第4話 雷魔術
深夜に聞いた謎の咆哮により、昨日は気になってそれからあまり寝付けなかった。
ここの城壁も万全ではないし、俺では修繕のしようもないのでどうしたら良いか悩めるところだ。
家屋の多くはかなり傷んでおり、住むには適さないように見える。
唯一まともなのは高台の教会だが、墓地っぽいのが近くにあるため少々気味が悪い。
しかし安全には変えられない。
今日中に教会を調べ、可能なら拠点を移動することにしよう。
俺は朝食にオーガ麦を煮込んでみた。
食材アイテムらしいし、見たところ普通に穀物であるため煮れば食えるだろうと試しに煮てみたのだ。
味付けは岩塩をナイフで削り入れた。
一時間ほど煮込んでみたが、固い。
周りはふやけるが、芯が残っている感じだ。
俺は更に30分ほど煮込んでみる。
正確な時間はわからないため、体内時計ってやつだ。
うん。
ほとんど変化していない。
やはり芯があるような感じがする。
俺は諦めて、芯のある穀物雑炊をぼりぼりとたいらげた。
朝の露天風呂に浸かり、上がってからは魔術の特訓だ。
魔獣もいることだし、あの咆哮の主のこともある。
自衛手段は身につけておきたい。
手に入れた骨の剣では、ウズラでさえ勝てるかわからないからな。
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鹿島仁 漂流者Lv1
人族 17歳 男性
スキルポイント 0/1
特性 魔眼
スキル 雷魔術F級(雷撃 雷付与)
ステータスの表示に変化があった。
魔術として会得した力が、ステータスに反映されたようだ。
雷撃は昨夜にコツを掴んだあの術である。
雷付与は雷撃を放出せずに、手元で維持する状態を、いつまで出来るか実験した際に修得したものと思われる。
俺は特訓を一時中断して、荷物の移動を開始した。
結果から言えば、教会の扉は開いた。
押し開けるのではなく、引いて開ければよかったのだ。
教会の正面の扉を開け放ち、中に入る。
礼拝堂ってやつだろうか。
結婚式とかで、みたことあるような場所だ。
長椅子が整然と並べられ、正面に女性をモチーフにしたような石像が設置されている。
長椅子を退かして場所を作り、ここを当座の寝床とする。
広い場所にただ寝袋で寝るのも落ち着かないので、建物内だがテントも設置する。
扉に鍵は掛かっていなかったが、内側から閂を掛けられるようだし、見たところ建物もしっかりしていそうだ。
もしも魔獣か何かが城壁内に侵入しても、ここならやり過ごせるかもしれない。
この教会には他に神父の私室と思われる部屋などもあったが、中を調べるのも躊躇うほどに雑然としていたため今は放置している。
ざっくり見てみたものの、多くは俺の読めない書物や羊皮紙と思われる紙の束などであったりしたため、現状丁寧に調べることもないだろう。
もしかしたら、他の村へ至る手がかりがあるやもしれないが、正直調べるのは骨が折れそうだ。
調べるにしても、どうしても手がかりが見つからない後にしよう。
俺は昨日収穫しておいたヒワンの実を齧りながら、城壁の外も見てみようと思い立ち上がった。
城壁の外へ出るには破損した扉のところか、おそらく村の正面の門と思われる場所と2箇所ある。
正面の門は高さ4メートル以上、幅はそれ以上ある大きな引き戸の様になっており、丸太を組み合わせて作られている。
閂が掛けられ施錠されているが、どうも変形してしまっているのか、俺1人の力では外すことは叶わなかった。
まぁ閂を外せたとしても、この重そうな扉を1人で動かせるかどうか、ちょっと難しそうだ。
俺は破損した扉の方から、外へと出てみた。
いつ魔獣が現れてもいいように、警戒はしておく。
動きやすいように、荷物は最低限にしておいた。
用心のため俺の手には骨の槍が握られているが、これがどこまで役に立つかはわからない。
サラサラと川の水が流れている。
