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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
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第96話 サイクロプス・ベイビーズ2

※アルドラ視点

 軽自動車ほどもある巨岩が飛来する。


 アルドラはそれを紙一重で避けていく。


 6体の巨人はそれぞれの手に岩を持ち、力任せの投擲を繰り返していた。



「シネッ!」



「タスケテッ!」



「イいッ……タイヨオオオオ!!」



「アメデーーーッ」



 彼らが叫ぶ言葉には意味が感じられない。知っている人の言葉を叫んでいる。そんな感じがした。


「もしかして、お前らが殺してきた人間たちの断末魔の叫びか?」


 巨人のギョロリとした単眼が、憎々しくこちらを見据えている。


 素早く捕まえていじめ殺そうと思っていたのに、思ったように捕まえられないので苛立ってきたのだろう。


 奴らは6体でいるものの、人とは違って連携という言葉を知らないのだ。


 それもそうだろう。サイクロプスというのは本来単独で行動する魔物だ。集団でいることは滅多にない。つまりこのような事態は例外といえる。


 その例外を引き起こす要因は、強力なリーダーの存在だ。


 サイクロプスというのは強さが全てという種。


 繁殖の際も、雌を力尽くで組み伏せて行為を行う。


 弱い雄は行為も出来ずに、逆に反撃にあい殺されて終わる。


 圧倒的に強い者は、自由に繁殖でき、弱い者共を手下にできる。それがサイクロプスという魔物だ。


 だが通常群れでない奴らが付き従うのだ。まさに圧倒的、絶対に逆らえないという隔絶した差がなければ、そういった現象は発生しない。


 つまりは近くにそういった存在がいることの証明であるといえる。


「……ジン油断するなよ」


 今は離れた場所にいる若く未熟な主に、激励の念を送るのだった。  



 攻撃を掻い潜り、1体のサイクロプスの眼前に迫る。


 あまりの気迫に、弱点の1つである眼球を抉られると咄嗟に感じたのだろう。サイクロプスはその丸太の様に太い腕を、顔の前で交差させて防御の姿勢をとった。


「……愚かじゃのう」


 アルドラは悠々と隙だらけの喉笛に剣を突き立てた。


 稲妻のように鋭い突きであった。


 目の前に敵が迫っているのに目を隠してどうする。とアルドラは呆れたように溜め息を吐いた。



「グオオオオオオオォォォォォーーーーーーーーーッ!!」



 絶叫。いや咆哮か。仲間を殺されたことへの怒りだろうか。小奴らに仲間意識といったものが、存在しているのかは疑問が残る所ではあるが。


 だが1体が死んだことにより、雰囲気は変わったように思えた。遊びは終わりということか。


「これからが本当の殺し合いという訳じゃな」


 岩を投げ捨て、油断のない睨みを効かせ、片手を地面に片手を空へと掲げる。何時でも飛びかかれるといった姿勢のままに、にじり寄る様に5体は包囲を狭めてくる。




 魔物の強さというのは、種族によって様々である。


 例えばドラゴン、兎、ゴブリン、イモムシが全てレベル1だとしたら、それらは皆同じ強さなのだろうか?


 レベル1のドラゴンとレベル1の兎は互角の死闘となるのだろうか?


 答えはNoだ。


 強さは魔物によって違うのだ。


 ドラゴンの強さと兎の強さは、同列ではない。


 例えば兎という魔物はレベルが上がると、どういったふうに強くなるのだろうか。


 レベル1の兎は村人でも倒せるというのなら、レベル100の兎は巨大なドラゴンも殺せるようになるのだろうか。


 そうではないのだ。兎は兎なのだ。


 兎が成長し、魂の格が成熟する。つまりレベルが上がると、足が早くなったり反応速度が上がったり、聴覚が発達する。兎としての能力が向上していく。


 だが爪が生えるわけでも、牙が生えるわでもない。二足歩行にもならないし、武器を使うようになったりもしない。


 兎として強くなっていく。


 無論特殊な進化をした場合はその限りではない。そうなれば、もはやただの兎では無くなるだろう。




 2体の巨人が左右から同時に攻めてくる。


 連携している訳ではない。たまたま攻撃のタイミングがあっただけだろう。


 巨人の怪力に一度捉えられれば、人の身に逃げ出せる術はない。


「そらどうした?わしを捕まえるのではなかったのか?」


【回避】スキルが効いているのか、エルフ特有の直感が効いているのか。まるで後ろにも目が付いているかのように、アルドラは危なげない動きで、その身に掠らせもしなかった。


 攻撃を回避しつつ、隙を見て攻撃を加える。


 やはり分厚い皮膚に阻まれて攻撃力を抑えられてしまう、致命傷になる一撃を入れるには相応に深く踏み込まなければいけないようだ。


 奴らは痛覚が鈍く、皮膚を浅く切った程度では怯むどころか気づくこともない。


 タイミングを見て上段から踏み込んだ渾身の斬撃を放てば、急所となる首を狙わずとも深く肉を切り裂ける自信はある。


 しかし剣のほうが持つかどうかはわからない。


 それに腕を切り落とした程度では致命傷にはならない。


 巨人の命を断つには、首を落とすか心臓を潰すか。


 となると、やはり選択肢は首を狙うしかなくなるということだ。


 それに上段からの一撃となれば、さすがのわしでも攻撃の直後は隙が生じる。


 その際に捉えられれば……やはり確実に1体1体の首を狙うのが定石なのだろう。


 迫る巨人の隙を突いて、1体の単眼に浅く傷をつける。


「ウグアアアアアアアアアアアッッッ!!?」


 巨人はもがき苦しみ、片手でその傷ついた目を庇いながら残った腕を振り回し、暴れ狂った。


 思いがけずにその振り回した拳が、直ぐ側に居たもう1体の側頭部に直撃する。


「ギイイイイイイイイアアアアア!!」


 殴られて怒り狂った巨人は、怒りに任せた反撃を行う。


 そして巨人同士の取っ組み合いの喧嘩が始まった。


 互いを殴り、噛みつき、蹴飛ばし、組み伏せ、暴れまわった。


 近くにあった小型の石積みの塔が、音を立てて崩れる。


 他の巨人も巻き添えを食わないように、僅かに怯み後ずさった。


 アルドラはそれを見逃さず、素早く動いて意識を喧嘩に集中させている巨人の首を落とした。


 まともに動いているのは後2体。


「さて息子たちが心配だ。そろそろ終わりにしようかの?」


 獰猛な笑みを浮かべる小さな怪物に、森の怪物は初めて恐怖を感じたのだった。

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