第5話 雷刃旋風
「うおおおおぉぉーーーッ」
俺は森の中を、走りながら雄叫びを上げる。
木々を縫うように走り回り、槍を振り回した。
槍の使い方など知らないので、でたらめな素人槍術だ。
軽くて頼りなさ気な骨の槍だが、案外役に立っている。
雷付与を施してあるためか、それなりの威力があるなのだ。
穂先からバチバチと紫電が迸り、それがインプに触れると短い時間だがスタンガンにでも当たったかのように、その身を硬直させひっくり返るのだ。
勢いをつけて差し込めば、インプの丈夫な皮膚にも幾らか突き刺さるようだ。
俺は襲ってきたインプを撃退すると、どうも群れの怒りを買ったらしく彼らに森を追われる羽目になった。
最初に手を出したのは奴らなので、俺に否はないはずなのだが。
まぁ如何にも野生動物といった様相の彼らに、何を言っても意味などなさそうではあるが。
迫り来るインプの群れを槍にて突き、払い、時に雷撃を放って撃退する。
奴らの爪はかなり鋭く、飛びつかれるとけっこうヤバイ。
背後から俺の足に飛びついてきた1匹に、強く足を噛まれ鋭い爪を起てられる。
「ぐうぅあッ」
痛みに堪え紫電を纏った槍を使って、足に噛み付くインプを引き剥がした。
ギャッ
インプは短い悲鳴を上げて、倒れこむ。
倒れたインプの首元に、槍を突きつけ止めを差した。
城壁までもう目の前という所まで来ているが、無数のインプに囲まれうまく引き剥がせないでいる。
このまま破損した門を潜るまで時間がかかれば、手痛いことになりそうだ。
城壁手前の広場まで辿り着いた。
1本の大木を背に、槍を構える。
コイツら早く諦めて帰ってくれないかなぁ……
槍の穂先から紫電が迸る。
指先からだけでなく、穂先からでも雷撃を放てるようになっていた。
もう何度雷撃を放ったのかわからない。
そういえばこの雷撃は、ゲームで言うところのMPみたいなものを消費しているのだろうか?
そういえば少々疲労感が出てきたような気がする。
しつこく纏わり付くインプたち。
他と比べれば幾らか皮膚の柔らかい、急所であろう首を狙い、雷撃で動きを止めその首元に穂先を突き入れる。
周辺には既に多くの骸が、うず高く積まれていた。
何かおかしい、戦闘状態になってしばらく経つが疲労感はあるものの、何かより力が入るような感覚があった。
もしやと思い自身のステータスを確認する。
鹿島仁 漂流者Lv3
人族 17歳 男性
スキルポイント 2/3
特性 魔眼
スキル 雷魔術(F級)
いつの間にか、レベルが上がっていたようだ。
俺は思いつくまま、雷魔術にポイントを注ぎ込む。
スキルポイント 0/3
雷魔術(E級)
おぉ、いけるぞ!
俺がポイントの操作に気を割いている隙に、ジリジリと迫るインプの群れ。
1匹のインプが気を見て、死角から飛びかかる。
俺は咄嗟に反応し、穂先より雷撃を放った。
いままでの雷撃よりも、あきらかに威力が上がっている。
力強い、より強力な閃光が空を疾走る。
紫電が飛びかかってくるインプに接触すると、激しい衝撃音と共にインプを絶命させた。
ギャギャギャッ
インプたちの狂ったような喚き声が、周囲に響く。
俺は槍に力を込める。
雷撃を穂先に収集させる。
雷付与
穂先が強く輝きを増す。
白に近い強い光。
「うおおおおおおぉーーーーッ!!」
頭上で槍を回転させ、雷付与で強化された槍から雷撃を放ち続ける。
雷撃の無差別放出だ。
無数の光が放射された。
周囲を音と光が魔物を威嚇し、怯ませた。
白煙が立ち込める。
その中には、おびただしい数のインプの亡骸が横たわっていた。
骨の槍は役目を終えたかのように、穂先からヒビが走り、やがて自然に砕け折れた。
「はぁ、疲れた……」
あたりからは生物の気配は消えていた。
どうやら戦闘は終わったようだ……
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「いてて、あー、傷に滲みるわ~。マキロンは持ってきてなかったもんな~」
誰も聞くものはいないが、湯に浸かると思わず声がでる。
体中に引っかき傷はあるものの、幸い大きな傷はなかった。
何度か足に噛まれはしたものの、奴らの顎はそれほど強くはないようだ。
俺はしばらく温泉に浸かり、傷を癒やすことにした。
骨の槍も存外役だった。
まぁ使いすぎて壊れてしまったが。
付与魔術を使うと、耐久性を消費するといったようなこともあるのかもしれない。
あの強い効果をみると、そういうこともありそうに思える。
俺は自身のステータスを確認した。
鹿島仁 漂流者Lv4
スキルポイント 1/4
特性 魔眼
スキル 雷魔術(E級)
最後の戦闘でレベルが上がったようだ。
どうもレベルが1上がることにポイントも1上昇するらしい。
スキルを有効化するために1ポイント消費してF級に。
F級からE級に成長させるため、さらに2ポイント消費するようだ。
そういえば使用したポイントはリセットできるのだろうか?
スキルポイント 4/4
お、できるようだ。
これは、いつでもポイントの振り直しができるということか。
もしこのまま、いろんなスキルが習得できるなら、状況に応じて、スキルを変更して対応するといったことができるだろうな。
そのためにも、レベルは出来るだけ上げておいたほうが、いいかもしれない。
俺は雷魔術にポイントを4使用しようとする。
スキルポイント 1/4
雷魔術(E級)
F級で1消費、E級で更に2消費で間違いないようだ。
となるとD級にするためには更に3ポイント消費となるのだろうか?
レベル6になったら試してみよう。
雷魔術(E級)
とりあえずこれでいいか。
あとは槍をどうにかして調達したいな。
廃屋となり崩れた家屋から、燃料となる木材を調達する。
乾いているだろうし、ちょうどいいだろう。
夕食はオーガ麦の粥だ。
慣れれば、問題なく食える。
傷を癒やすには栄養と休息だろうと思い、俺は早々に寝袋に入った。
夜が更け、村は静けさに包まれる。
昼間はまだ、鳥や動物の鳴き声が多少は聞こえるのだが、夜はそれも殆ど無い。
今夜からは教会の礼拝堂での就寝としている。
一応扉には内側から鍵が掛けられるので、魔獣や妖魔からの襲撃を考えても外で寝るよりはマシだろう。
屋内であるが屋根が傷んでる可能性も考えて、テントを張って寝ている。
あまり広いところで寝るのも、落ち着かないので丁度いいだろう。
少々無作法な気もするが既に廃墟となって久しいので、それほど気にすることもないか。
俺はふと深夜に目を覚ました。
地球に居た頃は寝る時間はいつも深夜だったためか、こう早く寝ると変な時間に起きてしまうようだ。
俺は用を足しに表へと出た。
月の灯が村を照らしている。
時刻は深夜になるが、それなりに明るい。
俺は墓場(推定)を横切り、草むらに入り用を足す。
「……はぁ」
そういや、体の痛みもだいぶ良くなったようだ。
ここの温泉は本当に、傷によく効くらしい。
ぼんやりとそんな事を考えていると、俺の視界の端に違和感を捉えた。
闇の中を漂う、発光体。
俺は用を足しつつ墓場で浮遊するそれを目で追うと、それはある一角に留まっているのが見えた。
目を凝らしてみると、大きな石に座っている体格の良い、壮年の男の姿がそこにあった。




