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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
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第55話 再会1

 広場に颯爽と現れた人物は、燃えるような赤い髪に緋色の瞳を持つ獣人族の女性だった。


「随分と賑やかじゃないか!ええ?私はしばらく街を離れていたから聞いちゃいないが、今日は何か祭りでもやっているのかな?」


 獣人女はそう言って、ふんと鼻を鳴らす。


 女にしては背が高い。

 とく通る声に加え、背筋も伸びて堂々とした立ち振舞から、その存在がより大きく見える。


 彼女が広場に現れると、自然と人垣が分かれ道ができる。


 そしてそのまま、ツカツカと静まり返る広場の中心へ進んだ。


「楽しそうだな、私も混ぜてくれよ」


 2メートル近くはあるんじゃないかという大男のジグが、借りてきた猫の様にその身を萎縮させている。

 女がずいと顔を近づけると、その大きな体が更に縮んだように見えた。


「へへへ。そんなリュカさんが絡むような話じゃないですよ。ただちょっと生意気な獣人のガキに街のルールってやつを教えてやろうかと思いましてね」


 てへへと、おどけたような表情を見せ女の様子を伺うジグ。

 まるで虎を目の前にした兎。

 いや不良を目の前にした少年といった様子だ。


「なんだよ母ちゃん、子供の喧嘩に口出しするのかよ」


 ロムルスが面白く無さそうな顔で呟いた。


「え?」


 ジグが驚きの表情を見せる。


 周囲がざわつく。


「え?リュカさんの息子?」


「リュカさんって子供いたの?」


「まさかあの血に飢えた狼に男がいたなんて……」


「俺密かに狙ってたのに……」


「お前じゃ無理だろ。食い千切られるのがオチだ」


「まぁリュカさんもけっこういい歳だろ?子供がいてもおかしくないだろ」


 周囲の野次馬は一様に驚きと戸惑いの色に染まる。

 だがリュカの解散を告げる号令を聞いて我に返ったのか、堰を切ったように人の群れは散り散りとなり喧騒は収束した。

 

「あの……すいません。俺……」


 ジグがバツの悪そうにリュカに頭を下げる。


「別に息子に手を出したからって構いやしないよ。そんなにヤワに鍛えてないしね。だけど街なかでの私闘を禁止されているのは知ってるんだろ?今度からやるなら街の外でやるんだね」

 

 冒険者ギルドの上位ランカーは治安維持も仕事の1つに数えられる。

 ジグは冒険者で本来トラブルを鎮静させなければならない方の立場なのだ。


 


>>>>>




「よう。久しぶり」


 俺は気軽な感じでロムルスに声を掛けた。


「あれ?ジンさん?あー、そういえば冒険者になるためにベイルに行くって言ってたっけ」


 俺はロムルスに近づき握手を交わす。


「まあな。それより大丈夫か?」


 俺の視線は攻撃を受けた腹部へ注がれる。


「あんな体術スキルも持ってないような奴の打撃なんて、大して効かないよ」


 ロムルスは鑑定などのスキルではなく、動きなどである程度相手が所有するスキルに目星をつけているようだ。

 つまりジグの攻撃が雑であったために、体術スキルは所持していないと判断しているわけだ。


 それに衝撃の瞬間に体の軸をずらして急所を避けているらしい。

 みぞおちに入ったように見えたが、そうじゃなかったようだ。


 闘気スキルも所持していることだし、まぁ心配する必要もないか。


「ロム、友達か?紹介してくれるんだろ?」


 ロムルスの身長は俺と同じくらいか、少し低いくらいだ。

 

 そんな俺達と比べるとリュカは少し高い程度だが、その存在感というか迫力のせいか、ずっと大きく感じる。


 ロムルスはガロでの俺との出会いを説明した。


「そうか、息子が世話になったみたいだね。ありがとう。私はリュカ。一応ベイルで冒険者をしている」


 リュカは先ほどの怒気を孕んだ威圧的なオーラとは打って変わって、気さくな雰囲気だ。


「ジン・カシマです。まだ入ったばかりですが、冒険者をしてます」


 リュカはそうか後輩か、がんばりなさいと固く握手をして応援してくれた。


「少々血の気の多い息子だが、仲良くしてくれると嬉しい。これからもよろしく頼むよ」


 そういうリュカの顔は、普通の母親の顔のように見えた。


「はい。こちらこそ」


 話を聞くと彼女はS級冒険者らしい。

 そしてベイルにS級は彼女しかいないようだ。


 つまりは彼女がベイルの冒険者の頂点ということだ。


 リュカ 双剣士Lv62

 獣狼族 45歳 女性

 特性 夜目 食い溜め

 スキルポイント 0/62

 体術  C級

 剣術  S級

 闘気  C級

 回避  E級

 疾走  F級

 二刀流 C級

  

 思わず俺は魔眼を発動させる。

 S級冒険者で、この街の戦力の頂点だと聞いたら見たくなるのは道理だろう。


 しかし魔眼を発動させた瞬間。

 気づくと俺は顔面を掴まれていた。


 アイアンクローである。


「鑑定スキルか?覗き趣味はあまり関心しないな」


 ギリギリギリ


 締め付けられる脳天。

 反応できない速度で掴まれていた。

 やべえ。


「イタタタ。すいませんッ、ちょっと気になったものでつい」


 ちょっとお母さん?


