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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
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第74話 エルフの秘薬18

「一体どういう状況じゃ……」


 アルドラは難しい顔をして、そう呟いた。


 俺の祈りが届いたのか、アルドラは時空魔術【帰還】にて俺の前に姿を現した。


 そして彼の目に飛び込んできたものは、半裸の俺とそれに抱きすがるリザとシアンだった。


「とにかく話は後だ!どうにかしてくれ!」




>>>>>




 アルドラに彼女達を抑えていて貰い、俺はリザの部屋から薬を探した。


 アルドラの話によればキュアポーションでは回復しないだろうという話なので、彼の助言から効きそうな薬を探している。



 鎮静薬 薬品 E級


 あった、これかな。


 

 俺は二人に薬を飲ませベッドに寝かせた。


 薬を飲むとさっきまでの混乱は嘘のように落ち着き、しばらくして眠りに落ちた。


 アルドラによれば「目を覚ませば回復しているだろう」とのことだった。




「成長したようじゃの」


 アルドラがにやりと笑う。


「まぁ、いろいろあったよ。それより何処にいたんだ?」


 俺のことを主と言いながらも、随分と放置していたじゃないか。


「森に。というか眷属の居場所は把握できるじゃろう?」


「まぁな」


 アルドラは冒険者を引退してから30年以上経つ。

 引退してからは村長として、更には族長として仕事をしていたために剣を振るう機会はめっきり少なくなっていたそうだ。


 神経を擦り減らし、命を掛けた戦いとなると、もっと昔から縁遠くなっていた。


 つまりは腕が訛っていたのだ。


「昔の感覚を取り戻すために、リュカに手伝って貰ったと言うわけじゃ」


 まぁ半ば強制的にじゃがのうと、アルドラは笑った。


 現役のS級冒険者との実戦訓練。


 無論真剣での打ち合いだ。


 アルドラの体は魔石があれば魔力を回復できる。魔力があれば傷ついても回復できるので、濃い内容の訓練が出来たそうだ。


 その笑顔は無邪気な少年の様にも見えるし、獰猛な野獣の様にも見える。


 アルドラの話によれば「昔の感覚が少し戻った」だそうだ。


 


>>>>> 




 すやすやと眠るリザとシアン。


 状態:正常


 どうやら状態異常は回復したようだ。

 寝顔を見ても異変は感じられない。呼吸も安定しているように見える。


「何だったんだあれ?」


 俺の視覚にあの怪しげな壺が入る。


 壺を手に取り中身を確認すると、どろりとした粘度の高い黒い液体が収まっていた。

 液体と言うには語弊があるような見た目だ。

 微かに異臭がする。


 なんというか嗅いだことのない不思議な臭いだ。なんとも形容しがたい、複雑な香りである。


「エルフの秘薬か」


 アルドラが壺の中身を眺めてそう言い放った。


 エルフを初めとした妖精種と呼ばれる種族は、人と比べれば長命な者が多い。


 エルフに限って言えば森の奥地に済み、家族単位の集落にて細々と質素な生活を営むというのが一般的な人族のイメージのようだ。

 かく言う俺もそのイメージとさしたる差はない。


「人族の住む平野とは違い、耕作できる土地は限りがあり得られる食料には限界がある。産めよ増やせと言うわけにも行くまい」


 つまりはエルフは住む土地に合わせて、そういう進化をしてきた種というわけか。

 森の中を大きく切り開き、開拓するにも魔物などの弊害もある。

 魔素の濃い森の奥地では、ある特定の種においては異常な速度で成長、繁茂する種もあるという。


 そんな森に合わせた生活様式を行っているのが、エルフという種族なのだ。


 子孫を増やしていくよりも、個人の寿命を伸びるように伸ばすように進化したのだ。


 そういうわけかどうかはわからないが、エルフの男性というのは性欲が薄く淡白であるらしい。超草食系男子だ。

 エルフの女性は妊娠しにくく、男性は性欲が薄い。


 そうすることで限られた森という空間で繁栄し過ぎないように、人口調整を行ってきたということだ。


 人口増加が行き過ぎれば、食糧難という最悪の事態が訪れるのは目に見えている。

 

「エルフの秘薬は男性機能を増幅させる薬じゃ。なかなかその気にならないエルフの男どもを、その気にさせるというものじゃな」


 アルドラはカカカと笑って答えた。


 エルフのそういった性質から、いざというときにも困ることが多いという。

 そういう時のための薬なのだ。


 秘薬というからには門外不出で、一族の中だけで使われる秘匿とされるべきものらしいが――


「わしの村で言えば最近ではそこまで不能の者は少ないようじゃな。ただ素材には採取に面倒なものが多いし、簡単に作れる品では無いはずじゃ」


 アルドラからの指示でリザが村に滞在していた際に、その調合法や使用許可は与えてあった様だ。

 リザなら無闇に広めることもないだろうし、悪用もしないだろうと思ってのことだろう。使う機会があるかはわからないが、知識の1つとして与えたのだという。


「それにしても薬の効果が強すぎないか?使い方間違えたら、大変なことになりそうだけど」


「そうじゃのう。じゃがわしの村で与えた調合法の秘薬ではエルフの男にしか効果はないはずじゃし、こんな効力は無いはずなんじゃがなぁ……」


 腑に落ちないといった様子のアルドラは、思案した顔を見せてベッドで眠るリザに視線を落とした。


「……んっ」


 リザの意識が回復したようだ。

 

