早くも優雅じゃなくなります
初投稿です
感想お待ちしてます!
1.
心地よい朝日に照らされ、私はベッドから体を起こす。
実に最高の気分だ。何故なら今日は花の日曜日だ。思う存分自分の時間を満喫できる。
まぁ仕事柄曜日なんて関係ないのだけれど……。それでも日曜は特別という感じがする。
そんなどうでもいいことを考えながら、私はキッチンへと向かう。
ホットミルクとサンドイッチをトレイに乗せて、お気に入りのソファーの定位置へと向かう。
窓を開けると心地よい風が髪を撫でた。うん、今日もいい天気だ。絶好の散歩日和じゃないか。そんなことを考えながらサンドイッチを口に運ぶ。ああ、なんて素敵な時間なのでしょう……。この至福の時間はたとえ神であっても邪魔はさせないわ!なんてことを思っていると、
コンコン
どうやら来客のようだ。誰だこんな時間に……。まぁここに来る物好きなんて一人しかいないけども。
私はドアに向けて「どうぞ」と声をかける。
「おはようレイラ。相変わらず眠そうにしてるわね。そんなアナタもカワイイわよ」
「おはようジェイル。貴方も朝から格好いいわね。それじゃあまた今度」
「ちょ、まだ来たばっかりじゃない!」
相変わらず最悪のタイミングで来るなぁ。仕方ない、コーヒーを用意してやろう。そんなことを考えながら私は重い足取りでキッチンへと向かった
2.
「相変わらずレイラの淹れるコーヒーは美味しいわね。今度淹れ方を教えてちょうだいな」
「はいはい」
目の前でコーヒーを飲んでいるこの男はジェイル。情報屋を生業としていて、こうして仕事をするために私の元にやってくる。数少ない友人の一人でもあるのだが、友人として訪ねてくるのは稀なので、今日も仕事の話をしに来たのだろう。ちなみにオネェだ。
遅れたが一応私のことも軽く紹介しておこう。私はレイラ・グロウリー。齢は17だ。斡旋屋という職業に就いている。まぁ職業として認められているかは些か疑問ではあるが……
「それで、早速仕事の話に入りたいのだけれども」
「あぁ、やっぱり仕事なのね……。鬱だ……」
「愚痴なら後でいくらでも聞いてあげるわ。これが今回のターゲットよ」
そういってジェイルは封筒を渡してきた。中身を確認すると、細かい文字がびっしりと書かれた紙と、いくつかの写真が入っていた。なるほど、これが今回の心壊対象ということだろう。文字が書かれた紙を見ると、その男のプロフィールが書いてある。
男の名はギムディット・ウルディンというらしい。最近、裏の世界で急激に成長してきた派閥のリーダーであるらしい。人身売買、麻薬流通、過激な武力行為。なるほど、中々に極悪な男らしい。
「アタシに依頼をしてきたのは、その男に殺されたある貴族よ」
「ほう、というと」
「報酬はその貴族の全財産、それと……」
「それと?」
「……その家の一人娘よ。生きていたらの話だけどね」
「……」
おやおや、雲行きが怪しくなってきましたぞ。帰りたい、というか帰ってくれないだろうか。
「渋い顔してるわね」
「こんな顔にもなるわ……」
「で?引き受けてくれるかしら?」
「拒否権はないでしょうよ……」
「取引成立ね。報酬は3割でいいわ」
ジェイルが私に依頼を持ってくる。私はその仕事を斡旋する。簡単な仕事だ。
本当にこれだけだったらいいんだけどなぁ……
3.
私は仕事着に着替え、いくつか武器を用意した。今日はどれがいいだろうか、銃か、ロープか、ナイフか、いやいや日本刀も捨てがたい。仕事が始まったら過程なんかすっ飛ばしてしまうのだけれども、気持ちというのは大事だ。
「相変わらず、禍々しいわね」
「言わないでよ」
「フフッ」
「笑うな。呪うぞ」
はぁ……。当事者じゃないからって呑気なものね。死んだら本当に呪ってやる。
漆黒の黒衣を身にまとい、顔には三日月を模した仮面を付け、最後に武器の確認をして用意は終わりだ。
さぁ、最後の仕上げに入ろうか。
「ジェイル、あとは任せたわよ」
「はいはい、任されたわ」
鏡の前に立ち、死神のような恰好の自分に向かっていつもの言葉を紡ぐ。
「おはよう、目を覚まして頂戴」
4.
