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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
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第58話 エルフの秘薬2

 川に辿り着いた俺達は、馬から降りて採取の準備を始める。


「ところで馬を繋ぎ止めておく木も無さそうなのだがどうする?」


 周囲は草ばかりで背の高い木の姿は見当たらなかった。


「そのあたりに野放しでいいでしょう。呼べば戻ってきますし、魔除けが効いてる筈ですから問題ないかと」


 それに魔物に襲われても、たぶんこの馬なら返り討ちにできるとのことだ。

 盗賊もこんな見晴らしのいい湿地帯に潜んでいるとは思えないし、こんな人通りの無いところに潜む意味も無いだろう。

 まぁ大丈夫か。


 それにしても呼べば戻ってくるのか?頭いいんだな馬って。


「これを使えばかなり離れていても戻ってきますよ」


 馬笛 魔導具 D級


 貸馬屋で借りてきたらしい。

 吹くと人間には聞こえない音を発し、数キロ離れた馬も呼び寄せることが出来るのだという。


 貸馬屋で提供している馬たちは、この笛の音に反応するように調教されているようだ。




>>>>>




 川の水はゆったりと流れている。よく見なければ、流れているのがわからないほどの速度である。


 川底も浅く膝下ほどしか無いようだ。


 ベイルの北には、ルタリア王国の大地を潤す程の大河が流れていると聞いたのだが、これがそうなのだろうか?

 聞いた話と実際のものには、だいぶ隔たりがあるようだが。 


「それはバウリ大河のことでしょうね。ここより更に3日ほど北へ行くと辿り着けるかと」


 バウリ大河は大森林からの湧き水と、北の山脈から流れ込む水が合流して巨大な流れを作っている大河らしい。

 水量も豊富で川幅も広く、大型の水棲魔獣も多く住むという。


「ベイルから北東へ向かえば、大河を利用した輸送を行っている港町があるはずです」


 どうやらベイルで生産された豊富な資源は、そこからルタリア国内へと輸送されているようだ。




 俺達はそれぞれに目標となる獲物を探した。


 俺には探知スキルもあることだし、異変があれば気づけるだろう。

 ただ一昨日のシャドウの件もあることだし、目視での確認も重要なのは間違いない。

 スキルを掻い潜る魔物が多くないといいのだが。


 ここは遮蔽物も無いことだし、異変があれば直ぐにわかるだろう。

 別々に探すと入っても、そこまで離れているわけでもない。


 馬も放してはいるものの、俺達からそう離れずに近くに佇んでいる。


 膝下ほどまでの水深の川を探るように進む。


 獲物は川底に潜んでいるらしい。


 幸い水の透明度は高く、探すのは問題無さそうだ。


「あ、いた」


 川底にへばりつくように潜む魔物だ。



 ソフトシェルタートル 魔獣Lv2



 状態:擬態



 両手のひらを合わせたくらいのサイズ。


 魔物にしては小型だろう。


 いわゆるスッポンである。


「さすがジン様、凄いです!」


 リザの熱い眼差しが注がれる。

 美人から凄い凄いと、持て囃されるのは正直気持ちがいい。


 男というのは、頼られたがる生き物なのだ。


 俺はリザに教わったとおりに捕獲を試みた。

 後ろからそっと手を差し込んで、甲羅の後ろを掴む。


 掴まれた瞬間、逃げようと激しく暴れ、異様なほど首を伸ばして抵抗するが用意してあった麻袋に放り込んで事なきを得た。


 一応【麻痺】を撃ち込み、動きを封じておく。


 爪も思った以上に鋭く、素手では危険だと思った。

 やはり小さくとも魔獣なのだろう。


 


 そこから俺の魔眼を頼りに捜索が始まった。

 リザは麻袋を手に追従する。


「ジン様、あれを」


 リザが空を見上げて指をさす。


 澄み渡る青空に、鳥の群れだ。

 ここから見てもけっこう大きい。



 デスバード 魔獣Lv4



「襲ってくるか?」


 鳥の群れは俺達の上空を通りぬけ、遠くへ飛び去っていった。

 すぐ襲ってくるつもりは無いようだ。


「あれは腐肉を漁る森の掃除屋です。生きた獲物は滅多に襲いません。特に自分たちより格上には、まず向かってこないでしょう」 


 探知は一瞬だけ反応して、すぐに途絶えた。

 スキルの射程外へ飛び去ったのだろう。


 ともかく魔物が居ないわけではないらしい。


 


