていて。


 怒り。

 悲しみ。

 憎しみ。

 悔しさ。

 いても立ってもいられないくらいの感情が一気に押し寄せて、僕の何もかもを飲み込んで、一向に過ぎ去る気配もない。

 ただ苦しさに叫び、喘ぎ、狂うしかない。


 呼吸の仕方さえ分からなくなる。

 こんなことが許されていいのか。

 敵に塩を送って。

 負けて。

 何も手にせず。

 目的も果たさず。

 あまつさえ。あまつさえ、女に助けられた。

 弱い生き物だと見下していた、女にだ。

 ミカエルに。

 どうしてこうなったんだ。

 強さの証明も、勝ち続けた道も。全てを失って。


「みっともない……! 情けない! まだ! まだ! まだ生きてる!!」


 なぜ僕は助かってしまった。

 なんの意味もない人生をまだ。

 無為に垂れ流して生きている僕が。なぜまだ生きている。


 命が重く、苦しい。

 なんの価値もないこの命が、何よりも重い。

 奪った命なんかより遥かに強く、僕の背中にのしかかっている。


 悔しいと思った。

 負けたことが。

 死ねなかったことが。

 負けて、終わりで、死んで。

 それで良かったのに……!



「お前も、泣いたりするんだな」


 声がした。

 その声に、視線をやることもせず。


「ジェノン」と、名を呼び。「出ていけ」


 誰も動かなかった。

 ここから出ていこうとしない。


 ギッ、と、椅子が軋む。


「挨拶しようと思ったら。何泣いてんだ」


 落ち着いた、温い声。


「生きてたんだから――」


 ジェノンの言葉は続かない。

 何かを言いあぐねて、言おうとして、そこで留まって。


「――喜べない時もあるよな」


 最後に出たのは、同情だった。


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