ギムディットは珍しく上機嫌だった。何故なら、
「よぉ、気分はどうだい?お嬢ちゃん」
「うぅ……」
こうして、目を付けていた女を手に入れることが出来たからだ。とある貴族の一人娘なのだが、この娘を手に入れるのにその貴族の家を丸々焼き払った甲斐があった。
ギムディットは床に転がる女に話しかけた。
「まぁ、なんだ、運が悪かったと諦めな」
「うぅ……。酷いです……。どうして……こんな……」
ここはギムディットの調教部屋。ギムディットは顔を醜悪に歪め、こう言った。
「心配するなよ、お嬢ちゃんは俺様がちゃぁんと可愛がってやるからさ」
「え……?」
「クスリぶち込んで、気が狂うまで凌辱してやるよ!楽しみだなぁ!」
「ひぃっ!」
「完全にブッ壊れたら変態野郎の元に売りつけてやるよ!ギャハハハハハハ!!!」
「嫌ああぁあああぁあああああぁ!!!!」
あぁ、本当に楽しみだ、なんて考え、まずは最初の恐怖を刷り込んでやろうと拳を振り上げたとき、
キィ……
扉が開く音がした。扉のある方ではない、ギムディットのすぐ横からだ。
「あァ……?」
気づいた時にはすでに遅く、ギムディットはその扉に引きずり込まれた。
5.
「チッ……。んだここ」
ギムディットはそう呟き、辺りを見回した。すると、真っ白な部屋の真ん中に、黒衣を羽織った人間が椅子に腰かけているのを見つけた。
「アイツが犯人か?舐めた真似しやがって……」
ギムディットの頭の中には、あのふざけた野郎をどう痛めつけてやろうか、という考えしかなかった。しかし、一瞬ある単語が頭の中をよぎった。
『心壊屋』
それは、最近噂になっている殺し屋の名前。その死神に目を付けられたものは、心を破壊されたのち、冥府に送られるそうだ。バカバカしい、そう思っていた。そんなものは実在するはずがないと、もし目の前に現れたなら、逆に殺し返してやる。そう思っていた。だが、
「オにいさん」
その『声』を聞いたとき、ギムディットは己の死期を悟った。足は動かない。先ほどまでの怒りはどこかへ消えてしまった。代わりに残ったのはどうしようもない虚無感。
「あハッ!ヨうこそ!ワたしのせかいへ!」
「ドうしてここにきたのかわかるかな?」
「アなたはやりすぎちゃったんだね」
「シょうがないね。モうわかってるでしょう?」
「アなたはここでゲイムオウバァ!ザんねん!」
「ソれじゃあ、サようなら!」
目の前の『ナニカ』がそう言った。瞬間、ギムディットの首が刎ねられた。鮮血を辺り一面にばら撒いてギムディットの体が崩れ落ちた。それを満足げに見下ろして、死神は虚空に消えていった。
6.
私という存在は、齢12の時が人生のピークだった。だがある日、とある魔術師に、人格を二つに分けられ、鏡を見ると入れ替わるという呪いをかけられた。それが齢13の頃だったか。12の時にすでに人間として完成されていた私は、正気と狂気の二つに成ったのだ。いつもは正気である私が表舞台で暮らす。そして仕事の時は狂気の私に入れ替わる。私という人間はそうやって世界に溶け込んでいるのだ。
心地よい朝日に照らされ、私はベッドから体を起こす。
実に最低の気分だ。何故なら今日は月曜日だ。週の始まり、仕事の始まりだ。
まぁ仕事柄曜日なんて関係ないのだけれど……。それでも月曜は憂鬱という感じがする
リビングに行くと、すでにジェイルがコーヒーを飲んでいた。ここは私んちだぞ。
「おはようレイラ。相変わらず眠そうにしてるわね。そんなアナタもカワイイわよ」
「おはようジェイル。昨日と同じことを言ってるわ。罰金ね」
「ちょっ」
「さっさと本題に入りましょう。仕事は完遂したわ。報酬を頂戴」
「そ、そんな急かさないでよ……。言われなくてもわかってるわ」
そういってジェイルは昨日とは違う封筒を取り出した。中身を確認すると、中には小切手と、
「なにこれ、プロフィール?」
誰のか分からないプロフィールが書いてある紙が入っていた。
「あぁ、それはね……」
「あ……それは私のです」
「うん?」
なんだか初めて聞く声がするぞ?と、そう思いそちらに顔を向けると、赤い髪の小柄な少女が立っていた。
「えーっと、誰?」
「え?報酬の子だけれど?」
「は?」
「言ってあったじゃない。報酬は、『貴族の全財産と一人娘』よ」
「……あっ」
そういえばそんな話だったな。すると、
「こっこれからよろしくお願いします!」
「あーうん、よろしくー」
赤髪の子が元気よく挨拶をしてきた。それと同時に、私の自由気ままな一人暮らしは終わりを迎えるのだと感じた。
ジェイルの方を向くと、ニヤニヤとこちらを見ていた。あの野郎……。絶対分かってただろ。
私は大きく息を吸い込むと、
「お前いつか殺してやるからなーっ!!」
今世紀最大の怒声を吐き出した。