第38話 討伐依頼1
午後からの剣術実習を受けた。
ギルドから歩いてすぐ近くに在る訓練場は、木の塀で囲まれた土むき出しの広場だった。
剣道の道場のような物を想像していたのだが、ただの空き地である。
剣術スキルを持つ、元冒険者の技能指導官が教えてくれるらしい。
とりあえずポイントを剣術スキルに設定しておく。
内容はと言うと、前半は剣の扱い方などについて。
後半は、木剣を使って実践を想定した打ち込みなど。
ポイント変更したが、あまり意味はなかった。
2時間という限られた時間で稽古するのは無理があるし、実習は剣という武器のレクチャーといった感じだった。
本格的に学びたい、剣術スキルが欲しいという人は別費用を払えば技能指導官が稽古をつけてくれるらしい。
実際スキルを得られるかどうかは、本人次第のようだが。
俺は受講完了の札を受け取り、訓練場を後にした。
「訓練はちょっと受けてみたい気もするけど、剣術スキルは持ってるしな」
アルドラも剣を獲物にしているようだし、アルドラに習うのもいいだろう。
腕の立つ戦士が教えるのもうまいとは、限らないだろうが。
受講完了の札を受付に提出し、D級の討伐依頼書を提出して受理してもらう。
「Dの討伐ですか?たしかジンさん昨日ギルドに登録されたばかりですよね?」
「そうですね」
リンさんが信じられないようなものを見る目で、見つめてくるが気にしないでおこう。
「討伐依頼の危険性はご理解いただけてますね?」
考えなしに魔物討伐へ赴いて、命を落とす若者が絶えないという話を聞いたからな。
登録したての若造が、いきなり討伐依頼を受けるとこんな感じになるのか。
「はい、大丈夫です。こうみえて魔物との戦闘経験は結構あるんですよ。マスターも了承していますし」
リンさんはマスターが了承しているという言葉が効いたのか、討伐依頼を受理してくれた。
D級 討伐依頼 魔獣クローラー 推定Lv1~12
大型芋虫の魔物。森の浅い部分から、境界付近に多数生息。
皮膚が固く、生命力が強いため仕留めるのに時間がかかる。
強靭な顎で希少な薬草もろとも周囲の植物を食い荒らし、増え過ぎると人間の領域まで進出してくるため定期的な駆除が必要。
顎に噛まれると大怪我する可能性が高いが、動きは鈍いため気をつければ問題無い。
極稀に粘糸を吐く場合もあるため注意が必要。
頭に1本触覚があり、それが討伐証明部位となる。
依頼達成数10匹 報奨金500シリル
追加1匹につき60シリル増額。
依頼を無事受けた俺は意気揚々と、外壁門へ繋がる道を走りだした。
門へと辿り着いた俺は、ギルドカードを提示して外にでる。
冒険者たちは仕事柄入市税を払わずに、カードの提示だけで門の出入りの自由を認められているのだ。
門を潜り、討伐や採取に都合のいい地点まで移動することにした。
とはいっても、そう遠い距離ではない。
歩いても30~40分ほどだろう。
俺はポイントを探知に設定し、魔物を探る。
このあたりの景色はというと、疎らに若木が生え所々には腰ほどはある高さの下草が生い茂っている。
見晴らしはよく、遠くに幾らか巨木が見える。
地面に傾斜はなく、平坦であった。
このあたりがいわゆる、森と平原の境界と言われるような場所なのだろう。
探知は自身を中心に周囲の状況を把握するスキルだ。
探れるのはFで半径30メートルくらい。
Eで60、Dで90、Cで120ほどだと思う。
その時の状況や体調によっても差が生じるため、目安程度だが。
実際には見えていない、遮蔽物の向こう側まで探れるこのスキルは有用だと思う。
探知のスキルで獲物を探しつつ、薬草採取の依頼も平行して進める。
魔眼で草むらを探すという作業だ。
常時採取依頼が出されているE級の採取には、癒やし草、毒消し草、活力草など数十種類がある。
今回は街の近くで簡単に入手できそうな、この三種を狙って探すことにした。
それぞれ低級のライフポーション、キュアポーション、強化ポーションの原材料の1つとして使用される素材であるため、その価値は高い。
