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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
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第54話 ベイルの英雄

 俺達は飼育に関する書類を提出し、許可証を受け取ってギルドを後にした。

 首輪と指輪、2つの魔装具を含めて金貨1枚なら安いのかもしれない。

 魔装具、魔道具は大変高価らしいからな。


 シアン・ハントフィールド 獣使いLv3

 ハーフエルフ 14歳 女性

 スキルポイント 2/3

 特性 夜目 直感 促進

 同調 F級

 調教

 使役


 魔物の飼育、と言うより隷属の首輪を装着するには条件があるらしい。

 それは両者の同意が必要ということだ。


 隷属の首輪は人の奴隷にも使われる魔装具なのだが、人でも魔物でも両者の同意が無ければ魔装具は弾かれて装着できないらしい。

 そのためネロはシアンを主人として受け入れたということなのだろう。


 この同調と言うスキルは相手と心を繋げるスキルだとも言われているため、そのスキルの力かも知れないし単純に餌付けで懐いたのかもしれない。

 どういうことかはネロに聞いてみないとわからないが、それでもネロがシアンを受け入れたということは間違い無さそうだ。


「シアンは調教と使役のスキルを使えるようにする必要があるな」


 調教はいわゆる躾である。


 このスキルを持つものが調教を行えば、効率よく物事を教えこませる事が可能になるらしい。

 もちろん対象の知能にも左右されることではあるが。


 使役は自らが支配する対象物に命令を与えるスキルだ。


 使役スキルが無くとも、調教の仕方次第で人の言うことを聞くように躾けることは可能であるが、使役スキルを有することでより複雑な指示を与えることが出来る様になるという。 


「調教ですか……」


 スキルポイントはあるしスキルも有しているため、ポイントさえ振り込め何時でもば使用できるようになるはずなのだが。


 シアンは曇った顔を見せる。

 調教という言葉に、あまり良いイメージを持っていないのかもしれない。


「人の街で暮らすなら、人の街のルールを教えなければならない。ネロの為にもシアンの為にもな」


 ネロが街の人を傷つけるようなことがあれば、所有者であるシアンが罪に問われる。

 もちろんネロ自体も処分されることになるだろう。

 それでは互いに不幸になるだけだ。


 人の街で暮らす以上、最低限の躾は必要なのだ。


「……わかりました。がんばります」


 シアンは決意したように力強く頷いた。 




>>>>>




 俺達はベイルにある商店街の1つに足を伸ばした。

 ネロの食事用の皿など、必要なものを揃えるためだ。

 飼育に関しては、獣使いの彼女に口出しするつもりはない。

 

 口出しはしないが、金は出そうと言うわけだ。

 必要なものとは言っても、全て揃えても大した額ではない。

 ここまで来たら最後まで面倒見るつもりだ。


「何か広場が賑わっているな?」


 ベイルの街の各地には広場がある。

 そこでは青空市場が開かれていたり、奴隷市場が開かれたり、夏になればビアガーデンのようなものが開かれていたりと様々な事に利用される。


 ベイルでは酒といえばワインが一般的でビールはあまり飲まれない。だがベイルの夏はかなり暑く、飲みなれないビールでも夏の暑さが手伝って消費が増加するようだ。

 北の商人などはビールの需要を延ばすべく、夏になるとビアガーデンのような催しを開催しているらしい。

 ぜひとも参加して見たいものだ。


 そんな広場で人だかりが出来ている。

 

