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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
104/166

ステイ・アウェイ・ミー/次への期待

 呼吸が聞こえる。

 車の上で目を閉じて、中の音を聞く。

 狙うは藤高一人だ

 他の命は今はいらない。とにかく戦力を削る。


 車内にいるのは三人。高田さんと藤高。それから見知らぬ女。


 藤高には期待などしていないが、これは見せしめだ。

 方舟を敵に回すとどうなるか。

 それを思い知らせなければ。



◆ ◆ ◆ ◆



「撃て! 撃て撃てって! 何やってんスか!」

「オレェ!? 冗談じゃねぇ当たんねぇよ!」


 さて、落ち着こうか。冷静に考えよう。

 スサノオは上に乗っていて、車の速度は現在時速54キロ。現在地から逆算して――


「混雑状況から予測して、5分も走れば高速の入口に着く」

「へぇ!?」

「春原、そこ右。速度を62キロまで上げて。それで信号にひっかからずに済む」


 高速に乗ったとして、目的地まで着くには――


「高速に乗る瞬間は速度が緩む。20キロ以下でないと通れない。藤高もその速度域なら撃てるだろ? とにかく息を整えろ」


 端末を取り出して、登録したばかりの番号をタップする。


「勝つぞ。この状況を乗り越える」


 もう一度、スサノオが天井を突く。


「藤高、ボクの隣に来い」


 ボクもろとも殺すことはしないはずだ。

 やつの弱みは存分に使おう。


「春原、ここから直進。速度を早めて」

「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう! こんな所で死ねるか!!」


 言われるがまま、速度を上げながら。


「藤高くん! 銃貸せ!」

「なに!?」

「藤高、言う通りに」


 助手席に銃を投げた。

 アクセル踏みながら、銃を構える春原。


「もう少し左。そのまま五度上」

「私は出来る、私は出来る、私は出来る……!」


 呪文のように呟いて、春原が撃った。

 攻撃が止む。


「落ちたァ!?」

「それはないな」どこにも姿が見えない。「だが当たったはずだ。回復には時間がいる」


 高速道路の入口が見えた。


「春原、ハンドルを左に!」

「やってやるぜオーライ!!」


 速度域をそのままに、空いた道を駆け抜けていく。大したテクニックだ。相当走り込んだんだろうな。


 高速道路は目前だ。


 時速64――今だ。


「ブレーキ!」

「やってやらぁ!」


 急制動に車内が揺れる。春原が拳銃をこちらに投げて、するりと入口を抜け――


「藤高」――がボクから離れ――「そこだ」


 寝そべる形になった藤高の少し上に、突き刺された刀。


「ぶちかませ」


 空気を押し出すような音が三度。

 車の上で何かが転がる。

 アクセルが踏まれ。

 車が加速していく。

 バックミラーを覗き込み。


「時速50kmで吹っ飛べ。幸運を祈るよ」


 後ろに向かって、中指を立てた。



◆ ◆ ◆ ◆



 幸いしたのは、スサノオがあれ以降追ってこなかったことだ。

 銃弾をものともしないはずの回復力を以てしても、高速道路に投げ出されるのはキツかったらしい。

 不確定要素の多い博打。だが、ボクらは勝った。


「さすがの高田……」

「よせやい」

「いや、ホントよくやったスよ。私も焦ってたし」


 ゆっくりと呼吸しながら、治まらない鼓動の上に手を置く。

 よくやったと褒めてもいいが、たった一度の勝利――いや、たった一度の撃退。

 なぜだか、あいつを倒せた気がしなかった。


「運が良かった」

 その一言につきる。

「一つも実力が入ってない」


 偶然スサノオに会えた時からきっと、この幸運は始まっていたのだろう。


 今更になって冷や汗をかいてきた。

 自分でも驚くほど冷静になれた反動だろうか。


「……ちょっと寝る。組長には電話したから。春原、あと頼むね」

「えっちょっと高田くん車の天井代――」



◆ ◆ ◆ ◆



 ……。

 …………。

 ………………。


「面白い」


 道路の上に着地しながら傷を塞ぐ。


 まさか直接姿の見えない僕を。

 しかも下から。

 正確に撃ち抜いて来るとは。


 面白い……!


