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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
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第49話 死人沼1

 盗賊はベイルの衛兵に引き渡しておいた。

 殺害しても罪には問われないが、武装解除させて拘束し衛兵に引き渡せば盗賊1人につき銀貨1枚の報酬を貰えるのだ。

 手間ではあるし大人しく捕まってくれるわけでもなく、リスクを考えればかなり安い。金稼ぎのネタとしては難しいだろう。


「まぁ、すごいですね!これをジンさんが?」


「うむ、奴がいればこの家も食うには困らんのう」


 ギルドで報告を済ませた俺達は、我が家へと帰ってきた。

 アルドラが収納からビックフットを取り出すと、ミラが感嘆の声を上げた。


「すごいのはアルドラでしょう」


 この人と一緒にいると何かと驚かされる。

 

「だてに年食ってるわけじゃないからのう」


 アルドラは、かっかっかと笑ってみせた。


 兎は煮ても焼いても癖が無く美味であると称される。

 今回は焼いてもらうことにした。

 ビックフットのグリルである。


「ジン様お帰りなさい」


 俺達の声が聞こえたのか、2階からリザが降りてくる。

 軽快な足音で近づいてくると、そのまま俺の胸に飛び込んできた。


「お、おいまだ湯を浴びてないから汚れてるぞ」


 既に鎧や外套は脱いでいるが、服はそのままだ。

 返り血で酷いことになっている、ということはないのだが、走り回っているので埃や泥でだいぶ汚れている。


 ほんの少しの間の抱擁を済ませると、リザは満足したように離れた。


「ごめんなさい。それにしても今日もすごい成果ですね」


 デーブルに並べられた今日の素材に、リザも感心した様子であった。


 ふと見るとアルドラのにやにやとした顔が見えた。

 ミラさんは菩薩の様な優しげな笑みである。


 2人の視線を感じたのか、リザの顔が見る間に赤くなる。


「仲が良くて何よりじゃ」


「ええ、ジンさんは本当に優しい御仁。リザが惹かれるのもわかります」


 大人二人がうんうんと唸っている。

 リザの顔が更に赤くなった。




 食卓には豪勢な料理が並ぶ。

 中央に鎮座するのは、今日の獲物であるビックフットのグリルだ。

 リザの見繕った香草が肉に刷り込まれていて、その香りと肉の焼けた香りが相まってなんとも言えない食欲のそそる芳香を生み出している。

 薬の素材として利用される薬草と言われる植物の中には、肉や魚の臭みを取ったり香りづけに利用されるような香草や食材として利用される野草などもある。

 これらは厳密に分類されている訳ではない。どうやらリザがアルドラの村で得た知識は、多岐にわたるもののようだ。


「わぁ、すごいご馳走!今日は誰かの誕生日なの?」


 中央の席についた少女が叫ぶように言う。


「いいえ、しいて言えば猟の成功を祝う打ち上げって感じでしょうか?」


 ミラさんが皆にワインを注ぎながら答えた。


「……なぜノーマさんがここに?」


 俺の目の前、対面の席には何故か冒険者ギルドのマスターであるゼストが座っている。

 俺の記憶が間違っていなければ、老練の紳士といった風貌の細身の男だったはずだが、いまは小柄な少女の姿となっていた。

 例の受付嬢である。


「美味しそうな匂いに誘われて、来ちゃったのっ」


 てへっとウインクして舌を出す。


 ……ちょっとイラッとした。


 肉を切り分け料理と酒が配られたところで、


「「「いただきます」」」


「「「乾杯!」」」


 宴が始まった。




 ノーマが当然のようにワインを煽り、肉に齧りつく。

 何故その姿で?というツッコミはしないほうがいいのだろうか。

 皆気にしてないようなので、気にしたら負けなのかもしれない。


「すごく美味しいですね。脂が乗っていて、味が濃いですし。でもあっさりしてて幾らでも食べれそうです」


 ミラさんも初めて食べるようで、その評価も好評のようだ。


「うむ、特に旨いのはやはり後脚だな。しっかりした筋肉に強い旨味が備わっておる」


 薬草の滋養が乗っていると称されるのも、後脚の部位で高値で取引されるようだ。

