第80話 黒い稲妻2
※注意 残酷な表現があります。苦手な方は読み飛ばして下さい。
「あー、うあー」と、醜いうめき声を上げる盗賊に再度顔面に蹴りを叩き込む。
ああッ、くそッ……盗賊は救いようが無いから、殺害しても罪には問われないという話だったが、マジでクズの集まりなのか。
盗賊になるような者というのは、自ら望んでそうなった者達なのだという。
光の射す道を行くのを諦め、自ら闇に落ちた者たちなのだ。
「別に正義がどうのとか、犯罪者を見過ごせないとか言うつもりはない。俺はそこまで正義感溢れるやつじゃ無いからな……だけど家族を傷つけられて、笑って許してやれるほど寛大でも無いみたいだ」
地面にゴミのように転がる男を冷徹な目で見下ろす。
「ひー、ひー、畜生!……痛え、痛えよぉ……なんで酷いヤヅだ!許せねぇ……ひどでなしかお前は!せっかく見逃してやろうと思ったのに……もうダメだ、お前は殺す!殺してやる!絶対に後悔させてやる!……そうだ、あの青い髪のガキを……うひひひひ……いいコトを思いついたぜ。……滅茶苦茶にしてやる。商品なんて関係ねぇ……ここの全員で……お前の目の前で嬲りつくしてやる……決まりだ!さぁ!はやく拘束を解け!後悔させてやる!!」
まさか青い髪のガキってシアンの事か?
この状況わかってコイツ喚いているのか?
俺を怒らせる目的なら大成功だな。
男は「はやくしろ!いいかげんにしろ!」と騒ぐが、あまり煩くされては面倒なことになりかねない。まぁ、もうなってるのかもしれんが。
取り敢えず煩いので、もう数発顔面に蹴りをブチ込んでおいた。
少し大人しくなったのでダガーは鞄にしまい、腰に差した曲剣をゆっくり抜いた。白銀に輝く美しい剣だ。
「もうお前はいいや」
俺はため息混じりに呟いた。
「までッ!ごうがい、ずるぞッ!……お前がァ、相手じようと、じでるのはぁー」
大半の歯を失い、男はまともな言葉さえ発することができない。
口内から濁流のように、ゴボゴボと血を吐き出す様を冷徹に見つめる。
「もういい。喋るな」
「あ”ーーーーッ!」
俺は努めて冷静に、そしてごく静かに緩やかな動作で地面に横たわる男の首を跳ね飛ばした。
勢い良く血が吹き出し、辺りに血の匂いが充満する。
「あー、胸糞わりい」
最悪の気分だ。
このまま【隠蔽】を使ってシアンと他の子を担いで脱出するのでも良いのだが、ここの盗賊どもをこのまま見逃すという気分にはなれない。
相応の報いは受けるべきだ。
いや、そんな話ではないな……
「許せないよな……」
無意識に言葉が口から飛び出す。
そうだ。
許せるはずがない。
俺が許せないから、行動する。
俺の意思と責任を持って。
放っておけば、またシアンに危害が及ぶかもしれない。
さっきの男の言葉を思い出す。
あー、くそ。
感情が高ぶりすぎて、わけがわからん。
考えれば考える程に、胸の奥の熱が高まっていくのを感じた。
そうだ……特にアイツだけは見逃すわけにはいかない。
せっかく招待されたんだ。お望み通り出向いてやろうじゃないか。
俺は【洗浄】で血糊を落とし、死体に【隠蔽】を施して走りだした。
>>>>>
先ほど通過した仮眠室となっている場所では、5人の盗賊が簡易的なベッドで大口を開けて寝ていた。
「んっが……んががががっが……」
どいつもこいつも大きなイビキをかいて、まったく起きる気配はない。奥で起こった騒ぎにも気づいてないのだろう。
不用心にも鎧などの防具は外して、身軽な姿を晒している。
まさかここを襲撃されるとは思っても居ないのだろう。
レベルは17~19あたり、さっきの奴ともそれほど変わらない。
年代は20代~30代くらいか。若気に至りとは言えない大人たちである。
その姿を見て、思わず溜め息が溢れる。
1人殺すのも、2人殺すのも大した変わらないだろう。
コイツらは俺にとっては悪。ただそれだけ。
であれば、もはやためらう必要はない。
俺は単純作業のように非情な刃を振るい、盗賊の首を跳ねて行った。
初めて人を殺した感触としては「こんなものか」と言ったような、特に感慨もないものであった。
ただ盗賊というクズどもに対する憤りが身を蝕んでいく。
いや、今は深く考えるまい。
それにしてもムーンソードの切れ味は凄まじい。
【剣術】スキルも上げているとはいえ、骨も容易く切り飛ばしていく。
硬いものが刃に触れる感触はあるが、その程度である。斬るために特化した剣と言うのも頷ける切れ味だ。
飛び散った鮮血が周囲を彩る。
気づけば生首が地面に転がり、死体が散乱する地獄のような光景になっていた。
