第93話 霊芝1
「片付いたようだな」
「……はい」
「大丈夫か?あまり奪い過ぎないように気をつけたつもりなんだが」
リザは自分の唇に触れ、一呼吸吐いて気を落ち着かせる。
「はい。大丈夫です」
広場の端に地響きのような咆哮と共に姿を現した巨人。
颯爽と走りこんだアルドラは、それをいとも容易く葬ってしまったようだ。
距離の離れたここからでは、詳細は不明だが一瞬の出来事であった。
「ジン様は大丈夫ですか?かなり魔力を消耗したように見えましたが」
確かに消耗したが、リザが分け与えてくれた魔力とマナポーションがあれば、いくらか回復できるだろう。
「森の中ならリザの促進も効果を発揮するだろう?少し移動してまた魔力を分けてくれ」
リザは小さく頷き。
「勿論です。私は貴方の妻ですからね。私の身も心も魔力も、全ては貴方のものです」
そう言って微笑を浮かべる彼女は、とても色艶のある顔に見えた。
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アルドラが戻り次第、移動を開始した。
結局のところ最初の【探知】では、目的の霊芝は発見できなかった。やり方は間違っていないはずだ。ぶっつけ本番の初めての使い方だが、使い慣れた【探知】スキルにはそれなりに自信があるのも確かだった。
「もう少し西へ移動しよう。適当な所で探索を始める」
アルドラの話では、森から異様な気配が漂っているということだ。
特に夜は危険かもしれないということなので、時間を見てダメなら一旦引き上げることも考えよう。
リザを抱えて森を移動する。
脚力強化の効果も効いているのか、移動速度は足場の悪い森としてもかなり速い。
「……瘴気が出てきましたね」
リザが呟く。周囲に気をやると、確かに薄く靄がかかってきた気がする。空気もより重くなってきたかもしれない。
「血の匂いじゃな」
どこからともなく漂う血の匂い。不穏な気配が徐々に現実になっていくような感覚を覚える。
だが焦りはより危険を生むだろう。まぁ何か危険があれば、エルフの直感が2人とS級の探知がここにいるのだ。隙はないと思いたい。
「人がいるな」
「うむ」
【探知】スキルが人と覚しき魔力の反応を拾った。少し距離はあるが、一応確認するか……
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「なんだお前らも稼ぎに来たのか?俺たち以外にも命知らずがいるとはな」
3人組の人族だった。三人ともまだ若く皆17~8歳。戦士、斥候、魔術師という冒険者としては標準的なパーティー構成である。
レベルは20代半ばあたり。アルドラによれば、この若さで既にこのレベルに達しているのは優秀といえるらしい。レベルというのは数が若いほど上がりやすいのだという。
更に言えばレベルを上げるのに適した年代というのもあるらしく、それが十代前半から20代前半あたりらしい。俗に黄金期と呼ばれているそうだ。
「どこの採取場も空いてるからな。普段は何時行っても人のいる薬草の群生地も、1人もいなくて稼ぎ放題だったぜ」
彼らは思い通りの採取が出来て上機嫌のようであった。
「少し前に大型のサイクロプスを見かけたぞ。危険じゃないのか?」
俺は遠回しに帰ったほうがいいのではと提案してみた。アルドラいわく彼らが巨人と交戦するようになったら、まず死者が出るだろうと。最悪全滅もあり得るという話だ。
彼らとは特別知り合いというわけでもないが、ゼストは優秀な若い冒険者を欲しがってる様子であるし、自分としても気付いていながら無下にするのも憚られる。
「なに?何処で見たんだ?」
彼らは所持していた獣皮紙の地図を地面に広げた。
「……このあたりだな。1匹で4メートル以上。5メートルはなかったと思う」
その言葉に若い冒険者たちが驚愕の声を上げる。
「4メートル以上?」
「本当かよ!?」
「でかいな。よくあんたら逃げ切れたな?そのサイズじゃ、たぶん大人の巨人だろう」
一瞬事を告げるか悩んだが、特別情報を隠す必要性を思い浮かばなかったので、アルドラが退治した事を告げると――
「退治した?」
「……本当かよ」
「凄えな。それが本当なら、アンタは少なく見積もってもB級以上の実力があるって事か」
当初、彼らの視線には疑いの色も混じってはいたものの、アルドラの放つ雰囲気を感じ取ったのだろう。どうやら俺の言葉に嘘はないと判断したようだ。
「情報ありがとう。助かった」
俺は若い冒険者たちと握手を交わす。アルドラは軽く手を上げて別れの意を示す。リザは深くお辞儀をした。
「いや助かったのはこちらの方だ。もう少し採取に深く潜ろうかと検討していたのだが、流石に引き上げることにするよ」
「アンタらも気をつけろよ!」
「言っておくが、あるかどうかはわからんぞ」
俺からは巨人の情報を。彼らからは霊芝の情報を教えてもらった。なんでも去年数回に渡って採取されている場所らしい。今あるかどうかは不明だが、情報がない現在の状況では少しの情報も有難い。
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若い冒険者達と別れ、俺達は更に西へと足を伸ばした。
周囲の植生が徐々に変化していき、より背は高く幹は太く丈夫なものに変わっていく。
歩みを進めるにつれ、その瘴気の濃度は上がっていくような気がした。
「ジン様気分はどうですか?もし体に異変を感じたらすぐに飲んで下さいね」
リザから渡された魔法薬、キュアポーションの改良版、名前をつけるなら中和ポーションだろうか。
高濃度の瘴気にあてられ、気分を害した際に飲むと過剰に摂取した魔素を分解してくれるらしい。
とはいっても高濃度の魔素を長時間浴び続けるなどしなければ、それほど気にしなくても大丈夫のようだ。
そういったことに気をつけるのは、迷宮の地下深く高濃度の瘴気に汚染された階を踏破しようと挑戦する冒険者や、大森林の奥地の遺跡を調査しようとする調査団など、限定された者たちだろう。
リザが渡してくれた魔法薬も、万が一を考えての備えということだ。
「わかった。ありがとう」
リザやアルドラは問題ないのか尋ねると――
「大丈夫だと思います」
「わしは勿論のこと、リザもエルフの血を引いておる。少々のことでは影響はないじゃろう」
人族のそれより適正が高いのだろう。心配する必要は無さそうだ。




