第7話 秘密の部屋
「はぁ~、朝イチで入る露天風呂の贅沢さといったらないな」
昨日はいろいろあって、ほとんど眠れなかった。
なんだか体が怠重いが、それもこの湯に浸かればだいぶに楽になった気がする。
『うむ、この湯は我が村、自慢の宝じゃ。そもそもわしが発見したものでな、切り傷、擦り傷、打ち身、手荒れと皮膚の疾患に何でも良く効く。この白濁した湯に、若干とろみのついた湯がなんとも体に良さそうじゃろう?』
「……えぇ。ところでアルドラさんは、何故ここに?」
『わしは毎朝この風呂に入るのが日課なのだ』
「もう夜明けましたけど、亡霊なのに平気なんですか?」
『うむ、気合を入れておけば平気じゃ』
「……そうですか」
俺は村の畑で手にれた芋を茹でて朝食にした。
「ところでアルドラさん、ここから大きな街まで行く道というか、方法とかってわかります?」
俺もいつまでもこの村に引きこもっている訳にもいかない。
いつ魔獣や妖魔に攻め込まれるか、わからないし、なにより人が居ないのは寂しすぎる。
『うむ、わかるぞ』
倒壊した家屋から、板を持ってきて木炭のかけらで地図を描いてくれることになった。
「亡霊は物持てるんですか?」
『気合を入れれば、短時間なら可能じゃ』
けっこう何でも気合なんだな。
アルドラさんは少し体育会系の臭がした。
数分後……
『できたぞ』
「……」
うん、ぜんぜんわからん。
アルドラさんが地図描くの下手なのか、亡霊のために物体を持ち上げるのが困難なのか知らないけど、とにかく何書いてるか不明すぎる。
暗号解読ってレベルじゃない。
「すいません、説明してもらえますか?」
『うむ、いいだろう。まず村の正面の門を潜り、坂を下って……』
アルドラさんは説明も下手だった。
どうも亡霊だからどうのという問題ではなく、この人自身の問題のようだ。
俺は地図の問題を一旦後回しにして、狩りに出かけることにした。
『ふむ、そうか。ならばわしの屋敷に行ってみるといい。何か役に立つものがあるやもしれん』
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村のとある一角に完全に倒壊した元屋敷があった。
「ここですか?」
『うむ、ほれ、そこら辺に地下の収納庫への入口があるはずじゃ、探してみい』
山盛りの木材に押しつぶされてますけど、これを俺1人でどかせと?
『若いもんが何を甘えておるか。わしは亡霊じゃから、廃材には触れられん、自分で何とかせい。その代わり、中の物は自由にして良いぞ』
アルドラさんの気合でどうにか動かせないかと一瞬思ったが、後ろを振り返ると腕を組み仁王立ちのまま、首だけを動かし、はよせいと急かしてくる。
仕方ない頑張るか。
口ぶりじゃなんかありそうだし、自分のためだもんな。
自分でやるしかないか。
何とか時間を掛けて廃材をどかすと、床に絨毯のようなものが引いてあるのが見えた。
かなり汚れているそれを引き剥がすと、床下の収納庫へと繋がる扉が現れた。
アルドラは廃材の山の中に入っていき、何かを手に帰ってきた。
『これが鍵じゃ開けてみい』
中は当たり前だが真っ暗である。
俺は自前の小型ペンライトで収納庫内へ進入する。
地下へと下りる階段を1歩1歩確かめ入った。
『ほう、ずいぶん小さな灯火の魔導具じゃのう』
やっぱりあるんだ魔導具。
どういったものがあるのか興味が湧くが、とりあえずそれは後にしよう。
収納庫内は高さ3メートルくらいで広さは6帖くらい。
ぐるりと何段かの棚が設置されていて、俺が見たことのない色んなモノが置いてある。
傷薬 薬品 D級
ライフポーション 魔法薬 C級
マナポーション 魔法薬 C級
キュアポーション 魔法薬 C級
大角鹿の角 素材 D級
銀蜥蜴の鱗 素材 D級
