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AF―After Fantasy―  作者: 04号 専用機
Vengeance is mine
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立場

 勝手に話が進んでいる。僕はまだ納得出来ていないのに。

 ジェノンが僕を見る。

 今度は怯えが見えない。観察するような目。

 こいつの目、綺麗な緑色だな――


「オイ」


 突然襟首を掴まれた。

 ジェノンにだ。

 殺意は感じられないから、好きなようにさせてみよう。


「お前、何を見てる?」


 ジェノンを見てると答えてみると、不満そうに眉を顰めた。

 目の前に指を持ってきて、何度か振る。何を確かめているんだろう。

 動きを目で追った。


「…………なんだこれ? なんの時間だ?」


 視界の端に映ったドクトルは肩をすくめて、お手上げだと言いたげだ。

 何度も同じように目で追う内、つい動きの先に目を置いてしまう。

 いつもの癖だ。それにしても分かりやすいな――


「……3秒程度か、その未来予知」

「な――」

「呼吸か? それとも筋肉の動きか、もしくは能力……いや、でも魔力が動いた感じはしなかったしな……ってことは単純な技術……ふむ、そうだとしてどんな訓練を……」

「おい」


 まさか、まさかだ。あの僅かなやり取りでサトリを見抜いたというのか。驚きだ。まるで戦えないように見えたのに、もしかするとジェノンは中々やるのかもしれない。


「お前、戦えるのか?」

「ハァ? 戦闘なんてゴメンだね。ぼくは頭脳労働が好きなんだ」


 それでもサトリを見抜いたということは、よほど鋭いのか、あるいは――

「予知能力者は何度か見たことあるよ。呼吸を見てるやつは初めてだけど」

――サトリを知っているか。


「割といるんだな、サトリを使うやつは」

「そりゃ、ただの技術だからねぇ」


 からかうようなドクトルを思い切り睨む。

 ありふれたものと言われて、いい気はしない。今は普通に使えるものだけれど、僕にとってサトリは努力と才能の証明だ。まるで、どこにでもあるものと言われるのは腹が立った。


「安心してよ。君の年齢で使えるやつは見たことがない」


 ほんの手慰みを加え、ドクトルが続ける。


「ジェノンを匿ってあげなって。今ならいくつか特典つけるから、さ」


 きっと自分は今渋い顔をしているだろう。

 僕にも色々事情がある。


「……ジェノン。シャワー浴びてこい」

「えっ」

「ドクトルと二人で話がしたい」


 シャワーの方向を手で示し、ドクトルが行くように促してくれた。


 ジェノンはおずおずと歩き出し、ドアの向こうへと姿を消す。


 さて、話をしないと。



「なんかあったの?」

「…………ノア様とゼウスに怒られた」

「フハッ! そりゃあご大層な」

 からかうな、と牽制しておいて。

「問題は、何に対して怒られたか、だ」

「そりゃそうだ。で、原因は?」

「人間を二人取り逃がした。手引きしたやつの目処は着いてるぞ」

「恐ろしいねぇ、裏切るようなことするやつ、方舟にいるの?」


 お前が作ったのはそういうやつだろ。そう言いたいのを必死に堪える。


「また人間を匿って、同じように逃げられたら敵わん。困るのは俺だ。折角手に入れた居場所なんだ、手離したくない」

「いざとなったら僕んとこがある」

「……それは嫌だ」


 ドクトルには頼らないと決めている。

 恩を増やしたくないというのもあるが、そもそもドクトルのことが信用ならないのだ。ルシフェルやゼウスのことを、こいつは最後まで黙ったままだったから。

 こいつと関わり続けて、何かあってからでは遅すぎる。そう感じていた。


「君はもっと、人を頼ることを覚えるべきだな」

「魔力の使い方だって一人で覚えた。助けはいらない」


 さて、本題に戻ろう。

 ジェノンを匿う、だったか。


「正直、できるできないの話ではなくなってる」

「ずいぶんややこしくなったもんだねぇ」


 頬杖をついて、ドクトルは退屈そうに息を吐く。


「そういうのを抜きにできたとしたら、どうなの?」

「……正直、やぶさかではない話だ」


 立場さえ無ければ手を組んでいただろう。

 興味が無いと言えば嘘になる。サトリを見抜く観察眼に、鋭い物言い。仲間としてそばに置くには楽しいだろう。

 何より、一人で方舟へと渡ってくる才能。

 僕にはない強さだ。


「バレないようにしたいわけねぇ」

「出来るか?」

「ん。こっちで手を打とう。少し時間をいただけるかな、神官殿?」

「やめろよ……」


 なんだか照れ臭い。

 さて、このまま流されて頼るわけにはいかない。


「何か欲しいものあるのか?」

「おいおい勘弁してくれよ、取引しようって言うのかい? 君が? 僕に? 冗談きっついな」


 出来るわけない、とドクトル。


「知っておきたまえよ。慣れないことをしたって、誰かに利用されるだけさ」


 空になったマグカップに並々コーヒーを注ぎ、ドクトルはそう言った。

 相変わらず、コーヒーは苦かった。

 ケーキが欲しいな。甘いヤツが。


「それにしたって、もっと怒ると思ってたけど。君ってばやっぱり優しいやつだね」

「冗談だろう?」

「さて、どうかな」


 コーヒーから昇る湯気をくゆらせながら、意味もなく、ドクトルの言葉を、込められた意味を考える。


「妹にもよく言われた」

「あれさ。なんでやったんだい?」

「あれ、とは?」

「件の学校のことさ」

「ああ……?」


 そういえば、話してなかったか。

 僕の過去――はどうでもいいだろう。話したって仕方ない。


「復讐だ。それだけだよ」

「妹のため?」

「そうだな」


 ドクトルはしばらく考え込んだ。


「……これはお節介なんだけど」

 と、言って指さし。

「誰に見られたか、よく考えた方がいい」


 えらく真剣な表情で言うものだから、なぜか僕が怯んでしまう。

 しかし、ドクトルのことだ。僕には及びもつかない手札があるのだろう。まだ秘めているだけで、いざと言う時は切ってくれるはずだ。

 この部屋からは巣立ったはずなのに、未だおんぶに抱っこだな。


「やはり必要みたいだね。ジェノンはいいブレインになるよ」

「結局、その話か……」

「そうそう、特典の話なんだけど――」


 ドクトルが白衣のポケットをまさぐった。すると――


「ない! ないぞ! 何も! 無い! ナニもない!!」


 ――脱衣場の方から悲鳴が聞こえてきた。


「……行ってくるか?」

「やだね。スサノオが行きなよ」

「はぁ」やなこった、とは言えない雰囲気。「分かった。俺が行く」


 これだけ、と言って、ドクトルが何かを投げてきた。

 片手で受け取る。小さな箱だ。

 中身はコンタクトレンズだろうか?

 表面に薄く、模様が描かれたコンタクトだ。


「そいつは第二の眼(セカンド・アイ)。同梱の説明書を読んで、用法用量を守って使ってね」

「これが特典か?」

「そうなるね。中々便利なもんだよ」


 後で試してみるとしよう。

 今はとりあえず、野次馬になってみるか。


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