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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
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第88話 森の弓師

【帰還の呪符】


 時空魔術である【帰還】が封じ込まれた魔術札。使用すると予め設定していたポイントまで一瞬で移動することができる。

 移動地点の設定はその土地の魔素を使用する札に記憶させるやり方が一般的。特に設定されていない場合は、使用者が安全と感じるもっとも近いエリアに移動する。

 非常に高価で一般の市場では流通していない。


 魔導具によってあっさりと脱出を成功させたカミルを見送った直後、ベイルの守備隊であり街の治安維持を担う衛兵たちが登場した。


 激しい損壊となった現場に到着した彼らは、当然のことながら現場に佇む2人の男を拘束する。

 

 ことが終わってからやってきた彼らに少々思うところはあったものの、事の経緯を話すと意外なほど簡単に納得され解放された。


 おそらく昨晩の捜索隊の隊員が、衛兵の中にいたことも大きいのかもしれない。


 大都市ベイルの守護を担う守備隊ではあるものの、その隊員数は潤沢とは言えない。


 予算の関係もあって単純に人数を増やせばいいという問題でもない。そのため必要に応じて冒険者ギルドから精鋭を補充されるのだ。


 具体的に言えばこの活動期などはベイルにも人が集まり出入りも活発だ。となれば何かと問題も多くなるものなのである。


「完全にしてやられたようじゃの」


 アルドラはクククと含んだような笑いを浮かべる。


「ぜんぜん笑えない」


 俺は力なく溜息を吐いた。完全に遊ばれた結果と終わった。




>>>>>




 数日後、俺は冒険者ギルドから呼び出しをくらう。


 街なかで魔術をぶっ放した件で怒られるのではない。先日のシアンの1件で一緒に救出したエルフの子供たちの話である。


「失礼します」


 ギルドマスターの部屋へ案内された俺は、そこにいた2人のエルフの男女を紹介された。 


「君が助けたエルフの子供たちの両親だ。直接礼が言いたいと申されてね」


 長い銀髪に碧眼の180センチくらいのエルフ男性と、長い銀髪を1本に三つ編みにした小柄なエルフの女性だ。


 男性は深く頭を下げ、感謝の意を示す。


 この世界の男たちのプライドは高い。それはエルフも同じらしい。それがこのような態度をとるというのは、それだけで大変な敬意を払っている証であった。


「初めまして優しく強い人族の少年よ。私はロウ・マウ。マウ族の代表補佐を務めている。この度の働き、我がマウ族を代表して君に感謝を送りたい」


 礼がしたいと言うものの態度の大きいロウの文言に、黙って聞いていた少女のように若々しいエルフ女性が飛び出してきた。


「ロウ!感謝しているときはね!ありがとうって言えばいいのよ!?貴方がジンね?まだこんなにも若いのにとても強いのね!ウチの子を助けてくれてありがとうジン!」


 飛び出してきた勢いのまま俺に抱きつき、捲し立てるように語り出す。興奮を抑えきれない様子で、凛とした美しさを持つエルフ女性とは思えないギャップに若干戸惑ってしまう。


 俺を抱きしめた状態のまま女性は、ロウと呼ばれるエルフをキリッとした顔で睨みつける。


 その視線を受けて思わず苦笑いを浮かべたロウは、僅かに口ごもりつつも――


「わ、私たちの子供を助けてありがとう」


 そう言って改めて感謝の言葉を述べるのであった。




「ごめんなさい!私ったら名乗りもしないで失礼だったわね!私はマウ族のフィンよ!フィン・マウ!よろしくね」


 そういってがっしりと俺の手を両手で握り、ぶんぶんと揺すってくる。小さいけど元気な女性だ。


 身長140センチくらいだろうか。見た目でだけで言えば小学生くらいにしか見えない。シアンよりまだ低いくらいだ。


「よろしくお願いします。でも礼は不要ですよ。俺はただ自分の身内を助けるために乗り込んだだけです。フィンさんのお子さんを助けられたのは、結果そうなっただけで狙ってやったわけじゃないんです」


 その辺りについても、今思えば軽率だったかもしれない。まぁ今更ではあるが。


「いいえ!私だけではあの者達のねぐらまでたどり着けるかわからなかったわ。結果的でも私達の子供も助けてもらった。その事実は変わらない。やはり貴方には感謝しなければいけないと思う。少なくとも私はそう思うわ!」


 その瞳は強い意志を宿していた。


 まぁ感謝されて悪い気はしない。正直シアンのことで一杯一杯であったため「助けてくれて、ありがとう」と言われても戸惑ってしまうが、ここは素直に感謝の気持ちを受け取るのがいいのだろうな。


「だから何か御礼をしなくてはと思うの」


「だが私たち森の民は、人族の者が喜ぶ金貨の類を持ちあわせてはいないのだ」


 ロウの話によれば人族との間にいくらかの交流はあるため、全く金が無いというわけでもない。村中かき集めれば幾ばくかは見繕うことはできる筈だという。


「それも1つと考えたのだが、私たちは森の狩人。となれば私たちにしか出来ない礼というものがあると思ってね」


 そういって目の前に差し出されたのは朱色に塗られた長弓であった。


「御礼なんていただけませんよ。気持ちだけで十分です。お二人の言葉だけでも感謝の気持ちは伝わっています」


 そういったものの――


「なんと欲のない男だ。だが無欲というのは美徳というわけでもないぞ」


 欲というのは生きるためのエネルギー。


 食欲、物欲、睡眠欲、性欲……欲がまったくない人間は生きていると言えるのだろうか?無我の境地ということもあるかもしれないが、それが人間らしいかといえば考えさせられる所ではある。