ほとんど叫び声も上げる間もなく全員絶命させたために、入り口の連中にはまだ気づかれていないかもしれない。
と思ったが、勘のいいやつはいるようだ。まぁ盗賊といえばゲームでも斥候役としてよくある職業だし、索敵能力が高いのかもしれない。
ここの盗賊は皆レベルは低いようだが、そろそろ俺の存在に気づいてもいい頃か。そういえば戦闘行為によって既に【隠蔽】も解除されている。
ドタドタと慌てた様な足音が聞こえて、1人の盗賊が姿を現す。
「うあっ!?」
部屋を覗き込んだ男は絶句した。
気配に気づいて様子を見に来てみれば、其処には地獄が広がっていたのだ。
その血だまりの中に立つ、黒ずくめの侵入者を凝視する。
「……お、おま、何処から……?」
状況の理解が追いつかず、必至に言葉を絞り出す盗賊の男に俺は無言のまま【雷撃】を放った。
紫の光が巨大な帯を幾重も作り、それが複雑に絡み合って轟音と共に男に殺到した。
熱と衝撃が光の速度で襲いかかり、男は声を上げる間もなく、その生命を失うこととなった。
待っていても他の者はやってこないようだ。
今の音で異常事態だと言うことは知れ渡っただろう。
【探知】で盗賊の動きは把握出来ているので、こちらから向かうとしよう。無駄な時間を掛ける意味もない。
俺は抜身の剣を掲げてゆっくりとした足取りで、残りの盗賊が待ち受けている入り口へと向かった。
異様な雰囲気が場内全体を包み込む。
それぞれに腰の得物を抜き放ち、油断なく鋭い視線を送ってくる。
だがその視線には不安、驚愕、怒りと様々な感情が渦巻いているようであった。
俺を迎え撃つように通路より放射状に陣取り、誰もが身構えて顔を強ばらせている。
「……いつの間に奥に?ふざけやがって、まぁいい。どうせ逃がしゃしないがな」
いつの間にって言うか、普通に正面の入口からお前らの横を素通りしてきたんだけどな。
まぁ逃しはしないってのは、こっちの台詞だ。
「隠密系のスキルか。剣術にも自信があるようだが、どれ俺が相手してやろうか」
集団から1歩前に出た男がにやけた顔で語る。
その手には左右に曲刀が握られている。二刀流か。
男は仲間達に手を出すなと声を上げる。1対1で殺り合うつもりらしい。
「攫われたガキを救出に来たのか?身内か、それとも金で雇われたか。へっ、まぁどうでもいいか」
男の値踏みするような視線が突き刺さる。
「俺に勝てたら逃がしてやってもいいぜ。もちろんガキは諦めてもらうがな」
男の態度と口上に周囲の緊張も緩んでいく。
仲間内でも実力者なのだろう。自分の剣の腕にかなり自信があるようだ。それが周囲の者達に安心感を与えているのか。
所有する戦闘スキルは剣術D級、二刀流F級という脅威とは感じないものだが。
だが1対1でやるなんて話を誰も信じるものはいないだろう。そもそもお前らの勝手な話に付き合う道理はない。
俺がこうして姿を現したのは、お前らを殲滅するためなのだから。
【雷撃】
じりじりと近づく男に問答無用で攻撃魔術を浴びせる。
剣先から放たれた光は熱と衝撃を伴って、男の胸に殺到し凄まじい轟音を場内に轟かせた。
洞窟全体がびりびりと揺れている様な感覚を得るほどの衝撃だ。
男は仰け反るようにして吹き飛び、二度と立ち上がることはなかった。
あまりの出来事に周囲は静まり返る。慌てて蜘蛛の子散らすように逃げ失せると思ったのだが、其処まででもなかった。ある程度は訓練されている集団なのか。
だが驚愕の色を隠せず口を開けたまま固まっているものや、完全に戦意を喪失しているものなど、既に戦闘集団としては死んだも同然だろう。
「……A級でも十分だな」
俺の呟きに場内は騒然となる。
「馬鹿な雷魔術A級?ありえねえ!?」
「だけどよあの射程、あの威力とんでもねえぞ?」
「ただの雷魔術の訳があるか!雷魔術に普通あそこまでの威力なんかねえ!」
「剣も使えて魔術もA級なんて……まさか他国のS級冒険者か?」
騒然とする集団から、背の高い男がのっそりと歩み出る。
「……やっぱり来たな雷使い」
大柄な体躯に、間抜け面。……あぁ、たしかヴィクトルと言ったか。
ヴィクトル 武闘家Lv32
人族 23歳 男性
スキルポイント 1/32
耐性 C級
体術 D級
剛力 D級
探知 D級
鉄壁 E級
見たところレベルはこの中で一番高い。
この若さでこのレベルは、これまでに相当な修練を積んできたことが伺える。
しかし、だからこそなぜそれを外道へと使うのかは理解できない。
まっとうに生きれば、それなりの地位も得られたかもしれないのに。
「お前のせいで、兄ちゃんの前でとんだ恥をかいちまった。どうしてもそのムカつく面に一発ブチ込まなきゃ、帰るに帰れないと思っていたところだ」