 彼女は薄目を開けて周囲を確認すると、徐々に覚醒し理解が追いつくと目を見開いて飛び起きた。


「えええ?うわああああああ!?」


 顔を赤く染め、わなわなと体を震わせ、混乱するリザ。


 俺とアルドラの顔を交互に見渡し、なんとなくこの状況がわかってきたようだ。


 バタンッとベッドに顔を押し付ける様に倒れこみ「あああああー違うんです違うんですー」と叫んでいる。


 俺はベッドの縁に座り「大丈夫だ気にするな」と慰めにもならない言葉を投げかけた。


 どうやら先程の出来事の記憶はあるようだ。


 彼女の話によると調合したのはエルフの秘薬で間違いないが、アルドラの村で教えてもらった調合法にリザ独自のアレンジを加えたのだという。

 

 リザはリュカなどからも、獣狼族独自の薬草術といった知識を得ている。持てる知識を総動員して、効果効能を客の要望に合わせて調整した新しい秘薬のようだ。




>>>>>




 リビングでワインを傾けていると、調合を依頼したという客が薬を取りに来た。


「リザちゃーん。お薬貰いに来たにゃー」


「うるさいよタマ!もう少し静かに呼びなさいよ!」


「ミケはばかにゃー、静かにしたら呼べないにゃー、案外アホの子にゃー」


「あんたに言われたくない!」


 何処かで聞いたことのある声が玄関から聞こえてくる。


「二人共静かになさい。先生のお宅ですよ」


 静かに落ち着いた声の女性が、二人を窘める。




「お待たせしました。お約束の品ができました」


 薬を持ったリザが客の前に姿を表す。


 あの壺に入った謎の黒い物質は、今は硝子瓶に収められ密閉されている様だ。


 あれを渡して大丈夫かと心配したが、薬の効果を強めるのは難しいが、弱めるのはまだ難しくないらしい。

 既に薬の効果は適切なレベルにまで弱めているようなので安心した。


 実際に使用する際には更に水で薄めるらしい。




 リビングでアルドラとだらだらと飲んでいると、リザから声がかかった。


「初めましてジン様。私は彼女達の上役を努めさせて頂いております、モクランと言う者です。今回は手前どもの無理な依頼に尽力して頂いたようで、感謝の言葉もございません」


 今回の依頼達成の際に大きな力になったのは、俺だということを説明したらしい。


 モクランと名乗る彼女は確かに、後ろの2人の上司のようで2人は緊張した面持ちで控えている。

 しかし俺と目が合うと、にたにたとした笑みを浮かべて、目で合図をしてくる。

 俺はそれに苦笑して答えた。


「俺は大した事はしていませんよ。調合はリザがやったことですし、俺はただの手伝いですから」


 そういうもモクランは軽く首を振って応える。


「もちろん先生には大変感謝しております。こんな相談ができるのは、この街でもリザ先生以外には居ないでしょうし、無理な願いも何とかしようと考えて頂いただけでもありがたいのに、こうして結果を出していただいた。こんなに嬉しいことはありません」


 これで多くの娘達が救われると、モクランは嬉しそうに微笑んだ。


 健康的に日焼けしたような小麦色の肌に、明るい褐色の髪は胸元まで長く伸びウェーブが掛かっている。

  

 ダークブラウンと言ったような濃い茶色の瞳。


 整った顔立ちに、その頭部には湾曲した2つの角が突き出していた。


 背は高く俺よりも頭1つ上のようだ。


 モクラン 妓女Lv52  

 獣牛族 36歳 女性


 着物の様な衣に身を包み、その胸元は大きく開かれている。


 それにしても大きい。


 その迫力はミラさん以上だ。


「ジン様?」


 うっかり凝視していた視線を戻す。


 不思議そうな顔をするモクランに俺は笑って誤魔化した。


いつまでも若々しいエルフや、一定の年齢を過ぎれば老化の遅くなるドワーフなどと違い、獣人は人族と似たような寿命と歳の取り方だと言われている。


そういった意味ではモクランは年相応、極端に若々しいとは言えない。しかし人族よりも優れた身体能力を持つ獣人ならではなのか、肉体の衰えというものを感じさせない色艶というものがあった。


その所作、佇まいから自分の美というものに絶対の自信を持っているのが感じられる。


妖艶ともいえるそれは、ある意味で完成された女の美しさを体現しているようであった。


「ともあれジン様にお力を頂いたのは事実でしょう。リザ先生もそう仰っておりますし。先生への報酬は当然用意しておりますが、ジン様にも是非とも御礼がしたく思います」


 モクランに是非お店に立ち寄っていただきたいと強く念を押される。


「俺よりリザをお店に招待するほうが良いのでは?」


 そういう俺にモクランは申し訳無さそうに答えた。


「私どもの店のある花街は女性は立ち入り禁止なのです。申し訳ありません」


「ジン様、どうかモクランさんの申し出をお受けになって下さい。彼女にも立場というものがあるのです」


 俺の後ろに静かに控えていたリザが助言を与えてくれる。


 モクランはその言葉に頭を下げる。


 それもそうか。彼女は個人的な事でここに立っているわけではないのだ、店の代表として来ているのだろう。

 俺は彼女の申し出を受け入れ、近いうちに顔を出すことを約束した。


 通常は予約して出向くものらしいが、今回は向こうからの招待のために予約は必要ないという。

 いつでも迎え入れる準備をして待っているとのことだ。


 そこまで言われると恐縮してしまう。

 これは早めに顔を出しに行ったほうが良さそうだ。 

 


 

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