これらの薬草は見た目の似ている雑草もたくさんあるため、見習い冒険者は間違えて雑草を必死に集めギルドに提出というのが、見習い冒険者のよくある話ネタのようだ。
だが俺には魔眼がある。
草
草
草
草
癒やし草 素材 E級
草
草
藪掻き分け魔眼で探せば、簡単に見つけることが出来た。
魔眼の連続発動はかなり疲れるが、判別の難しい薬草の発見には有効だ。
ある程度狙いを絞って使えば、負担もだいぶ減らせるだろう。
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このあたりには同業者の姿は見えない。
ある領域で冒険者が活動していた場合、先に活動していた者にその場を譲るのがマナーと言うやつである。
これは法律という訳ではなく、冒険者ギルド内の暗黙の了解というやつだ。
それにしても魔物の姿が見えない。
もっと大量にいると思ったが、そうでもないようだ。
と思ったら、いた。
クローラー 魔獣Lv1
体長1メートル位の巨大な緑色の芋虫。
顔はバスケットボールくらいある。
頭の先にチョウチンアンコウのような突起があり、それをフリフリと忙しなく動かしていた。
ブチブチッ
地面を這いまわるようにして動き、無心で下草を食んでいる。
確かに噛まれるとヤバそうな強力な顎のようだ。
魔物も人も生まれた時はLv1から成長するのだという。
こいつは生まれてから、それほど時間が立っていない個体なのだろう。
あ、そういえば忘れてた。
俺は鞄の中を弄り、中に入っている物を取り出した。
幻魔石
手のひらで弾けるように、それは魔力の粒子へ変換される。
虹色の光が空気中に飛散し、やがて1つに纏まってアルドラがその姿を表した。
「あれ?なんか姿、変わってない?」
呼び出したアルドラは大人バージョンである。
しかし俺の記憶にある彼の姿とは、いささか違うようだ。
身長2メートルを超えるような美丈夫であるのはそのままに、少しシャープになっている。
細マッチョである。
ちょっと若返ってるし。
洋画とかで見るような若手イケメン俳優っぽい。
亡霊時代に出会った時にはもっとゴリゴリだった気がするのだが。
「魔力で出来た体は、ある程度自在になるといったじゃろう」
そうだったか。
それにしても自由すぎだろう。
「その形態での服も、買ったほうがよかったかな」
今の姿は上半身裸に七分丈の革パン姿である。
「このままでも大した問題は無いがのう」
暑さも寒さも感じないため、服はそれほど気にしてないそうだ。
ただ記憶はあるため、暑い気がする、寒い気がするといった何となくの感覚はあるらしい。
剣で切られても、おそらく同じだという。
実際の痛みはないが、かつての記憶から不快な感触はあるそうだ。
「あ、そういえば剣は?家に置いてきたっけ」
俺がそう言うと、アルドラは何もない空間に手を掲げる。
すると次の瞬間、突如虚空から剣が出現しその手に収まった。
あの時買った、バスタードソードだ。
「わしのステータスを見てみい」
アルドラ 幻魔Lv1
特性 夜目 直感 促進 眷属
スキルポイント 35/63
時空魔術 S級(還元 換装 収納)
「あれ?いつの間に?」
アルドラがにやりと不敵な笑みを見せる。
「このような身となってから、魔術に目覚めるとは皮肉なものじゃのう」
魔力で出来た体となったために、魔術が扱えるようになったらしい。
俺は魔石からスキルを得ることが出来るため忘れていたが、本来スキルは修練によって修得するものなのだ。
「それはともかく」
アルドラはザクリと剣を地面に突き刺した。
ぐぐっと体を伸ばし、入念にストレッチをする。
まるで体の調子を探るかのように。
「アルドラ?」
「うむ。ちょっとこの体が、どの位動かせるのか試してみるわ。お主も適当なところで切り上げて帰るんじゃぞ?リザが心配するでのう」
そういうと、アルドラは剣を肩に担いで走り去っていった。
 




