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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
115/166

紅骨

 痛みが頭で転げ回る。

 ドラム缶が鳴るような痛み。パニックになりそうな心を深呼吸で(なだ)めつけ、なんとか前を見た。


 背の高い女。

 不釣り合いなリボルバーと、スラリとした体つきによく似合う、美しい太刀。

 刀身は四尺程か。

 振れるか否か……構えに余裕がある。随分扱い慣れているな。

 余裕がない。仕事が立て込んでいる。藤高に回復の気配はない。放っておいてもいい。

 高田さんに絶望を。

 この女を倒せばあるいは。

 魔力は残り少なく――否、今は完全に使えない。


 銀を撃ち込まれた。


 ユダが銀剣で斬られた時のことをよく覚えている。あの時ユダは魔力で防御を張っていた。にも関わらずということは、魔力を無効化するという銀の特性は伊達ではない。

 痛みは脚。脛の辺り。骨が砕かれているかもしれない。取り出すには時間がいる。


 つまり、絶体絶命だ。


 深呼吸をする。

 深呼吸をしようと。

 呼吸を。


「……クソ!」


 落ち着かない。

 痛みと焦りで集中できない。

 何でこうなったんだ。

 何がいけなかったんだ。

 どこで間違えた。

 何を間違えた。

 勝てるはずの戦いに、何故負けねばならないんだ。

 魔力がもうない。痛みも酷い。血を流しすぎてる。

 なぜ次から次へと増援が来るんだ。

 人数はずいぶん削ったのに。

 藤高にしろ、また新たに現れたこの女にしろ。

 太刀をかわしながらそんなことを思う。

 うまく避けられない。

 皮一枚程度の傷で済んでいるが……遊ばれている。

 何かを試すような視線。踊るような余裕の振る舞い。

 秘めているな、まだまだ奥に。


 リボルバーで撃ってこない。心臓に狙いを付けるほど器用ではないのか。それとも単純に弾切れか?

 いや、撃てないわけでは無さそうだ。

 銀の弾丸を温存している。


 今のままでは好転しない。


 最善手を。


「ほらほらどうしました? さっきからかわしてばっかり! そんなに私が嫌いですか!」

「女、は、苦手だ」


 息を落ち着けている暇はない。

 近付けないのは太刀の振りが早いせいだ。

 やることは決まった。


 不安定な脚で立つ。

 剣を片手に、正中線を捉える。

 下から切り上げる動作を見せ――反応した。

 一秒。サトリの中、ぼやけて見にくいが……確かに太刀を振り下ろしてくる。


 紙一重で躱す。

 過ぎ去っていく太刀の峰を裏拳で叩き。

 地面に刺さった切っ先を、さらに踏みつける。

 猶予は三秒。


 一気に息を吸い、止め。

 間合いを潰し。

 脇に構える。


 横凪ぎ一閃。確かに捉えた。

 この一撃は当たる。

 一秒後、直撃を予見して――


「正直な子は好きですよ」


 ――刃が何かに弾かれる。

 強烈な手応えだった。回転する何かに当たったような感触だ。


 がら空きの胴。しかし太刀は封じた、この状況なら打つ手は限られる。


 銃を撃つか直接殴るかの二択だ。ここまで限定すれば予知は容易い。


 銃口がこちらを向く。

 刀を持った左手で、僕より外側へ――


「ガッ」


 また、弾かれるような痛み。

 撃たれる前に距離を取る。


 触れることができない。

 攻撃を試みても、その全てが弾かれる。

 魔力ではなさそうだ。力の正体を見極めなければ。


 思考を巡らせる。

 近寄れるだけの体力はまだある。相手の力さえどうにか出来れば攻撃だって入るだろう。

 有効な一打。まずはそれが入ればいい。


「鬱陶しいな……」


 更に距離を。

 追ってこない。間合いを詰めるのは得意ではないらしい。

 呼吸が落ち着いて来た。


「お前の力、看破してやる」

「どうぞ出来るなら」


 覚悟を決めろ。

 ここで勝つ。

 方舟に、また新たな仲間を引き入れるためだ。

 背に腹はかえられない。

 自分の脚に、自分の刃を突き立てる。


 弾丸があるのは脛だ。

 細かい位置が分からない以上、斬り裂いて摘出することはできない。そんな時間もないだろう。

 ならば、取れる手段は一つだけ。


「お前を倒す!」


 自分の片足の、膝から下。

 関節を狙って、刃を引く。

 脛を体から切り離す。

 無くすといけないから、鍵を使って部屋に自分の脛を送る。

 もしミカエルがいたら驚くだろうな。

 なんせ、いきなり血だらけの脚が送られてくるんだから。


 とにかく、これで魔力が戻ってきた。

 痛みも目眩も吐き気も酷いものだが、使えないよりはマシだ。

 全く使わなかった分、少しだけ魔力量も増えている。

 脚は後で治せばいい。


「……二分だ」時間を決めろ。「二分で決着を付ける!」


 全身に魔力の鎧を纏わせる。痛みにじんわりとした温もりが宿った。


 動ける確信を得た。杖のように刀を地面に立て、キッと相手を睨む。


「素晴らしい……!」

「少しは怯め」

「そこまで覚悟を持った人には初めて会いましたよ!」


 目に走った魔力が、相手の正体を映し出す。


「……その力、どこで手に入れた」


 なるほど、これは厄介だ。

 傷口を塞ぎながら考えた。



 女は赤いオーラを纏っている。



 ルシフェルがいつしか見せた、あの赤いオーラ。一瞬使えるだけの僕とは違い、この女は使いこなして見える。


「おや、貴方はこれ(・・)の使い手と関係があるのでは? 習わなかったのですか?」

「悪いがソイツとはついこの前まで喧嘩していたんだ」


 ルシフェルを知っている。

 戦世の出身か。

 さて、どう攻略していくか。

 とりあえずは、正面から行って反応を見る。


 片足で踏み切る。

 突撃はないと踏んでいたのか、女は驚いた表情で防御に回る。

 間合いは潰した。


 相手に全体重を乗せ。

 片足で跳ぶ。


「武神流――!」


 うまく使えない確信はあった。発勁は撃てないだろうという確信。

 だからこの宣言はフェイクだ。


「――獅子頭!」


 警戒して正中線をズラした相手の首に、残っている脚を引っ掛ける。


 そのまま地面に手をついて、回転に任せて投げ飛ばす。

 刀を杖にして立ち上がった。


「どうだ。効いたろ?」

「いやはや……ドッキリがお好きなようで」


 女に対して効いた様子はない。

 ここに来て、実力者が相手とは。

 なんて日だ。ついてない。


「失礼、自己紹介が遅れました。ワタクシ、魔力反転循環機構――通称『紅骨(ベニボネ)』の検体番号96番。紅黒とお呼び下さい」


 少しでも痛みを和らげよう。

 そのためなら、自己紹介だってしてやる。


「俺はスサノオ。所属は政世。階級は神官。種族は――」


 少しだけ、苦い味のする紹介だけど。


「――人間」


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