 貴族の食卓に並ぶような食材のようだし、平民の口にはそうそう入るものではないのだろう。


 アルドラは何度か食べたことがあるようだが、その顔を見れば満足しているように伺える。


「おいしい……」


 いつも静かなシアンも、もくもくと小さな口を動かしている。

 食が細いようだが、これは気に入ってくれたようで何よりだ。


 最近ではシアンとだいぶ言葉を交わせるようになってきている。

 主に魔物の話などでだ。

 動物から変化して魔物となるものも多いため、動物好き=魔物好きなのだろう。


 俺が地球の動物の話をすると、それが興味を惹いたのかよく話すようになった。

 たまに俺の部屋へ訪れて、寝る前に話し込むほどだ。


 俺には兄弟がいなかったが、もし妹がいればこんな感じかなと妄想してしまうほど可愛く思ってしまう。


「美味しい……ビックフットは逃げ足が早くて、捉えるのがとても大変だと聞きました。さすがジン様すごいですね」


 リザが心酔した目を向けてくる。

 そんなに褒められるようなことはしていないと思う……うまくスキルがハマっただけで、大したことはしていないのだ。


 隣に座るリザが誰も聞き取れないような小さな声で「やっぱりジン様ってすごい」と呟くのが聞こえた。


 どうも過剰に評価が高まっている気がしてならない。

 褒められるのは嫌いじゃないし、美女からの賞賛の声ともなれば言うまでもない。

 ただ気恥ずかしさも少々ある。

 苦労して勝ち取った訳ではないのだ。




 ノーマとアルドラは何度も乾杯して、昔話に花を咲かせているようだ。


「しかしアルドラ、よい婿が見つかってよかったな?この年でこの腕ならば、将来も安泰だろう」


 ノーマは酔っているのか、口調が戻っている。

 余計にややこしくなっている。


「ああ、そうじゃな。わしにはとうとう子は出来なかったが、リザのことは娘の様に感じておる。うまくすればこの世に留まっていられる内に、リザの子が拝めるかもしれんと思うと感慨深いのう」


 エルフは子供が授かり難い種族だと言われている。

 それ故に一族にとって子は宝であり氏族全体で、集落全員で護るものという意識が強いようだ。


「リザ、ジンは優しくしてくれているか?」


「はい。とてもお優しい方です」


 リザは迷いなく答えた。

 まるでその言葉を噛みしめるように、何かを思い出すかのように目を瞑る。


 おっさん二人がうんうんと唸っている。

 毎日励んでいるようだから、どうのこうのとか。

 孫の顔が見れる日も近いとか。


 何か随分と盛り上がっているようだ。


「まだそういうんじゃないけどな……」


 俺がぼそっと呟くと、うっかり聞こえてしまったのかノーマが驚愕の表情を見せる。


「まさか男色の気が……?」


「違うわ!」

 

 どうも俺がリザと同衾しているという情報が流出しているようだ。

 別に隠しているわけでもないのだが。


「そうか、お主も苦労しておるんじゃな……まだ若いのに。だが案ずるな。エルフに伝わる秘薬には、どんな病にも効くという薬がある。リザには薬箋を伝えておる、頼むといいじゃろう」


 どうも明後日の方向で勘違いされている様な気がする。


「あの、大丈夫ですから!ジン様は大丈夫ですから!」


 リザが慌てて叫ぶ。


 何が大丈夫なのかは聞かないほうがいいだろう……

 



>>>>>




「頭痛え……また飲み過ぎたな」 


 記憶が曖昧ではあるが、だいぶ長い時間飲んでいたような気がする。

 アルドラの若いころはヤンチャしていた辺りの話までは覚えているのだが……


 あぁ、そういえば魔人目撃の話もしていたな。

 特に注意喚起などはしておらず、ギルドでも斥候を使って探っている段階の様だ。


 ふと脇を見ると、下着姿でスヤスヤと眠るリザが見えた。

 まったく無防備な寝姿に、俺も妙な気を起こしてしまいそうになる。

  

 リザのサラサラとした長い髪に触れる。

 艶やかな髪は美しい翡翠色で、柔らかく不思議な色合いだ。

 まるで宝石から作られたようにきらきらと輝いている。


 小さい顔に小さい口。

 微かに聞こえる寝息を立てて、まるで安心しきったかのような寝顔だ。

 男としては微妙な心境ではある。


 言っとくけど俺も男なんだぜ?