 体の中で銃弾が走り回るのを確かに感じた。肩から二発、腹から一発、銃弾が抜けていったようだ。

 本当に面白い。未知の体験だ。

 なるほど、体を通ると銃弾は曲がるのか。それにしたって、鉄の板を経由して僕の体に入ったと言うのに……。


「……無意識か」


 あの銃弾には魔力を感じた。

 藤高 友也。

 どうやら、今潰してしまうには惜しいようだ。あのまま育てば好敵手になるだろう。


 向こうの手札も整いつつあるようだ。

 次会った時にどれほど楽しませてくれるのか……。


「っと……ジェノンを迎えに行かないと」


 治癒が終わった体に再び魔力を流し、高速道路から飛び降りた。



◆ ◆ ◆ ◆



 夢を見ている。

 またあの夢だ。方舟の夢。

 毛布に包まれながら、誰かに抱えられている。

 毛布の隙間から、ボクを抱える誰かが見えた。


 細い指。高めの身長。メガネ――ぼんやりとした輪郭――懐かしい陰。


 ボクは確かにその人を知っている。

 今はもう少し老けているし、髪も長いけれど。

 でも、一目見れば分かる。



「母さん」

「は〜いママでちゅよ〜早く起きろクソガキ〜」


 薄らと目を開けた。


「ドア閉めろよ」

「着いたって言ってんスよこのガキ!」


 春原がボクの寝顔を覗き込んでいる。

 車は既に停まっていた。

 どうやら随分長く眠っていたらしい。


「組長は?」

「藤高くんの特訓中だよ」

「そう」


 車から降りて屋敷に入る。


「調子はどう?」

「良さげな感じッス。今日のことでなんか掴んだっぽいね」


 今は瞑想中、と付け加え。


「魔力の使い方、ボクも習った方がいいのかな」


 ボクの言葉に驚いて見せた。


「本気で言ってる?」

「ボクはだいたい本気だよ」

「はぁー……いや、悪くないと思うッスよ」


 うーん、と軽く唸って。


「ただ、指揮官が覚えて意味あるかってなるとねぇ」


 と返した。


「春原も使えるんだろ?」

「ま、多少はね? 教える人が上手かったからさ」

「ああ…… 今度の作戦の」

「そうそう」


 おさらいしておこう。


「名前は『紅黒(ベニグロ)』だったか」


 救出予定の仲間、その名前は紅黒(ベニグロ)。奇妙なことに、それ以外の名前はなく――つまり、紅黒には苗字がない。

 この世界ではまずないことだ。徹底的な管理を施された現状で、人の名前は確実に姓と名、二つを持っている。

 その名前は、不気味なほどの孤立を表して見えた。


「確か……この世界、つまり政世の出身じゃあないんだよね?」

「うん。本人曰く戦世の帝国出身だって」

「怪しいもんだ。他の世界だってNSの手が入ってるんだろ」


 だとしたら、どう足掻いても紅黒にはもっとまともな名前があるはずなのだ。

 捨ててしまったのか、敢えて名乗っていないのか。ほかの世界へ渡ることができない現状、確かめるには本人に聞くしかない。


「ボクらは後方支援だったよね」

「うん。君と藤高くんはそう」

「……春原は?」

「私は現場」

「マジか……戦えるの?」

「舐めてんなぁ! 私の射撃見たっしょ?」

「酷かったよ」

「三年連続チャンピオンの少年と比べんなバカ!」


 藤高と比較するのは酷か。


「それに、私だって一通り訓練はしたからね。探偵やってて襲われたことも何回かあるし」

「その度入院?」

「うんにゃ、仕事の納期守りたいからそうはならないようにしてた」

「怪我はするんだ……」

「そりゃ、ね。暴力沙汰は苦手だし」


 そんな人が今回は現場に混ざるのか。


「不安だな、この作戦……」


 今更愚痴愚痴言っても仕方ない。


 決行は、三日後に迫っていた。


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