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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
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第41話 討伐中止

 俺は昨日とは別のルートで冒険者ギルドへ向かっていた。

 ベイルの街並みを、見物がてらという意味もある。

 石畳の道に、木造の建物が並ぶ。

 場所によっては街路樹が設置されている箇所もあり、整備された道が続いている。


 ベイルの青空市場は何箇所かに別れて点在している。 

 ここも、その1つなのだろう。

 昨日訪れた市場とは、また別の場所だ。


 教会の鐘の音に従えば、時刻は朝の9時前といったところか。

 市場を適当に見てからギルドへ向かうことにした。


 人だかりができて人気なのだろうと思える店で、パンやソーセージを購入する。

 ソーセージはかなりの種類があるようだ。

 ベイルは肉食の文化が盛んらしい。

 獣人族もよく見かけるし、海からも遠いらしいからそうなるのも頷ける。


「旦那何か探しものかい?よかったらこれなんてどうだい?今時期しか手にはいらない貴重品だよ。買うなら今しかないよ」


 オレアン 食材 C級


 C級か、確かに珍しいようだ。

 見た目はバスケットボールほどの大きさの棘棘した球体である。

 果物だろうか。皮は固くしっかりしている。

 何となく南国のフルーツっぽい。


「ほらコレが中身だよ。見るの初めてかい?気に入ったんなら安くするよ」


 売り子のおばちゃんが、中身の一部を切り取ったものを食べさせてくれた。

 柑橘系の甘さと酸味に濃厚な生クリーム足したような、もったりとした重い感じだ。

 わからんけど栄養ありそう。


「大森林の奥地で今時期しか取れない貴重品だからね。次の入荷はいつになるかわからない、どうだい?」


 おばちゃんがグイグイ薦めてくる。

 確かに旨いし、話の種に買ってみるか。


「ありがとよ。貴重品だけに高くて中々売れないから困ってたんだ。重いから売れ残って持って帰るのも面倒だしね。お礼に色々サービスつけとくよ」


 おばちゃんの本音がサラッと飛び出したが、まぁいいだろう。

 サービスというには大量の果実を受け取り俺は市場を後にした。




>>>>>




 ギルドに到着した俺は、昨日と同じように会議室で講習を受けた。

 毎日通えば10日で終わる計算だが、毎日真面目に通うものは稀らしい。

 

 講習内容は解体だ。

 主に魔物の解体手順の説明である。

 俺はアルドラにある程度教えてもらっているので、問題無いだろう。


 魔獣の皮の剥ぎ方や、内蔵の取り出し方、肉のバラし方など。

 どの魔獣のどの部分が旨い、売れば金になるなど、有意義な話も聞くことが出来た。 


 昼の休憩を挟んで午後からは槍術の実習だ。

 昨日と同じ訓練場にて槍の扱い方を学ぶそうだ。


 冒険者が推奨する武器にはいくつかあり、それらの技術を学びたいものには訓練場にて技能指導官が個別の訓練をしてくれるらしい。

 技能指導官というのは腕利きの元冒険者が大半のようだ。


 推奨する武器というのは、魔獣との間合いが取れる槍。限定された空間でも取り回しがしやすく、護身用としても携帯しやすい剣。

 遠距離から一方的に攻撃できる弓の3種である。

 

 他にも無手になった場合、最低限の自衛手段として体術や冒険者の足として一般的な馬術なども学ぶようだ。




 槍術の実習を滞り無く終えた俺は、受付に受講完了の札を渡し依頼掲示板を眺めている。


「お主が見かけたというのは、これじゃな」




 C級 討伐依頼 魔獣グラットン 推定Lv21~28


 数十年ぶりに発生が確認されたワイルドドックの希少種。

 森との境界付近を縄張りとし、現在いくつかの被害報告が出ている。

 隠密状態にて高速で移動する能力を有する。立ち止まったり戦闘状態になると隠密状態は解除される。

 頭部が異常に発達しており、強化された顎は金属の鎧も噛み砕く。

 頭部が発達しすぎたせいで、肉体のバランスは崩れており戦闘時の動きはあまり鋭くない。

 精鋭クラスの冒険者が数で押さえ込めば、問題なく討伐可能。

 なお牙や毛皮は極めて希少な部類に入る素材のため、高額での買い取りが見込まれる。

 