黒狼の毛皮 素材 D級
魔石 素材 E級
魔石 素材 D級
魔石 素材 C級
カシラの杖 魔杖 E級
発火棒 魔導具 E級
力の指輪 魔装具 E級
疾風の革靴 魔装具 E級
影隠の外套 魔装具 D級
金の腕輪 魔装具 D級
破邪の青銅剣 魔剣 F級
乾燥黒華豆 食材 C級
何やら気になるものがたくさんある。
俺の魔眼も発動しっぱなしである。
俺の魔眼では、ゲームのような細かい説明文のようなものは表示されないので、アルドラさんに補足をお願いした。
『傷薬は、よくある軟膏じゃな。旅人だろうと、農民だろうとみんな使うとる。もっとも普及しているのはFランクほどの粗悪品のもので、そこにあるような高品質なものだと中々手に入れるには苦労するじゃろうな。もちろんランクに見合った効果はあると思うがの』
更にアルドラの説明は続いた。
軟膏は保存が効くため便利。
ポーションは水薬で即効性があるが、低ランクのものだと消費期限が短く、保存が難しい。
魔石は一件石炭にも見える黒い石。
質の低い物は川とか地表近くの土中にも埋まってる場合もある。
多くは魔物の体内で発見され、魔導具など様々なものの燃料などに利用される、魔力の結晶。
魔杖は魔術を扱うものが持つ魔導具の一種。
魔力を増幅したり、魔力を込めることで特定の魔術効果を発動したりする。
魔装具は身につけ、魔石を使うか、装備者の魔力を使用することによって様々な効果をもたらす、装備の一種。
魔剣は魔法の力を持つ武器。
俺はその中でも、特に気になったものを手にとった。
魔石(剣術)
魔石(体術)
魔石(火魔術)
見た目の色艶は他の魔石と同じようなのだが、何やらオーラのような湯気のようなものが立ち上っているように見える。
アルドラに確認した所、知らないらしい。
俺の持つ魔眼でなければ見えないのだろうか。
これらの魔石は、他の魔石共々、一塊にして保管されていたので、特に特別扱いされていたようでもない。
これは使うことでスキルを覚えられるアイテムなのか?
俺の中で疑問が確信に変わった。
鹿島仁 漂流者Lv4
人族 17歳 男性
スキルポイント 1/4
特性 魔眼
スキル 雷魔術 E級
剣術
体術
火魔術
特別な魔石からスキルを得られる。
これはすごい発見ではないだろうか?
「アルドラさん魔石からスキルを得られるって話聞いたことあります?」
『そんな話初めて聞いたのう。わしの目には普通の魔石と変わらんように見えたがの』
オーラを放つ魔石を手に取り触れると、魔石の魔力が俺の中に流れ込んできたのだ。
魔石を覆っていた光は消失し、今は他の魔石と同じように石炭のような黒光りした石となっている。
「ここにある魔石って、このあたりの魔獣の体内から取り出されたもの何ですか?」
『そうじゃな、ずいぶん昔になるが、まだ村の近くにも強い魔物が居った時のものじゃ。売ってしまっても良かったんじゃが、少々質の良いものらしいので、何かの時の為にと取って置いたのじゃ』
となると魔物を狩り、そこから魔石を手に入れスキルを入手って流れになるのか。
ちなみに魔物というのは魔獣や妖魔の一般的な総称である。
あの大量に倒したインプからも、もしかしたら魔石が得られたかもしれなかったな。
惜しいことをしたかもしれない。
『レベル1やそこらの魔物からは魔石は得られんと思うぞ。魔石は体内で魔素が結晶化したものじゃ、結晶化には長い時間が掛る。生まれて間もない低レベルの魔物では、まだ体内で魔石は作られていないじゃろう』
「ある程度レベルが上がっている魔物なら、必ず魔石が体内にあるもの何ですか?」
『必ずではないのう。個体によって魔石を持つものと持たざるものがいるようじゃ、魔石は街へ行けばそれなりの値段で売れるからの。持って行くといいじゃろう』