 広場では日常的に何かしらのイベントが行われているので、人だかりがあっても珍しくは無いのだがどうも様子が違うようだ。




「はははッ。どうした冒険者!?案外大した事無いんだなぁー!」


 喧騒の中心から若い男の声が響く。


「ガキがッ調子に乗りやがってッ!」


 野次馬の中、一際体の大きな男が叫んだ。

 あそこが中心か。


「ちょっと見てくる」


 俺はリザたちをアルドラに任せ、野次馬を掻き分け様子を伺うべく中心へ近づいた。


「おい、どっちに賭ける?」


「もちろんジグだろ。あいつC級冒険者の中でも昇級間近の期待の精鋭だって話だぜ」


 野次馬の中では、賭ける賭けないと言ったような言葉が飛び交っている。

 どうも喧嘩を賭けの対象にしているようだ。


 中心を囲む男たちの怒号は熱を帯び、一種の闘技場のような熱気を生み出していた。


「犬ころ風情がっ、お前らは精々人間様に尻尾振ってりゃいいんだよっ」


 ジグと呼ばれた男は吐き捨てるように罵声を浴びせつつ、その太い腕から相手の男目掛けて拳を放った。

 当たれば大した威力となりそうな速度と迫力だが、大振りの攻撃はまったく当たる気配を見せず空を切るのみであった。


「……それは戦士への侮辱と受け取っていいんだな?」


 大男の相手は小柄な少年のようだ。

 黒髪に燃えるような紅い瞳。


 やや切れ長の目に不敵な笑みを浮かべるその少年は、生意気そうな面構えであった。


 ボサボサとした髪から三角の耳と、腰から長くふさふさとした豊かな毛量の尻尾が揺れている。


「殺すッ!」


 大男から繰り出される幾つもの拳は、少年を捉えることは出来なかった。

 まるでヘビー級のボクサーの様な拳を、紙一重とも言うべき軽やかな動きで躱していく。


 単純なスキルの働きによる動きではない。

 明らかに何かの武術か、特別な訓練を積んでいる動作だ。


「遅っ」


 大男が放った拳を軽くいなすと、少年はカウンター気味の掌打を喉に叩き込んだ。


「ガハッッ」


 男は声にならない声を上げ、喉を抑えて呻き苦しむ。

 グラリとその大きな体が揺れた。



 それにしてもあれ獣狼族だっけか。

 どっかで見たことある気がするな……


 ふと俺が思案を巡らせていると、動きがあった。



 大男が合図を送ると、少年の背後に居た観客が突然掴みかかる。

 両腕両足を捕まれ自由を奪われた少年に、大男の豪腕が少年の腹部を捉えた。


 ドゴッ


 鈍い音が響いた。


「うグッ」


 体重の乗った一撃。

 大きく踏み込み腰を落とし、正面から突き刺すように放たれた打撃は、少年のみぞおち辺りを正確に捉えた。


 直撃だ。



 ロムルス 狩人Lv32


 そうだ、あの時の獣狼族だ。

 どこかで見たような顔立ちだと思った。



 攻撃を受けたロムルスは、拘束を解かれ地面に崩れ落ちる。


 俺は思わず身を乗り出す。


「ロムルスッ大丈夫かっ?」


 俺は思わず声を掛ける。

 関わった時間は短いが、それでも俺がこの世界で知る数少ない友人だ。

 一緒に酒を酌み交わし、一晩語れば友人と呼んでもいいだろう。


 俺の行く手は熱狂した野次馬たちに遮られる。

 

 ジグ 戦士Lv36

 人族 32歳 男性

 スキルポイント 24/36

 剣術 D級

 盾術 E級

 騎乗 E級


 大男は勝ち誇ったかのように、腕を高らかに上げて勝どきを上げる。


「うおおおおおーーーッ!」


 男の雄叫びが広場に轟く。


 周囲は更なる熱狂に包まれた。



 そんな熱狂の渦の中、俺は地面に倒れ込むロムルスに黄金のオーラが纏わり付くのを見た。


 あれは闘気のスキルだ。


 ロムルスが幽鬼の様にゆらりと立ち上がると、体の埃を払い落とす。 


「クズが。1対1の喧嘩だと思って付き合ってやりゃあ、下らねえ。あー、人族は本当に下らねえ種族だな」


 ロムルスは吐き捨てるように言い放つと、体に纏うオーラの勢いがより一掃強くなった。


「あぁん?てめぇ、まだ動けるのか。獣はしぶといってのは本当だな。脳みそはスカスカだが、体の丈夫さだけが取り柄だもんな」


 男はにやにやと人を馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

 周囲にいるおそらく男の配下も、ゲタゲタと下品な笑い声を上げた。


 大男の背後に控えていた、背の低い男が剣の柄を差し出した。

 それをゆっくり引き抜くと、刀身80センチはあろうかという鈍く輝く鋼の剣が目の前に現れた。

 

「泣いて謝るなら今のうちだぜ。今なら半殺しで許してやる」


 ジグは何の感情も篭っていない、冷徹な声で言い放なった。


「剣を持って強くなった気になるのは、ガキの頃までにしとけ」


 ロムルスもまた感情のない表情で答える。

 体を斜に構え、自然体のようだがおそらく何かの武術の型に違いない。




 場に緊張が走る。


 先ほどの熱狂は何処へやら、この喧嘩の決着を皆が見守っているような状況だ。


 しかしこの緊迫した空気をぶち壊したのは、彼らではなかった。




「お前たちッ!この天下の往来で何の騒ぎを起こしているのかッ!?」

  

 よく通る声が広場に轟いた。

   


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