表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
36/274

第33話 風呂に入りたい

 鞄を持って2階へ上がる。

 扉を開け、物置だった部屋へ入った。


「だいぶ片付けてくれたんだな」


 物で溢れていた部屋は、半分ほど荷が減っていた。

 重いものは無理だが、軽いものはミラさんやシアンの部屋の開いている場所へしまってくれたようだ。

 後幾つかどかせば、寝る場所は確保できそうだ。


「このあたりの物を廊下に出しましょう。私もやりますので」


 私の荷物ですから、と腕まくりをするリザ。

 そんな細腕で重い荷物を運べるとは思えない。


「荷物は俺が運ぶから、リザは指示を出してくれ」


 俺には力の指輪があるし、足りなければ火魔術の腕力強化もある。

 特別腕力に自信があるわけでもない俺でも、50キロほどなら何の苦もなく軽く持ち上がる。

 魔術超便利である。


「……わかりました」


 エルフはそもそも力の弱い種族らしい。

 人族よりも、単純な力や体力では下なのだ。

 ただ魔術の素養は高いため、魔術で身体能力を補うことができる。

 人族よりも魔力量も豊富であるため、ガス欠の心配も少ない。

 

 それ故に強力な種族と言われるのだ。


 俺は重い荷物をリザの指示の下、廊下へ出していく。

 人が通れるくらいのスペースは確保しなければいけないため、荷物の全てを出すことは無理だろう。

 だが俺にしてみれば、寝る場所さえあればいいので問題ない。


「これくらいなら、私でも運べますよ」


 大きな植木鉢を抱きかかえ立ち上がるリザ。

 ちょっと震えている。


 森の深くに自生する薬草の栽培実験のようだ。

 街でも簡単に栽培できるようになれば、薬の値段を大きく下げることができると語ってくれた。


「無理しないほうがいいぞ」


 そう言ってる矢先に、案の定体勢を崩す。

 俺は予測していたため素早く反応し、片手でリザを抱きとめ、もう片方の手で植木鉢を抱えた。


「あう……すいません」


 俺の腕に収まったリザは顔を赤らめ、その身を小さくした。


「どうかしたのか?変だぞ?」


「いえ、私も何かジン様のお役に立ちたいなと思いまして……」

 

 リザには世話になりっぱなしだし、俺が何かリザの為にしてあげたいくらいなのだが。


「そういえば薬師ってポーションとか作れるのか?手持ちの物を使いきってしまって、買いに行かなければと思ってたんだが」


 ポーションは飲むと傷を癒してくれる魔法の薬である。

 瞬時に全快する。とまではいかないが、極めて優秀な回復アイテムに間違いない。

 これから魔物と戦っていくにせよ、何かあった時のためにも、複数個所持しておきたい。


「はい!作れます!そうですね、そうでした。すぐに取り掛かります」


 リザはしまった!といったような表情をして、捲し立てる様に声を出した。


「いや、急いでないぞ?たぶん講習だなんだと、森で活動するのはもう少し先だろうしな」


 それに魔装具の修復の件もある。

 アレは夜間用の装備のため、しばらくは昼間の活動をと思っているので活躍の場はまだ先になるだろうが、準備を怠るようなことはしたくない。


「お任せください!私の今までの経験を生かして、最高の物を作ってみせます!」


 リザは物凄く張り切りだした。

 そこまで張り切らなくてもいいんだけどな……とは言えなかった。




 寝床を確保した俺は、鞄の中から買ってきた衣類などを取り出し、部屋へしまいこむ。

 鞄の収納力には余裕を持たせたほうがいいだろうし、すぐに使うものでなければ、部屋に置いておけばいいだろう。


 俺はリザに頼んでシアンに声を掛けた後、下へと降りてきた。


「ジンさん湯の準備は出来てますので、どうぞ」


 俺は有り難く受けることにする。

 ここ何日か風呂に入ってなかったからな。

 地球に居た頃は、自宅に居ればほぼ毎日湯に浸かっていた。

 それを思い出すと、風呂が恋しくなってくる。

 

「ジン様このような場所で申し訳ありません」


 リザが部屋の1角に衝立を用いて、体を清める場所を確保してくれた。


「いや十分だよ。湯を上に持っていくのも大変だしな」


 大きな木桶に湯が張っている。

 全身を浸けられるほどの大きさでは無いが、体を拭き頭を洗うくらいは出来そうだ。


「何かありましたら、声をかけてください」


「わかった。ありがとう」




 久々にさっぱりした。

 頭もしっかり洗えてスッキリだ。

 俺はキャンプなどのアウトドアが趣味の1つであるため、風呂に入れないのが我慢できない!というほどでも無いのだが、やはり日本人なのだろう風呂には特別な思い入れがある。

