転生ライバル令嬢の狂愛
コメント欲しいなと思ってネット小説賞感想希望 用に短編書いたけど
短編と言うよりあらすじ未消化みたいな感じに……。
「サフィール、サフィール・ヴィントリアージュ、お前との婚約を破棄する。」
透き通った低めの少年ボイスが彼の両親である国王夫妻の前で響き渡った瞬間、泣き崩れたのは、彼の母親の王妃様であった。
彼、……この国のたった一人の王子様であるアークトゥルス様は、淑女の鏡たる母の泣き崩れる姿と、その傍らで険しい顔をしている獅子王の異名を持つ父に先程までの威勢はどこへやら、困惑気味だった。
最もこれから起こることを考えれば困惑どころでは済まない。
キラキラと光を弾く麗しい金髪に、澄んだ濃い蒼の瞳、高貴な生まれを疑わせる余地のない美しい顔、すらっと伸びた手足も含めこの国で一番美しい少年。
だけれど、この姿もあと少しで見納めである。
……他ならぬ私の手によって。
魔法の力を借りて、悔いのない様にしっかりと網膜に記憶し、貴賓席に向き直った。
「陛下、妃殿下。婚約の時の約束を覚えてますか?」
サフィールは覚悟を決め、この場の進行をかって出た。
……サフィニアとアークトゥルスが正式に婚約したのは、10年前。
二人が8歳の時だった。
その時にアークトゥルスから贈られたサファイアのブローチの裸石を初めて見た時、サフィニアは、前世の記憶を思い出した。
そして、自分が、悪夢の搾取ゲームの異名を持つ乙女ゲーム「デンドリティックドリーム」……通称DDの中に出てくる、将来婚約破棄を言い渡されるライバル令嬢と同じ状況に置かれている事に気がついたのだ。
そして、前世でDDのATMだったサフィニアは、すぐに自分の置かれた状況を把握し保険をかけた。
と言っても、シナリオを崩壊させるのが目的ではない。
サフィニアの前世が知る、あるシナリオを円滑に進める為の伏線の下準備のはじまりだった。
「かまわない。すすめてくれ。」
ハンカチで顔を押さえたままの妻の肩を抱き寄せ、周りで様子をうかがっていた騎士に合図を送り、王子の後ろに立っていた花冠の乙女にして、王子の今の想い人のディアを舞台から排除する。
何か言っていたが、今は、王家に伝わる神級魔術の錬成に集中する。
この日の為の準備は抜かりなかった。
「妖精の輪」
サフィールがトリガーになる呪文を唱えると、眩しくも暖かな光が、あのシナリオのように二人を包む。
サフィールの知る物語も終盤に差し掛かり、胸の内を思い出が走馬燈のようにかけめぐった。
※※※※※※※※※
王子アークトゥルスとの出会いは物心が付くよりも前の話だ。
婚家の後を継いで臣籍に下った王弟の娘であったサフィニアは、魔力の適性と家格の兼ね合いから産まれた瞬間にアークトゥルスと婚姻を結ぶ事が決まって居た。
正式に婚約式が行われたのは8才の時。
記憶を取り戻したのはその半年前の式で使う宝石選びの時だった。
「やはり、風の適正が強いサフィニアには、エメラルドが良いな。」
確信に満ちた顔でそう言って様々な裸石をいじり倒す幼なじみの王子は今日も可愛いらしい。
髪と同じ金色の睫毛がふさふさと最上級の蒼の瞳に被さって天使のようだった。
物心着いた時からサフィニアはこの少年が好きで好きでたまらない。
傍に居られるなら何がどうなっても良いとさえ思っていた。
「あら、エメラルドより硬いサファイアにして下さいな。永遠を誓うのに柔らかな石なんて縁起が悪いわ。」
……貴方の瞳の色が良いの。
そんな本音を隠した台詞を口にした瞬間、サフィニアを違和感が包む。
「お前がつける石だ。好きにすれば良い。」
せっかく選んだ石にケチをつけられた形の王子は、ぐぬぅと呻いた後、そう告げた。
サフィニアはその言葉を聞いた瞬間、自分が前世でDDというゲームのATMだった事と、祭壇が作れるほどゲームの中のアークトゥルス王子に入れ込んでいた事を思い出した。
そして、物語の通りであれば、自分が大きな運命の分岐に居ることも……。
宝石選びを終えて、両親と共に帰宅したサフィニアは、婚約に際し、20項目以上に渡る要望を提出した。
サフィニアは、どんな事してもアークトゥルス王子を手に入れたかった。
そして、その有り得ない内容を子供の考えた微笑ましいものだと思った二人の両親は、受け入れ、幼いサフィニアの王子への愛の記録として画額にはめ込み保管した。
それを受け、サフィニアは、手始めにサフィールと改名した。