にやにやと歪んだ顔を見せて、ヴィクトルはほくそ笑んだ。
「あのガキを攫えば、必ず来ると思っていたぜ。この人数じゃ、逃げ場はねえ。それに……」
懐に手を差し込むと、宝玉のようなものを取り出した。
吸魔石 魔導具 C級
透き通った水晶の如き石には、真鍮で作られたような装飾が施されている。
見るものが見れば、芸術的な価値も示すことが出来そうな一品だ。
「ある御方から預かった、魔術師対策の魔導具だ。俺には雷魔術は効かねえが、これがありゃ他にどんな小細工を仕込もうが無駄だぜ」
周囲から「おぉ……」とざわめく声が聞こえる。
そんなのあるなら最初から出せばいいのに。さっきの奴が可哀想だろ……別にいいけど。
盗賊の癖にいい魔導具持ってるな。それが雷魔術対策ってやつか。
C級の装備を支給されるなんて、けっこう大きい組織なんだろうか。
それはともかくどの程度の性能なのか……物によっては俺も欲しいな。
「試してみるか。S級の【雷撃】にC級の魔導具が堪えられるかどうか実験だ」
「……あ?」
かなりの魔力を使ってしまうが、ここで何時までも盗賊と遊んでる訳にも行かないだろう。世話になった礼もあるし、魔力を多めに込めてサービスしてやるか。
両手に魔力を集めて、それを放射状に打ち出す雷魔術。
【雷扇】
両手のひらを拝むように合わせ、そして僅かに間隔を空ける。
その間に輝く黒い稲妻が生まれ、徐々に間隔を広げると次第に雷は大きく強く成長していった。
それはまるで生命を宿しているかのごとく跳ねまわり、その輝きは周囲を照らすほどに強く大きくなっていく。
程なくしてその力は解き放たれる。
魔力を貯め、実際に撃ち出されるまでの数秒間、誰も動けずにただその光景を眺めていた。
魔術師の手元で生まれた強く巨大な光は無数の輝く帯となって、それぞれが獲物を求めて動く獰猛な蛇のように彼らに向かって飛び立って行った。
「ぐあああああああッッッ!!」
ヴィクトルには何が起きたのか理解できないだろう。
気づいた時には全身を、激しい熱と痛みが包み込んでいるのだ。
手に持っていた宝玉はいつの間にか落としたのか、地面を転がっている。よく見れば宝玉には触れるだけで2つに割れそうなほどの大きな亀裂が走っている。なんとか玉という形状を保っているだけの状態のようだ。
「やはりC級ではこんなものか。しかしだいぶ威力は削がれたようだ。結構生き残りもいるしな」
それにしても今回のは、いつもの【雷撃】の輝きとは違っていたな……黒かった気がするし。
……何だろう?魔力の込め具合で変化が起きたのだろうか。まぁ、追々検証するか。
目をやれば直接魔術を受けたものは元より、その余波を受けて大多数の盗賊が地面を転がっている。うめき声が聞こえることから、まだ息があるものも多そうだ。
「……馬鹿な!?本当にS級の雷魔術!?」
全身に熱湯を浴びたように湯気を吹上げ、その皮膚は痛々しくも血で滲んでいる。魔術による衝撃が全身に及んでいるのだろう。しかし、それでも立って口が訊けるのは流石とも思える。元々の体力と耐性のスキル、吸魔石の効果なのだろうか。
「お前にも家族がいるんだろう?それを思えば、こんな悲しいことするもんじゃないって考えないもんかね」
俺はため息混じりに、ヴィクトルに向かって吐き出した。
別に反省してほしい訳でも、謝罪の言葉が聞きたいわけでもない。
どういう意図でその言葉が口から出たのか、俺自身わかっていなかった。
ただ思っていた言葉がつい溢れてしまったのだ。
「……ははっ、何が家族だよ……」
ヴィクトルは呟くように答えた。
幼いころに【耐性】という珍しいスキルを持っていた為に、実の両親にとある組織に売られた事。
そこで実験という拷問を連日受けて育った事。
ある時、使えるということで今の組織に買い取られた事。
「……くっだらねぇ……自分以外に大事なものなんてあるのかよ?他人は利用するか、されるかの関係しか無いんだよ。だから俺は利用してやるんだ。もう利用される人生はまっぴらだからな!」
ヴィクトルは叫ぶように言い放った。自分の中に溜まった何かを吐き出すかのように。
「寂しいやつだなお前。大事なもんが自分だけなんて、そんな人生寂しすぎるだろ……」
「……あぁ!?」
腰に差した曲剣を抜き放ち、白銀に輝く刃を振り抜いた。
男の巨体は地面に伏し、その首はもはや何も応えることもなく傍らに転がるのみである。
「まぁ、お前の人生なんて知らねーよ。お前はシアンを傷つけた。それだけでお前が死ぬ理由には十分だろ」




