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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
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アズ・ア・ファクト/窮地にて

 あの学校での一件以来、ずっと考えていた。

 スサノオはなぜ人を斬れるのか。

 精神的にではなく、物理的にだ。


 人の体は案外頑丈に出来ていて、一太刀で両断するには相当の技量がいる。

 スサノオにそれだけの実力があるなら話は簡単だが――


「刀に細工があるのか、もしくは魔力にそういう力があるのか。詳しく検証する時間は無かったけど、ボクは後者だと考えた」


 なぜ、と口を挟みたそうな紅黒に被せる。


「アイツにとって、剣術は誇りだ。刀に細工をすることはない」


 死んだことになっても、まだ手放していないんだ。どれだけ大切に思っているかは簡単に想像できる。


「だから、たぶん、魔力にはそういう……攻撃力を高める力がある。そう結論づけた」


 もっと踏み込んだことを言うのなら、あらゆる力にプラスの作用、と言ったところか。そこまで万能とは思えないが、なんせ魔力自体が隠しルールだ。ちょっとしたチートみたいなことがあってもいい。


「だから春原にやって貰ったんだよ。弾丸に魔力込めてって」


 策は上手くハマったはずだ。


「躱されるとは?」

「それもない」

「なぜ?」

「スサノオは避けないから」


 正確に言おうか。

 咄嗟の判断なら、スサノオは避けない。

 突っ切ってぶった斬る方が早いから。


「当たるよ。絶対に」


 もう一つ拾った銃を紅黒に手渡して、その目を見た。


「信じてみないか?」



◆ ◆ ◆ ◆



 銃弾が、迫る。

 ひたひたと僕を追いかけて来たその気配は、ついにこの背中に触れた。


 死だ。


 久方ぶりの生々しい死の感覚。


 濃厚なその気配にぐわんと顔を寄せた。

 強く願う。

 死にたくない。

 こんなところでは終われない。

 ここまで来たんだ。やっと楽しくなってきた。ここで手放すなんて真っ平だ。やっと、やっと、やっとやっと、やっとやっとやっと! 好敵手になり得る相手が出来たのだから!

 価値は見つけた。命を賭けるに足る価値が。


 藤高にだけは負けて終わりたくない。

 高田さんの隣にいるべきはこの僕だ。

 二人で見るんだ。

 この世界の、本当の姿を。



 魔力にどす黒い感情が混じっていく。

 色は少しだけ薄まり、赤いオーラへと変貌を遂げる。


 オーラを外へ放出。


 走馬灯を見るように。

 死の気配が。


 時間の停滞を引き起こす。


 銃弾の速度が途端に下がる。

 動けないことに変わりはないが、これで対処は可能だ。


 刀を構え。

 心の内で、ドクトルに礼をして。


「……!」


 呼気(いきをはく)


 銃弾は回転しながら直進し、僕に向かってくる。


 集中は高い。問題なく。

 正面からなら、例え銃弾であろうと斬り裂ける。


 一つ一つ、丁寧に斬り、払い、落としていく。

 五月雨のような突然の、十字砲火が止む頃に。


 窓を打つ雨のように、鉛弾が床に散らばる音がした。


「はっ……は……」


 時間の速度が元に戻った。

 生き残った。この修羅場を。代わりに、魔力はほとんど使ってしまったが。


 肩で荒く息をする。


「藤高。お前は良くやったよ」


 だがやはり、勝つのは僕だ。


「切り札を使わせるとは」


 ドクトルめ。まさかここまで見越して、刀の強度を上げたんじゃなかろうか。そんな余計なことを少しだけ考えて、息とともに吐き捨てた。

 助かったのだからいい。それでいい。


「なん、だよこれ……? いったい今何が――」


 今ここで、絶望を刻めるのなら。


「技の名は、賢者タイム」


 恐れろ。戦け。

 僕の強さに。


「なんだその名前ふざけてんのか!?」

「俺は至って真面目だ!」

「オメーのネーミングセンスおかしいぞ!!」


 なぜそこに突っ込む。違うだろ。

 仕方ない、技のことを説明してやるか。


「この技を発動させるには幾つか条件がある」


 いつかの宿敵を習って。


「条件その一。俺自身が死の直前まで追い詰められること」

 そもそもこの技はルシフェルとの戦いで気付いたものだ。それが赤いオーラによるものだと分かったのはもうしばらくしてからのことだったけど。

「その二。覚悟を決め、力の多くを外に放出すること」


 赤いオーラの正体がなんなのかは分からないが、便利なものだ。自在に使えればもっと強くなれるだろう。


「発動すれば、さっきのようなことができる」


 これで分かったはずだ。追い詰めれば追い詰めるほど、僕はその先に手を打つ。常に一秒先の未来を見ているのだから、この技は確実に決まるのだ。


 サトリに至ったものだけが使いこなせる、自分だけが自由な時間。


「時間の進みを遅らせ、自分だけはいつもと変わらず動く。まるで万能な賢者のようにな――故に、賢者タイム」

「や、ダメだ。こいつふざけてるよ絶対。なぁ春原もそう思うよな?」

「とんだ早漏くんじゃん」

「やっぱりそうだよな!?」

「真面目に聞け!」


 まったくもう、遊んでるんじゃないんだぞ。


「弾切れには変わりない」


 予想外のことが起こったが、切り抜けたことは確かだ。残った魔力は僅かだが、些細なこと。


「鬼ごっこは終わりだ」


 魔力の流れを刀身にまで伸ばしていく。

 あれだけ弾丸を斬り落としたにも関わらず、刃毀れ一つしないとは。ドクトルに感謝しなくては。


 ようやく間合いに捉えた。もはや手の内だ。この距離なら、相手が動く前に止められる。


 傷の一つもつけられていないのに、僕は肩で息をしている。体力と魔力。双方を削られた。


「大した作戦だよ。驚いた。本当に」


 深く息を吸って。


「褒めてやる」


 長く息を吐いた。


 魔力を込めた弾丸か。魔力が霧散せず残るとは予測していなかった。

 呼吸だけでは読めない攻撃の中身。サトリの弱点を的確に突いてくるなんて思わなかった。

 高田さんの作戦だろう。

 あの人はよく見ている。僕が何を見ているかを。


 他の案はいくつかあるだろうが、その起点をどちらにも置いている。僕がどう動こうと対処できるよう指示を出しているのだろう。


 さて、どうしたものか。

 司令塔とは厄介なものだな。

 ただの射撃にこれほど意味を持たせるか。


 ゆっくりと息を整える。

 残った魔力を循環させ。


「それでもまだ、届かないがな」


 自らを鼓舞する。

 怯むことはないんだ。相手二人に魔力特有の揺らぎはない。物に込めることが出来ても、自分で使えないなら脅威足りえない。


 体のどこにも異常がないことを確認する。

 踏み込める。

 手の痺れはない。

 呼吸も続く。


 ぐっと脚に力を込めた。


「他にもあるなら見せてみろ!」


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