 報奨金30000シリル 

 

 


 これはあの時の魔獣か。

 衛兵に情報を提供したのだが、他にも報告があったのだろう。

 

 しかしこんな物騒なやつが彷徨いていたのでは、新人冒険者の活動を大きく妨げることになるだろう。

 さっさと討伐して欲しいものである。

 C級だし、俺にはまだ無理そうだが。


 ちなみに依頼書を読むため、予めアルドラを呼び出しておいた。

 掲示板の前でやるには悪目立ちしそうなので、裏でこっそりと。


 ともあれリザも心配するだろうし、今日考えていた討伐はやめておいたほうがいいかな。


 一応受付で状況を聞いてみると最近数件の目撃報告があり、冒険者の妨げにもなるためギルドが報奨金を出したようだ。

 一般的に討伐依頼というのは、被害者が報奨金を用意して討伐依頼をを行うもので、危険な魔物が発生したとしても実被害が無ければ誰も報奨金を出すことは無く、討伐依頼も出されないということになる。

 

 森との境界が縄張りと言っても、境目とされるラインだけでも数百キロに及ぶものであるし、その周辺となる境界はそれ相応となる広大な領域である。

 確認されている魔獣は1匹の可能性が高いということなので、境界での活動を自粛するか否かは各自の判断に委ねるということのようだ。

 またこの魔獣は生きのいい餌しか食べないという噂があるため、万が一見つかった場合は、声を殺して身を伏せてやり過ごすのが良いとされている。

 

 そういえば、あのとき1人生き残った女のことを思い出した。

 その後どうなったのかを聞いてみると、現在はギルドの施設にて拘束しているとのこと。

 詳しい情報はこれから聞き出すそうだ。


 アルドラの話では、多額の賠償金を請求されることになるんじゃないかと言っていた。

 支払い能力が無いと判断されれば、奴隷落ちとなる様だ。




「そうだ、鎧作りに行こうか。アルドラのぶんも必要だろうし」


「うーん、わしはべつに」


「いや裸で彷徨くのもどうかと思うし、服とかもついでに買いに行こう」


 俺は受付で、お勧めの防具屋を教えてもらった。

 

 防具と言っても金属甲冑で動きまわるのもキツイだろうし、ある程度の防御力と動きを阻害しない軽快さを両立させるとなると、鎖帷子や革鎧あたりだろうか。

 リザのように脚力強化の魔術が使えれば選択肢も広がりそうだが、あれは魔装具ということだったし、見た目そのままの重さでも無いのかもしれない。


 道すがらに見かけた服屋でアルドラの服を買い、他の店で獣皮紙にペンとインクを購入した。

 

「アルドラあの店は?」


「あれは魔石屋じゃな」

 

 魔石は魔力の結晶だ。

 人族はこれを様々なものに利用する方法を編み出し、多大な利益を得るようになったのだという。

 それは魔導具の燃料であったり、薬品の素材であったり、魔導具そのものの材料ともなる。


「あー、そうか」


 俺はあることに思いつき、魔石屋の扉を潜った。


 魔石屋は入ると何もない部屋で受付カウンターが1つだけあり、それは鉄格子で守られていた。

 それは店というには異様な雰囲気だった。


「ひやかしなら帰ってくれ。ここはアンタみたいな新人が来るような店じゃないぞ」


 厳つい雰囲気の大男が、カウンターの奥から現れた。

 店主だろうか。


 魔石の買い取りはギルドで行われる。

 魔石屋は魔石を売るのが商売の店だ。

 新人の冒険者ならば、魔導具を持つものも少ないだろうし、ここを訪れる者も少ないだろう。

 それに魔石が必要なら、冒険者なら自分で調達できそうだし。


 俺は懐の金貨をテーブルに並べた。


「ここで取り扱ってる魔石を見せて欲しい」




 俺の思惑は成功した。

 

 魔石(解体)