 魔眼はスッポンの擬態を容易く見抜く。

 生息数も多く、捕獲は思った以上に簡単に進んだ。


 スッポンを10匹ほど捕獲したところで――


「これだけ捕れれば十分です。ありがとうございましたジン様」


「では帰るか」


 今日の仕事は終了となった。




 馬2頭は少し離れたところにいる。


 試しに笛を使ってみるかと、リザに吹かせてみると。


 スーッ


「人間には聞こえない音なんだな」


 音と言うより、魔力の波を放っているらしい。

 人族より耳がいいというエルフの血を受け継ぐリザにも、音は聞こえないようだ。

 ただ肌がざわつく感じはあるという。

 それが魔力の波と言うやつなのだろうか。


 ちなみに俺の魔力探知には反応しないわけだが。




「……来ないな?」


 笛を吹いて少し待つも、馬が寄ってくる気配はない。

 ここから肉眼で見える距離にいるため、居なくなったわけではないのだが、様子がおかしい。

 試しにもう一度笛を吹くが、やはり来ない。

 何かあったか?


「行ってみましょう」


「ああ」


 俺達は異変を感じて、馬のもとへ駆け寄った。



 バシャバシャバシャッ



 水辺で激しく馬が暴れている。

 何かを振り払うように。


 何かに襲われている?


 俺は馬のもとへ近づいた。

 

 あまり接近すると暴れる馬に巻き込まれそうなので、一定の距離を置いて周囲を伺う。


 そこに見たものは、馬の足元に群がる無数の魔物の姿であった。


 肉厚の平べったい黒ずんだ何か。

 太った茶さじのようなフォルム。

 ツチノコの様でもある。



 リーチ 魔獣Lv3



 リーチ?蛭か。


 探知スキルで探れば周囲には多くのリーチに囲まれているのがわかる。

 離れた位置にもいるため、だんだん集まってきているのかもしれない。


 俺は腰の剣を抜き放ち、すぐ手前の魔物に突き刺した。


 グヌッ


 硬いゴムのような感触。


 切っ先が僅かに刺さる程度で、手応えがない。

 

 リーチの動きは鈍いが、着実にその数を増やし包囲を狭めてくる。


 その内の1体が、体をくねらせバネのように撥ねた。

 弧を描く軌道で、リザの死角を突いて頭部を目掛けて襲いかかる。


「リザ!そのまま動くな!」


 俺は素早く反応し、剣で叩き落とした。


「大丈夫か?」


「はい、大丈夫です。ありがとうございます」


 リザはこの地に何度か訪れた事があるようだが、この魔物は初めて見る種類のようだ。


 馬の前蹴りがリーチを踏み抜く。

 体重の乗った強烈な一撃だが、リーチには大して効いていない様だ。


「非常にタフのようだな。しかし水辺では【雷撃】を撃つわけにも……」


 直接水辺に【雷撃】を撃ち込んだことはないが、雷付与した武器を差し込んだことはある。

 確かその時は水を伝わった筈だ。


「あ、そうだ」


 新たに修得した魔術があったことを思い出した。


 闇魔術 恐怖


 俺は目の前に居るリーチに魔術を放つ。


 俺の手から放たれる黒い靄の塊が、リーチに接触すると黒いオーラが纏わり付いて、リーチを苦しめる。

 まぁ聞いたわけではないので、そう見えただけだが。

 リーチはビクンビクンと痙攣したかと思うと、そのままカチコチに固まり動かなくなった。

  

 触れてみてもカッチカチになっていて、とても生気ある状態には見えない。たぶんコレ死んでるな。



 状態:死亡



 どうやら死亡に間違いないようだ。


 死んだ直後はこうして魔眼でステータスを見ることができるが、暫くすると見えなくなる。


 その場合は死体と表示されるのみである。


 俺は次々にリーチを闇魔術【恐怖】で仕留めていった。


 使っている内に使用感がわかってきた。


 有効射程距離は推定5メートル。

 手から黒い靄の塊を発射し、弾速はめちゃくちゃ遅い。


 当たると靄は弾け拡散し、接触した対象物に靄が纏わり付く。


 その瞬間、魔眼で確認すると状態:恐怖となっていることがわかった。


 しばらく痙攣しているが、その後だいたいカチカチになって死亡する。

 中には死なない奴もいたが、かなり弱っていて耐久性も脆弱になっていたため剣で容易く貫く事ができた。


 誤ってリザはもちろん馬にも当てるわけにはいかないから、使用には細心の注意を払ったことは言うまでもない。


 これはかなり危険な、強力な魔術のようだ。  

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