普段みんな、サフィと呼んでいるので特に違和感はなかった。
……せいぜい、サフィールの本気っぷりを知って大人たちがちょっとひいた位だ。
問題ない。
……多分。
そして、前倒しで帝王学と、お妃教育を受け始めた。
王子と遊べる時間は減ったが、アークトゥルスを手に入れる為に手は抜けなかった。
15才で王子と共に学園に入学するまでにすべての教育を終えたサフィールは、王子と同じ魔法騎士科に進んだ。
何も知らない王子は、魔法騎士科の名簿に婚約者の名前を見つけて二度見したらしい。
普通の王妃候補は淑女コースだからね。
ゲームの中のサフィニアもヒロインと同じ一般教養科淑女コースだったはず。
王子には、一般学生の授業に加え、課外授業がある。
だから、その間にサフィールは、王宮の閉鎖された魔道研究施設に入り浸り、パラメータ磨きと神級魔術の研究を徹底した。
同じ、王家の血をひくサフィールの規格外な優秀さは、アークトゥルスに熱視線を送る姿故、問題視される事は無かった。
……ただ一人を除いて……。
次第にコンプレックスをつのらせていくアークトゥルスにサフィールは、何もしなかった。
そして王子は、癒し系の伯爵令嬢のディア様に傾倒していった。
DDのヒロインたるディア様もまた転生令嬢だ。
そして、前世でそれなりにプレイしていた事も間違いなさそうだ。
それは、初めてサフィールを見た時に彼女が呟いた、「どうしてブローチが蒼いの?」という台詞で確信している。
しかも……、後で説明するが、シナリオ通りに進めているサフィールを、物語を歪める転生者だと認識している時点で、DDの本編以外は手付かずのようだ。
であれば、サフィールの方が断然有利。
そして迎えた卒業前の剣術大会で、サフィールは王子を打ち負かし、王子は悔しさに冒頭の台詞を口にしてしまうのだった。
婚約に際し、サフィニアが付けた最大の条件は、アークトゥルスから一方的な婚約破棄を言い渡された時に、伝説の神級魔術「妖精の輪」を使用する事の許可だった。
後は、それに関連した調整の項目に過ぎない。
やがて光が収まり、アークトゥルスを見下ろす。
妖精の輪の影響で、身長まで変わってしまったようだ。
「いきなり何をする!」
かわいらしい声で、婚約者が叫ぶ。
「そんな!……声まで変わって!」
……危うく噴き出しかけた。
無自覚に小ネタを挟んでくるが表情は真剣そのものだ。
小さくなった自分の手で、焦った様に膨らんだ胸を掴む。
何から驚いていいのか、何に驚いているのか、混乱する元王子にサフィールは若干低くなった声で歌う様に告げた。
「神級魔術妖精の輪は、指定した相手のステータスを入れ替えるんですよ。それを使って今回は性別を入れ替えてみました。」
「……は?」
何を言っているのか解らないと言った風情の元王子を抱き寄せ、額にキスをする。
「婚約は破棄できませんよ。あなたには私の子を産んでもらいます。うんと可愛がってあげるから楽しみにしていてください。」
結局、物語は、シナリオ通りに終わったが、俺たちの物語は始まったばかりだ。
え?男系王朝なのに、王子居なくなったら次の王はどうするのかって?
王位継承権なら、王弟の父と息子になった私が持ってるから、多分私が継いで、元王子の子が継いで行くよね。
良く解らなかった?
ああ、説明するの忘れてた。
実はDDが搾取ゲームと呼ばれる理由の一つに、特典商法というのがあってだね。
初回限定特典、店舗限定特典、ゲーム機梱包版、先行予約特典、期間限定購入特典とかそういうのだけど、
その中で声優さん達とスタッフが多分、遊び半分でアドリブで考えた15分くらいの特典シナリオCDが何枚かあったんだよね。
本来、エメラルドのはずのサフィニアのブローチがサファイアだったり、女の子なのに男名前に改名したと思ったら、王子と性転換しちゃったり、
サフィニアのブローチが王子の瞳の色の蒼なのは、スタッフに大人気だったサフィニアをいじり倒したようなこのおふざけシナリオだけなんだよね。
でも、この声優さん達の思い付きをつなげたみたいなシナリオ、他のキャラの時には、本編に存在しない魔王が出てきて学園破壊したりやりたい放題だったので、現実として受け止めるにはまだましな方だと思う。
大好きな元王子は手に入ったし、色々大変だったけど、私としては満足な結果で終わって良かったです。
最後まで御笑覧頂きありがとうございました。
評価、ブクマありがとうございます。