 マジで締めてませんか?


 マジで痛いんですけど?


「母ちゃん?ヤリ過ぎじゃね?」


 ロムルスが驚きの声を上げる。


 俺の叫びを聞いたのか、リザが駆け寄ってきた。


「ジン様!?」




>>>>>




 熟練のエルフの直感は鑑定スキルの視線にも反応できるらしいが、獣人族にもそんな感覚があるのだろうか?


 今まで街で見た獣人族には、気づかれたことは無かったはずだが。


「リュカさん?え?ジン様?どういう状況ですかこれ!?」


 俺の元へ駆けつけたリザが慌てて訴える。


「ん?リザちゃんどうしてここに?ってこの子、知り合いなの?」


 リザに気づいたリュカは俺への攻撃を解除した。

 危うく頭蓋が砕けるかと思ったわ。いやマジで。


「や!」


 ロムルスが気さくな感じで手を上げて挨拶する。


 リザは見知った顔を確認すると、頭を下げて挨拶した。


「んん?アンタいつの間にリザちゃんと知り合いに?」


「あぁ、ガロで兄さんと一緒にいた、姉ちゃんだろ?」


 ロムルスは何気なく答える。


「ガロで……?」


 一瞬表情が止まったリュカは、スッとリザへ向き直り。


「……リザちゃん。どういうことか説明してくれる?」


 感情の篭もらない笑顔で、そう言い放った。




>>>>>




「すいませーん、牛肉串30本と鳥肉串30本、豚肉串30本、あと川海老の素揚げと、川魚の素揚げ、丸芋の素揚げお願いします」


 ロムルスが勢い良く手を上げて、料理を注文していく。


「はーい、ただいまー」


 給仕の女性が忙しく店内を動き回る。


 まだ時間的には早いが、既に店の大半の席は埋まっているようだ。


「近くにこんな店があるなんて知らなかったな」


 リザの家から徒歩15分ほどにあるこの店は、昼頃には店が開き酒を飲ませてくれる酒場のようだ。

 おそらく前は倉庫か何かだったのだろう、街なかでよく見かける酒場の規模と比べると、ずいぶん大きな店である。

 

 ベイルは冒険者の街と呼ばれるほどには、多くの冒険者が暮らしている。

 そして彼らは昼夜と活動時間を問わないために、明るい内から営業する酒場や、深夜まで営業する商店など他の都市では見られない光景が日常的にあったりするのだ。


「給仕の女の子も獣人族、人族、ドワーフといろいろだね」


 特別仲違いしているわけではないが、獣人が経営する店では獣人の給仕が。

 人族の経営する店では人族の給仕が接客をすることが多いような気がする。


 この店ではその傾向は当てはまらないようだが。


「あ、あの娘可愛い」


 ロムルスが指さした女の子は獣狼族のようだ。

 形の良い立派なものを持ってらっしゃる。


「やっぱり同族の娘が好みなのか?」


 んむう、ロムルスは唸って考える。


「獣人族のが好みだけど、そこまで拘ってないよ」


 しかし胸が大きいのは好みのようだ。


「獣狼族は胸の小さい女が多いからね。ああいう大きい子はすごく少ない」


 ロムルスの話によると、狩猟部族の獣狼族は男も女も戦士として狩りを行うそうで、そのために何日もぶっ通しで走ることもよくあるそうだ。

 胸の大きな女性は走って移動する際に負担になるために、実際はどうあれ戦士として2流3流として見られてしまうらしい。


 獣狼族の女性でモテるのは狩りの上手な女性であるために、そういった女性は村ではモテないそうだ。


「なるほど、貧乳がモテる→貧乳の子孫が増える。ってことか」


「最近はそこまででも無いけどね」


 狩りだけで生活していたのは今や昔の話で、人の街で暮らす獣人族も年々増えているという。

 商売をして生活をする獣人族も珍しくはないし、彼らの生活も多様性を帯びてきたのだ。


「狩り以外の生活の基盤が出来たってことだな」


 大きなおっぱいをゆさゆさと揺らしながら、給仕に忙しく動く獣狼族の女子を温かい目で見守る俺たち。

 きっと狩猟生活がすべてという時代であれば、彼女は村で弱い立場で苦しい生活を余儀なくされたに違いない。

 だが人族の街、ベイルの酒場で忙しく働く彼女を見て、弱いとか苦しいとかいう負の感情は感じられない。


 おそらく仕事は大変そうだが、充実した毎日を送っているに違いない。


 彼女は自分の居場所を見つけたのだ。


 俺はロムルスと深く頷きあうと、互いの硝子のジョッキを打ち鳴らす。


 おっぱいに乾杯。


 よく冷えたビールを喉へと流し込んだ。 

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