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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
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タッチ・ザ・エクスプロージョン

 さてはて、あの挑発をちゃんと聞いてくれたかどうか。返答は無かったあたり、詳しい使い方は分かっていないのか、それとも聞いていないか……とにかく。


「突入します」

「生きて帰って来い」

「ハハハ、死ぬつもりはありませんよ」


 そう言って、首に手を当てた。

 じっとりと汗ばんでいた。

 掌の震えを感じる。

 気丈に振舞っているけれど、恐怖を振り払うのはそう簡単なことじゃない。


「帰ってきたら、抱きしめてください」

「いいとも! 潰れるほど抱きしめてやるさ!」


 組長との最終確認を終えて、人員に撤退の旨を伝えたのを聴いて。


「さて……」


 後戻りできない所まで、来た。

 もう投げ出すことは出来ない所に、立ってしまった。

 ボクは今、戦場に踏み込んだんだ。

 行くしかない。

 吐いた唾は飲めない。

 助けるために。

 春原と、囚われた同士を。


「大丈夫だ、高田。オレもいるじゃん」

「ああ、そうだったね。藤高がいれば退屈しないよ」

「言いやがる」


 扉の前に立つ。


 人の気配がしない……玄関はすでにもぬけの殻……というより……


「ここまでやるか」


 血の海が広がっている。

 生存者が後何人いるのか不明瞭だ。どうにか春原が生きていればいいのだが。

 すでに移動していると考えて――


「――反対側」

「何?」

「狙撃ポイントから見えた部屋から考えて、反対側に春原がいるかもしれない」

「もう外に出てるってのは?」

「無いね……」


 ――材料はある。

 死体など見たくもないが、一応一瞥だけはしておいた。少しだけ見慣れたことに吐き気を催したが、今は置いておこう。


「刀傷。首が落とされてる。……全員が、徹底的に、だよ」

「逃がすつもりは無ぇってことか」


 階段を登る。

 二階のどこかにいる。

 名有りのNS。

 負傷したであろう春原。

 そして、スサノオが。

 廊下は長く、曲がりくねって、射線を通しにくい。会敵しない限りは藤高を活かせない。

 進むしかない。いつどこで敵が出てくるか分からないこの迷宮を、ただ前へと進むしかない。


「最短ルートで行く」

「OK。警戒は任せろ」

「いや、藤高は別ルートでいけ」


 賭けに出るしかないようだ。

 また、不条理なギャンブルに、身を投じるしかない。


「二手に別れて、藤高は紅黒を。ボクは春原を探す」

「……敵と会ったら?」

「ファーストコンタクトで倒せなければ逃げる。名有りの神官がいても逃げる。直感で勝てないと思ったら、逃げる」


 ボクらの目的は相手の殲滅ではないから。

 紅黒を解放するか、最悪、春原を救出すれば勝ちだ。仲間のことはまた仕切り直せばいい。今いる人員を減らさないこと。それが最優先。


「スサノオとは絶対に戦うな。タイマンなら勝てない」

「りょーかい」


 十字路に差し掛かった。


「それじゃ……」

「指示はくれよ?」

「もちろん」


 拳を突き出す。


「確認しよう」

「おう」


 二人で拳を合わせて。


「互いを見捨てる覚悟はあるか?」

「もちろん」

「何より命を優先するか?」

「もちろん」

「勝算は、あるか?」

「そりゃ、高田次第だろ?」


 ニヤリと笑った。

 藤高がいて良かったと、心底思う。


「行ってらっしゃい。ボクも行くよ」

「異議なしだ。幸運を祈ってる」


 生きて会おう。

 この会話が、聞かれていないことを祈った。



 実際のところ、スサノオと会うのはボクだろう。直接脅してみたいと言っていたし、藤高にさして興味はないだろうから。

 だから確認させたのだ。

 スサノオと出くわせばタダでは済まない。どちらかを見捨てることになる。

 今戦力になっていないボクよりも、藤高が生き残った方がいいだろう。

 その方が効率がいい。そのはずだ。そうに決まっている。

 そうでないと、この震える足を、前に出せない。

 屋敷の構造を覚えていることが恐怖を煽るんだ。

 忘れることを許さない頭が、ボクを前へと進ませていく。

 この部屋の中に、春原はいるだろう。端末への連絡がないから、ひょっとしたら重症かもしれない。


 怖いと思った。

 扱えもしない銃を持っていることが。

 敵は手練ということが。

 ボクは役に立たないということが。

 それが、何より怖いと思った。


 ドアノブに手を置いた。

 力を込めて、回す。

 ドアを引いた。

 ……やっぱり、ここにいたか。


「お待たせ。待った?」

「いいえ。俺も今来たところです」


 見つけてしまった。

 見つかってしまった。

 踏み入れてしまった。

 見え見えの罠に。

 春原 新芽(ハルハラアラメ)という餌に、ボクは醜くも食らいついたのだ。


 例え、そこに春原本人の姿が無くとも――


「なら良かったよ」


 ――スサノオがここにいることは分かっていた。


 それはただ、なんとなくという直感ではない。

 確信があった。

 春原とすれ違ったかしっかり戦闘になったかは分からないが、スサノオはその後この部屋にいたこちらの味方を殺したはずだ。僕はその、死ぬ直前までの会話を通信機で聞いていた。

 部屋の特徴。反響の仕方。間取りから把握し、それぞれの部屋に振った番号。味方が最後に伝えたスサノオの位置。


 そして、ボクが行った挑発。


「羨ましいよ、お前が」


 スサノオは律儀に守ったんだ。

 誰に言われたわけでもなく、自分の中で決めたことを。

 ただ、ここでボクを待つということを。

 スサノオは、律儀に守った。


「高田さんのお誘いなんですから。受けないわけには行きませんよ」

「嬉しいね。一緒に踊ってくれるって?」


 約束を守れるだけの強さを、この男は持っているんだ。

 きっと、ボクが来ない可能性だって考慮したはず。

 それでも待った。

 ボクが来ると期待して。


「貴方がそれを望むなら――」


 刀を納め、ひたすらに待てた。


「――踊りませんか? 俺と一緒に」


 この瞬間、ボクに向け、刃を抜き放つためだけに。


 コイツは、じっと待てるほど、強いんだ。


『高田。聞こえるか』

「……」通信機から、声。「……ああ」


 気取られないように返事して。


『春原は見つけた』

「嬉しいね」

『ただ……』


 インナーを濡らす汗が冷たい。


『悪い、下手打った』


 震え出す体を、必死に止めた。


『NSだ。逃げられそうにない』


 どうやら、最悪のシナリオだ。


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