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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
109/166

ベット・オン・ヒューマニティ

 整理から始めよう。

 ボクはスサノオと会敵し、他の収穫は無し。

 一方藤高は春原と合流したものの、その先でNS――恐らく名有りの――と会敵。


 三人が三人とも逃げられず、自力でどうにかするしかない状況というわけだ。


 一番追い詰められているのは藤高だろう。春原は魔力とやらで傷を治せるとは言え、実践した時のことを思い出すに完治にはかなりの時間を要する。ろくに動けない味方を抱え、強力なNSと対峙しなければならないのだから。


 指示が必要だ。そのためには、向こうの細かな情報が欲しい。


 スサノオはきっと、妨害してくるだろうが。


「さて……曲目はどうする? クラシック? ラテン? ジャズ? それともEDMとか?」

「祭囃子なんてどうですか? 神楽が好きなんですよ」


 睨み合ったまま動けない。

 ボクは今すぐにでも逃げ出したいし、さっさと合流したいのに。

 ドアに意識を向けるだけで、恐ろしいことが起こる気がする。


「……スサノオはさ」


 出来ることを探らなければ。


「どうしてこんなことをしてるんだ?」

 

 自分に出来ることを。

 部屋をそれとなく見回してみる。


「別に、個人的な理由はありません。俺も色々と仕事がありますから」

「大変だな、お前も」


 とにかくドアから離れるしかないか。ヒシヒシと肌を刺すような敵意が痛い。

 頑丈そうな机に腰を預ける。


「で、それってどういう仕事なの?」

「言えませんよ。口止めされてるので」


 雇い主は優秀だな。

 そしてスサノオは馬鹿だ。

 少なくともこれは個人的な感情によるものではなく、方舟も方舟で、考えがある。それは分かった。


「人殺しが仕事かよ」

「好きでやってるわけじゃありません」

「嘘だな」


 たぶん本当のことだろう。


「好きじゃ無かったらあそこまでやる?」

「……高田さんには分からないこともあります」


 分かりたくもない。

 好きでないならやめればいいんだ。それだけの力は持っているはずなのに、スサノオはただ、人殺しの沼に甘んじて浸かっている。

 首までどっぷりと。


「ふむ、興味あるね。ボクに分からないこと?」


 コイツは何一つとして考えていない。

 何一つ賭してもいないんだ。

 覚悟もなく、力が、武器が、得物があるから、獲物が在るからという理由だけでここに立っている。

 ボクも似たようなもんだけど。でも、確実に違うこともある。


「是非とも教えてほしいね。ゆっくりお茶でも飲みながら」


 恐怖だ。

 ボクは恐怖を持ってここに立ち、命の終わりを覚悟している。

 そのための準備が万全かと聞かれれば――これからそうすると答えるしかないが。


「教えてくれよ。お前にあって、ボクに無いものを」


 自分の意思だ。

 誰かに流されてここにいるお前とは違う。

 ボクは自分の好奇心で誘いに乗り、自らの意志でここにいる。

 これがボク一人の行動ならどうだって出来ただろう。この命はあまりに軽く、頼るには心許ないものだけど。


 でもそれは、ボク一人ならばという話。

 この命はもうボク一人のものじゃない。藤高はボクの死を許さないだろう。春原だってそうだ。

 組長はきっとボクの帰りを待ってくれているはずだ。

 そして何より――


「助けなきゃいけないものがあるんだ。それもないお前に何がある」


 ――仲間が助けを待っている。


 乗り気かどうかじゃない。

 これは、やらなきゃいけないことだから。自分でそう、決めたことだから。


「ご大層なことですね」

「そうかい」

「ええ本当に。……この世界に、それほどの価値がありますか?」

「今から価値(それ)を見つけるんじゃないか」


 らしくないかな。らしくないか。

 そもそもボクらしさってなんなんだろうな。こうやって悩むことがそうなのかもしれない。


 だけど、それももう終わりだ。

 準備は整った。

 開けられていない部屋はもう幾つも無いのだから。


「さて、ボクはもう行くよ」

「逃がすと思います?」

「思わない」


 だからこそ。


「だから、賭けをしないか?」


 今こそ、命を天秤に掛ける時。


 スサノオの目が鋭くボクを射抜く。


「賭けですか。何を賭けます」

「そうだね……どちらが先に目的を達成するか、なんてどう?」


 途端、その鋭い視線が緩くなる。

 まだだ。コイツを勝負の場に上げなければ。


「ボクはここに、仲間を助けに来た」


 情報を明かす。賭けを成り立たせるために。


「お前の目的はなんだ?」


 ここで乗らなければ、また時間を稼ぐだけだ。藤高ならきっとうまくやる。もし行き詰まったのなら、ボクの指示を仰ぐはずだ。

 だから、今はどちらでもいい。動き出せれば本望だ。それが出来ないのなら、スサノオはここに釘付けにする。


「俺の目的は……そうですね」


 だがどうやら、スサノオは乗ってくれるらしい。


「貴方に絶望を刻むことです」


 絶望か。

 面白い。


「目的は話しました」


 さぁ、ここが正念場だ。


「負けた方は何を払います?」


 賭けられるものなど、一つしかない。

 それがどれだけ価値のあるものか――スサノオの判断に委ねるしかないが。


「ボクが負けたら、方舟に乗ってやるよ」


 だから賭けよう。

 ボクの未来、その全てを。


「負けたらお前の下に着く。お前の望む全てをやろう」

「……本当に?」

「ああ。悪い話じゃないだろう?」


 だからその代わり、お前にも、命を賭けてもらうぞ。


「もしボクが勝ったら……スサノオ。君には一度だけ、まともに攻撃を受けてもらう」


 好条件なはずだ。これ以上ないほど。

 ボクは負ければ全てを失う。スサノオは負けても、一度攻撃を受けるだけでいい。


 その隙に逃げ出せば、ボクらの作戦は終わるのだから。


「面白い」


 スサノオが、不気味に笑った。


「乗りましょう。貴方の人生を貰います」


 さぁ――


ここが正念場(ゲームスタート)だ」


“Bet on humanity”

「人間性を賭けろ」

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