 そんな無防備な姿晒してると、襲っちゃうよ?


 そんなことを考えていると――


「ん……ジン様……大好き……」


 目をつぶって未だ眠りに着いているリザの口から、微かに声が漏れる。


「……」


 寝言……だろうか?


 起きてる?


 予期せぬ自体に戸惑いを覚える。

 俺の精神を支配しそうになっていた暗黒面は、何処かに吹き飛んでいった。




「そんな話になってたのか」


 俺はいつもの様に、1人寝床を抜け出し日課を熟した。

 軽く走って汗を流し、水を浴びてから戻ってきた。

 いつものように、朝食を作って帰りを待っていたリザと一緒に食事を取る。


「はい。覚えてらっしゃいませんか?」


「あぁ、ちょっと飲み過ぎてしまったようだ」


 話を聞くと、今夜は森の北側にある沼地で狩りを行うらしい。

 リザが用意してくれている魔法薬の1つ、マナポーションの必要素材の一部が足りなくなっているらしいのだ。

 その素材は夜間でしか採取できない特殊なもので、採取スキルを持たない者だと素材の品質が低下してしまうためリザも同行する手筈となっているという。


 夜間の狩りは昼のそれよりも危険度が高い。

 視界は悪く、魔物の動きも活発だからだ。


「アルドラ様の話では、ジン様は夜の狩りには慣れているので問題無いとおっしゃってました」


 まぁ慣れているというほどでもないのだが。しかし、魔眼もあるし問題ないだろう。

 それほど森の夜が危険だという感覚もない。


 ちなみにリザもミラさんも、アルドラのことは様付で呼ぶようにしているようだ。

 元々、大叔父様と呼んでいたようだけど、いつだったかアルドラが「わしは生まれ変わって、ただのアルドラとなったから、お前たちも叔父と呼ぶのは禁止じゃ!アルドラと呼び捨てにするように!」と宣言したのだ。

 しかしアルドラがなんと言おうと、彼女達からすれば叔父である。


 敬称として年上の、特に男性には様をつけるのが礼儀なのだ。

 俺にはあまり馴染みがないが、そういうものだと認識している。


「リザは平気なのか?」


 俺はいいけどリザは大丈夫だろうか?エルフの血を引く彼女も夜目があるため、夜間の視野については問題ないはずだが。

 

「はい大丈夫です。何度か採取には行った経験がありますし」


 1人で行くのはさすがに危険であるため、今までは冒険者ギルドに採取時の護衛の依頼を出していたそうだ。

 ただ護衛には女性で腕の立つものを少数ということで、なかなか条件の合う人が見つからず苦労していたらしい。


 まぁアルドラも居ることだし、そう危険はないとは思う。

 リザの能力も高いし、もし危険があったとしても逃げるくらいは出来るだろう。


 そういうことなので、昼間は体を休め夕方から出かける事になったのだそうだ。


「すいません、私のわがままで」


 リザが申し訳ないと頭を下げる。


「いやいや、俺の為に用意してくれているんだろう?頭を下げるのはこっちだよ」


 マナポーションの素材は市場ではほとんど見かけず、薬師ギルドによって買い占められているのは間違いないそうだ。

 そのために適正価格での入手を考えると、自力で取りに行くしかなくなってくる。

 しかしそれも普通に考えれば、簡単な話ではないのだが。


 何にせよ直接魔力を回復できる有効手段となるマナポーションは、効率のいいレベル上げを考えればぜひ潤沢に持っておきたいアイテムの1つなのは間違いない。


 ここはその素材を大量入手して、保存して置くのが望ましいだろう。


 目指す目的地は、夜間数多の死霊が徘徊するという危険域、死人沼である。 

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