 扱ってる商品を見定めるという理由をつけて、魔石を見せてもらった所、そのうちの1つにスキル付きを発見した。

 あまりしつこく言えば不審がられると思い、適当なところで切り上げたのだが、スキルを得たとしても魔石自体の商品価値が下がるわけでもないので問題はないだろう。

 見せて貰ったのは、ほんの一部であろうが、うまくすればスキルの大量入手も夢ではないかもしれない。

 下手なことをして不審者扱いされるのは困るが、機会があれば調べてみるのも一興だな。


 


 職人街の端にある、目当ての工房を尋ねる。

 ここは魔獣の革から作られる装備を生産している工房のようだ。

 主な製品は革鎧のようだが、小手や具足、兜なども作っているようなので、ここで一式揃えることができそうだ。


「なんだアンタら?客か?」


 現れた男はドワーフの店主のようだ。

 

「装備一式作ってもらいたい。俺と彼とで2人分だ」


 ほう、とドワーフの店主は見定めるように俺とアルドラを見回した。


「いくら出せる?」


 いくら?うーん、金額的には2人で60万シリルくらいなら出せそうだが。

 しかし装備の相場もわからないし、どの程度提示すればいいかわからないな。


「30万なら出せるかな……」


「なんだと!?2人で30万か!?一体どんな素材で装備作る気なんだお前ら!?」


「まぁ、わしは何でもいいんじゃがのう」


「……1人30万何だけど、まぁいいか」




 工房の2階で採寸して貰う。

 アルドラは大人バーションである。

 それぞれに革鎧、小手、具足、額当てを作ってもらうことになった。

 ちなみに魔装具の鎧となると値段は桁違いになる上に、作れる職人は限られる。

 ベイルでも数人しか居らず、飛び込みで製作を頼めるようなものでも無いらしいので、今回は選択肢から除外した。


 直ぐに製作に入れる素材で、最も品質の良い黒狼の革で一式作ることになった。

 新人には到底手の出ない高級素材らしい。


「しかしこれから夏だってのに、革鎧着て走り回るとなると、なんか蒸れそうだな……」


 想像すると暑苦しいことこの上ない。


「そりゃそうだろう。だから一番下に体温調節の魔装具を一枚挟んどくんだ」


 話によると防御力などには期待できないが、体温を調節してくれる機能のある魔装具というものがあるらしい。

 冒険者の間では広く知られた装備で、いろんなタイプがあるそうだが、インナーのように下に着こむタイプは安くて使うものも多いようだ。

 

 アルドラはいらないようだが、俺のぶんに1枚合わせて購入することにした。


「製作期間は、そうだな8日は欲しい」


 魔導具のぶんも合わせて30000シリルとなった。


「アンタは戦士だろう?盾は使わないのか?」


 戦士か。どっちかというと魔術主体なのだが。

 魔法戦士といった所か。

 今のところ武器は飾りに近いけど。


「うーん、そうだな……今まで使ったことはないが」


「隣が盾屋だから覗いていったらどうだ?」


 腰に差してあるショートソードを見てのことだろう。

 確かに盾もあったほうがいいかもしれん。

 扱い方はわからんが、単純に構えるだけでも役に立つだろう。

 盾スキルを持ってないから考えてなかったが、買っておくか。




 隣の工房を覗き、その盾と言うのを見てみる。

 ここでは木製の盾と、魔獣の革を貼りつけ補強したものとが在るようだ。


「いらっしゃい。新人さんか?気に入ったものがあったら、手にとって見てくれて構わんよ」


 工房の中にはズラリといろいろなサイズが並べられている。

 性能というより、使いやすさで選べばいいだろう。


「うちの盾は素材にアダンを使ってる。軽くて負担になりにくいが、強度もそれなりに有るから新人には丁度いいと思うぞ」


 アダンは大森林で切り出される木材の一種のようだ。

 大量に切り出されるため値段も手頃で、軽さと強度のバランスから初心者が手にしやすい素材らしい。


 俺が選んだのは木製のラウンドシールドだ。木材を貼りあわせ縁を金属で補強してある。

 裏側に革のベルトが備えられ、そこに腕を通して固定する。

 持ち手の部分にもベルトが付けられ、円形の盾を自由に動かせるようになっている。

 直径は60センチ位。

 小さずぎても上手く使えるかわからないし、ある程度の大きさは必要だろう。

 大きすぎても邪魔になるだろうから、こんなところか。


「それにするのか?300シリルだな」


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