 欲とは生への渇望。


 無欲=素晴らしいということでもないのだ。


「私たちは貴方に感謝してる。だから御礼がしたいの。受け取ってくれるかしら?」


 フィンさんが手を握り、困ったような笑顔を向けてくる。


「すいません。そうですね、せっかくのお心遣い。ありがたく頂戴します」




 マウ族はハントフィールド族と同じくエルフの狩猟民族だ。


 彼らは弓の名手で、弓作りの達人でもある。


 彼らが作る弓は非常に優秀で、その独自の製法は外部には伝わっていない。


 それ故に市場では非常に高値で取引されている品でもあった。


「もし気に入らなければ売ってしまっても構わないわ。どのくらいの価値になるかは私たちにはわからないけど、ここのギルドマスターさんは結構な金額になると仰ったから、御礼になるかと思ったんだけど」


 ロウさんの手製の弓で、フィンさんが仕上げた夫婦で作った弓らしい。弓使いならば欲しがるものは多いとギルドマスターが教えてくれた。


 そんなものを貰っても売れるはずがない。だが俺には弓が使えない。


「君ほどの者ならいずれ多くの部下を従えるようになるのだろう。その中に弓に精通した者がいれば、その者に持たせるという手もある。本当に使い道がなければ売ってしまっても構わないのだ。それで君の役に立つなら、この弓にも価値があったということだ」


 むむむと俺は唸った。


 使いみちの思いつかない高級な弓を貰っても正直困るのだが、これは受け取ったほうがいいのだろうか。俺は弓スキルを持っていないわけだし、身近で弓を使うものもいないのだ。


「あの1つ提案があるのですが……もし良かったらという話で」



   

>>>>>




 俺からの提案はすんなりと受け入れられた。


 いくら優れた弓を貰おうとも、使えないのであれば宝の持ち腐れである。

 

 そこでマウ族の薬草術を教えて貰えないか頼んでみたのだ。


 ミラさんのこともある。リザに更なる知識が加われば、より良い結果を生み出せるのではないかという素人考えからだ。


「本来なら外部の者に簡単に教えることはできないのだが……まぁ無闇に広めないということではあるし、同じエルフの女性を助けたいという話であるならば、無碍に断るわけにも行かないだろうな」


「なにカッコつけてるの?もちろんいいに決まってるじゃない!貴方なら悪用しないってわかってるしね」


 そういってフィンさんは俺に向かってウインクしてくる。


 それは「女の勘ってやつですか?」と問うと「そうよ」といってフィンさんは笑った。


 ついでにと霊芝のことも聞いてみた。


 もし所有してるなら、少しでも譲ってもらえないかと。


「済まない私たちは持ち合わせていないな」


 森に生活していれば、魔力枯渇症には成り得ないのでそのための薬というのは存在しないようだ。

 また人の街に出て、体調を崩すことがあれば普通は森に帰ってくる。

 基本的にはそういった考えの者が多いようなので、無理してまで人の街に留まろうという考えの者は稀なのだという。


「帰ったら皆にも聞いてみるが、あまり期待しないでくれ」


 森のエルフたちは通常必要としない素材であるため、所有しているものがいるかどうかはわからないそうだ。


 人族には高く売れるということを、もし知っている者がいれば売却用にと保持している可能性もあるという。


 ただエルフは人族のように金儲けに執着するものがあまり居ないので、どうとも言えないということだ。


「ありがとうございます。十分です助かります」


 もし所有するものがいなくても、村の者でどこかで見たという情報があれば知らせてくれるという約束をしてくれた。


 更に最悪の場合には、ミラさんを一時的にでも養生の為に受け入れてくれる約束も。


「そうだな。もし一時的な養生の為だけに、その件の女性が自分の村へ戻るとなると、余計な蟠りを生みそうだ。それならば違う氏族の村で養生してもらうのも1つの手かもしれない」


 ロウさんの横で、フィンさんもうんうんと唸って首を縦にふる。

 どうやら賛同してもらえたようだ。



 そんなこんなで結局の所、弓の方も受け取った。


 鹿王の朱弓 魔弓 C級 【貫通】


 強い魔力を秘めた素材から作られた強弓である。

 付与されたスキル貫通は、並の金属甲冑程度なら容易に撃ち抜くらしい。



 張りが強く素の状態で引くのは簡単ではない。


【闘気】や【筋力強化】の補助がないと完全に使いこなすというのは難しそうだ。


 これほど強力な張りだと、リザやシアンが扱うのは難しいだろう。

 


 考えれば弓スキルならそう労せずとも、手に入りそうな予感もする。考えが甘いかもしれないが、例えばスケルトンなど魔物の中には弓を使う者も珍しくはないのだ。それを思い出せば、スキルの調達も不可能ではないと思える。


 使いこなせるようになれば強力な武器となるだろうし、先のことを考えて今からでも練習しておこう。同じエルフのアルドラなら扱えるかもしれない。


「村に帰って族長に許可を貰ってからになると思う。まぁ心配せずとも許可は問題なく貰えるだろう。族長は彼女には甘いからな」


 そう言ってフィンさんに優しい視線を送る。


「そうね。今教えてあげてもいいのだけれど、村に戻って資料を纏めてからこのギルドに送りましょう。パパもきっと許してくれると思うわ。もし許してくれなくても、私がなんとかするから心配しないで!それでいいジン?」


 そういうロウさんとフィンさんに俺は頷く。


「はい。よろしくお願いします」 

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― 新着の感想 ―
主人公は誘拐犯の一部を生き延びさせたことで、自ら招いた災難と言えるでしょう。ギルドは彼の情報を闇ギルドに漏らしているようで、しかもその漏洩は迅速に行われているようです。なぜ彼らは責任を取らないのでしょ…
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