水は非常に冷たく澄んでいた。
周囲の様子を伺いながら俺は上流へと向かって歩いた。
川を覗きこむと、30センチオーバーの魚影が見える。
深さもそれ程無いし、うまくすれば素手で掴めるだろうか。
と考えたところで1つ思いついた。
俺は雷付与を槍に施し、魚のいる水面へ突き入れたのだ。
バジッ
短い音と共に、2匹の魚がぷっかり浮かんできた。
俺は素早く回収する。
「案外うまくいったな。これを昼飯にしよう」
こんなに簡単に取れるとは、魔術とは便利なものである。
俺は周辺から枯れ枝を集めて川辺で火を起こし、魚の塩焼きを作ってみた。
魚の腹をナイフで裂き、内臓を抜く。
ナイフでそこらに生えている枝を、そぎ落として、串を作る。
適当に岩塩を削りまぶして、焼いたら完成だ。
全体がオレンジ色の体表で、黒いスポットの入った綺麗な川魚だ。
強火の遠火で、丁寧に焼いていく、
川魚の塩焼き 食品 F級
食品アイテムが完成した。
未加工だと食材、加工品だと食品になるようだ。
そういや干し肉も食品だったかもしれないな。
ふっくらと焼かれたその身に齧りつくと、白身の淡白な味わいに程よく脂が乗っており、非常に美味かった。
骨まで柔らかく焼けてあったので、骨もまるごと食べられた。
「すげえ、めちゃくちゃ旨いぞ。素人の俺が作ってコレだから素材がいいんだろうな」
見たところ川魚はまだたくさん居そうだし、当分食料の心配はなさそうだ。
食事を終え、のんびり休憩をとっていると、すぐ脇の藪が、がさごそと動くのが見えた。
そっと近づくと、どうやら藪の中に何かが潜んでいるようだ。
ラット 魔獣Lv1
巨大な鼠だ。
鼠というより、カピバラに似てる。
いやカピバラも鼠の仲間だっけか?
まぁそれはどうでもいいか。
ラットはもそもそと、下草を食んでいるようだった。
晩飯にと一瞬考えたが、さすがに鼠を食う気にはなれない。
食料も今のところ、特別困ってはいない。
俺はゆっくりとその場を後にした。
俺は森の中を探索することにした。
しばらく歩いて行くと、背の低い枝葉の密集した木々の群生する場所に行き着いた。
よく見ると、いくつかの木にはピンポン玉くらいの赤い実がなっている。
熊桃 食材 D級
お。
初のD級を発見した。
いままで見たやつよりも、珍しいものだということか。
俺は実の1つをもぎ取り、匂いを嗅いでみる。
かなり酸っぱそうな臭がする。
試しに一口齧ってみると、かなり酸味が強い。
後味に微かな甘味を感じる。
レアだからと言って、旨いわけではないらしい。
そんな中、俺はふと何かの視線に気がついた。
感じた先の藪の中に目をやると、暗がりの中から水晶体が2つ輝くのが見えた。
何か生き物がいるようだ。
どうも魔眼になってから、俺の視力も感覚も鋭くなった様な気がする。
槍を握る手に力がはいる。
周囲の様子を探ると、複数の何かに囲まれているようだ。
左手に意識を集中させ、いつでも雷撃が放てるように構える。
その直後、背後からガサガサと草木の擦れる音がすると共に、ギャギャギャと短い奇声を発して何かが俺に飛びかかってきた。
俺は素早く振り返ると、ほぼ同時に雷撃を放つ。
「ギャッ!?」
衝撃音と共に紫電の閃光が走り、飛びつこうとしていたものが地面にひっくり返っていた。
インプ 妖魔Lv1
全身黒い毛むくじゃらの猿のようだった。
体長は60~70センチくらいだろう。
鋭い爪を持ち、鳥と猿を足して2で割ったような顔をしている。
顔や手のひらなど、毛の生えていないところの皮膚は灰色をしていた。
地面にひっくり返ったインプは、ピクピクと痙攣していてまだ息がある。
けっこうな太さの木をへし折るくらいのパワーのある雷撃を受けて耐えるとは、レベル1の割になかなかタフのようだ。
周囲の藪から、ギャギャギャと怒気を孕んだ声が響く。
どうやら完全に敵対してしまったようだ。




