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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
103/166

ケ・セラ・セラ

「貴方は強い人でした。僕とは異なる強さでしたが。だからこそ憧れた。だからこそ恋した。その強さを知りたかった」


 スサノオが言いたいことは……つまり、強さに惚れたと。

 意味が分からない。


「ボクは強くない」

「嘘ですね。そんなことは思っていないはずだ」


 困った。

 こいつ、強さに関する嗅覚は本当に鋭いらしい。


「俺の知る高田 広希と言う人は、いつも自信に溢れてる。何があっても動じず、二度と同じ失敗は繰り返さない。絶対にだ。そういうことが起こらないよう、必ず根本的解決を行う」


 ボクのことをなぜこうも知っているのか分からないが、確かにボクのことを理解している。


「それが可能だということは、貴方は確かに強く、強さに確かな信頼を置いているということだ。少なくとも誇れるものだと思っているはずでしょう?」


 ピン。と糸を張ったかのように。

 空気が張り詰める。

 スサノオによってではない。

 ボクによってだ。

 ひた隠してきたものをこいつは知っている。なぜかが本当に分からない。

 知っているのはボク自身と――藤高がどこか察しているのみだ。


 ボクの強さ。

 それに対する自信。


「高田さん、俺と貴方は同じなんだ。強さに対する自信。強さに対する疑念。それを発揮できない、この世界への不満が」


 こいつはどこかで知ったのだろう。きっと見てきた訳ではない。

 だけど、どこかで確信を得たのだ。ボクのことを良く、本当に良く観察して、独特の空気感を嗅ぎつけた。


「お前とは違うよ」


 弱く、弱く否定する。


「この世界、ボクは好きだな」


 そして、嘘で誤魔化す。


「で、スサノオは嫌いなわけか」


 好きなわけがないってことを。

 ボクとスサノオは似ている。才覚を持つ点や、それへの絶対的な信頼――それに何より、虐げられた経験が。


「お前がなんと言おうと、ボクは方舟には乗らないし、お前のことだって止めてみせる」


 絶対記憶か。

 これ程厄介なものはないな。

 今日のことだって、決して忘れることができないんだから。


「こんな時に言ったって、締まらないけどね」

「いいんです。はっきりさせておきたかった。ご一緒出来ただけでも光栄です」


 小さなカップは空になった。


「さて、分かっていると思いますが。方舟のことを知った以上、貴方を放置することは出来ない」

「やっぱりそう来る?」

「ええ。だからこうします」


 スサノオが腰を上げた。

 丸腰ではあった。だから先にフォークを投げつけ――


「動くな」

「ジェノン、待機しろと言ったはずだが」

「無茶がすぎるぞスサノオ。狙撃されたらどうする」


 ――後頭部に硬い感触。

 見ないことには何が突きつけられているかは分からないが、大方の予想はつく。


「これが君のやり方ってわけ?」

「すみません高田さん。本当は直接脅してみたかったんですが」


 随分と物騒だ。発想がいかれてる。


「殺すことはしません。まだ可能性がある。俺としても、貴方まで殺したくない」


 窓際の席を選ばなかったのは失敗だったな。

 これじゃ、ウチの兵隊が活かしきれない。


「今後一切俺たちと関わらないでもらいたい。誓ってもらえるなら解放します」


 ゆらりと蒸気が立ち上るように、スサノオはゆっくりと立つ。


「出来ますね?」


 さて、今までの僕なら小便の一つでもチビっていたところだろう。

 なんと言っても戦力が足りなかったから。

 でも今は違う。


「お断りするよ。丁重に、そして派手にな」


 手に持ったフォークを投げた。


「おっと――」


 スサノオがそれを難なく受け止める。

 ここまではお互い予想通り。一つ違いがあるとするなら……


「藤高!」

「おう!」


 藤高は今日、消音装置(サイレンサー)つきの銃を持ってるってこと。


 その狙いは正確に、後ろでボクをおどしつける誰かに当たった。


「悪いね。ここの支払いはしといてくれ」


 背中で一人、崩れ落ちるのを感じながら、喫茶店の外へとかけ出す。


 春原に連絡しないとな。しばらく走ることになりそうだ。



◆ ◆ ◆ ◆




「車出して早く!」

「ドア開けろドア!」

「あーもう結局こうなるんスか!」


 人混みの中を掻き分け掻き分け、足早にたどり着いた駐車場。春原の到着とボクらの到達はほぼ同時だった。


「余計なことしないって約束! 守れてないッスよ!」

「向こうから仕掛けてきたんだ!」

「自己防衛! さっさと脱出だよね!」


 エンジンをけたたましく吹かしながら、春原はしっかり法定速度を守って走っていく。


「何やってんだ! 急げって!」

「いやいやいや! 嫌! 点数ヤーバいんだってもう!」


 そういえば春原の免許は青色だったか。


「今年無事故無違反ならゴールドだったのにぃ……! なんでこんな目に……」


 グチグチ言いながらばっちり料金を支払って、薄くなった財布によよよと泣いて、春原はちらりとサイドミラーを見た。


「追ってきてないッスね」


 不思議そうに言って、外をキョロキョロと見渡す。


「案外諦めがいいのかも――」

 なんて言ったその瞬間だった。


 車の上に何かが乗った音がした。

 時速60km前後をキープしている、走行中の車の上だ。まさかな、できるわけが無い。そうタカを括っていた。


「来てるって! 上、上!」


 丁度藤高の頭があったところに刃が刺さっていた。

 それは天井から伸びて来ていて、つまり――


「まさか乗ってるのか」


 つまり、スサノオとのドライブを意味する。

 なんとか避けてはいるものの、その狙いは恐ろしいほどに正確だ。避ける度、藤高の頭を正確に貫こうとしてくる。

 一体全体どうやって張り付いているのか、どうやって予測しているのか完全に分からない。

 人外じみた正確性と体幹、それから覚悟。

 そうかなるほど。

 スサノオの強さはそこにある。


 藤高はいつまで経っても銃を撃てないでいる。おそらくビビってしまっているのだろう。

 反撃出来る者がいない。呑気にしているわけにはいかないか。


 春原も今の状況を理解したらしい。見る見るうちに顔が青ざめたかと思うと、すぐさま顔色を真っ赤に変えて、こう叫んだ。


神様はバカンス中(ケ・セラ・セラ)だクソッタレ!!」


 どうやら最悪な一日になりそうだ。


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