 こうして中途半端な形で湯に浸かれないとなると、余計に風呂に入りたくなってしまう。


 しかしこの家には風呂桶を設置するようなスペースは無さそうなので、今は諦めるしか無い。

 いずれは風呂の在る家に住みたいものだ。


「風呂ですか?ベイルに風呂屋なるものがあるとは聞いたことはないですね。貴族や大商人ともなれば屋敷に備えている方もいるかもしれませんね」


 ルタリア王国は人族の都市だ。

 そのためかベイルも人族が多い。

 しかしその祖先は大別して2つあるらしい。

 1つは北方から山を越えて、この地にやってきた北方系の人族。

 全体的に色素の薄い髪や肌をしていて、金髪や白い肌の者が多い。

 体は大柄で体毛が濃く、性格は短気で粗暴な者が多いという。


 対して南方系は海を渡ってきた者達だ。

 全体的に色素が濃く、浅黒い肌や黒髪であったり茶系の瞳であったりする者が多い。

 体つきは北方系に比べて小柄だが、引き締まっていて柔軟な筋肉を持ち、健脚の者が多いという。

 船に乗り、多くの国を渡って商売を行ってきた経緯から柔軟な思考の者が多いようだ。

 

王国が誕生する前は、この2つの種族が互いに領土を奪い合う、長い戦乱があったという。

 他種族から見れば、どちらも同じ人族ではあるのだが。


「北方には国によって風呂やサウナに入る文化があると聞いたことがあります。北方の商人なら事情に詳しいかも知れません」


 だがこの都市では、北方系は少数派のようだ。

 たしかに街を歩いても、白人ぽいやつが多いとは感じなかった。

 というより、たぶん混血が進んでいるのだろう。ハッキリと特徴を際立たせた北方系というのはあまり見なかった気がする。


「そうか。ベイルでは難しそうだな」




>>>>>




「この野菜を切ればいいですね?」


「ええ。1口大にお願いします」


 俺はミラとシアンと3人で夕飯の下拵え中だ。


 こうして一緒に作業していても、シアンはまだ禄に口を聞いてくれない。

 まだシアンとの距離はだいぶ遠いようだ。

 大人しい感じの娘だし、難しい年頃ってやつか。

 俺自身が若い女の子と話すのはあまり得意な方ではないし、気の利いた話も思いつかない。

 煙たがられるような関係にはなりたくないので、不用意にこちらから距離を詰めるようなことはしないほうが良いかなとも思う。


 アルドラとも面識はないようで、顔を会わせても小さくお辞儀をするだけに終わった。

 アルドラ自身も「そういえば妹がいるという話を聞いたのう」と記憶もあいまいであった。




 まだ夕方くらいで夕飯の時間には早いが、この家の人数も多くなったし量が必要になったのだろう。

 俺もどちらかと言えば、量を食う方だとは思うが、アルドラもあの小さい体で遠慮なしに食うからな。

 もう水も飯も必要ないっていう設定は忘れているようだ。


 ちなみにリザは俺の部屋の掃除のために席をたっている。

 ベッドは無いため床に寝袋を敷いて寝ることにするのだが、その前に拭き掃除をすると買って出てくれた。

 前もって掃除をしておいてくれたようで、それほど汚れてはいないのだが「先ほど荷を動かしたので、やはりもう一度拭いておきます」と言ってくれるので、任せてある。

 正直掃除はあまり好きではないので、やってくれるなら甘えてしまおうと思う。


「この野菜はどうしますか?」


「出来るだけ細かくお願いします」


 夕飯用に用意してあった野菜を、用途に合わせて切っていく。

 薪を利用したキッチンは初めてだが、アンティークな感じがかっこいい。

 火を調整するのが難しいらしいが、そこは慣れたもので手際よく準備を進めていく。

 

 用意された野菜は見慣れた物も多い。

 ルタリアは小麦や葡萄の生産が有名らしいが、野菜も沢山作られているらしい。

 北の山中から山の栄養を含んだ雪解け水と、大森林から森の栄養を多分に含んだ川が合流し王国の大地を豊かにしているのだ。


 キャベツ 食材 E級


 見慣れた野菜である。

 かつてスーパーで見かけていたものより、数段でかい気がするが。


 大きめのキャベツを縦に半分に切り、千切りにしてみる。

 細かくして生で食べるようだから、千切りでも問題ないだろう。

 どれシアンに俺のかっこいい所を見せるとしようか。




「すいません。手切りました……」


「ジン様!?」


 ちょうど戻ってきたリザが驚きの声を上げる。


 千切りくらいはしたことあるのだが、ちょっと失敗してしまった。

 猫の手だったのだが……


 包丁の切れ味が思いのほか良く、けっこうザックリ切れてしまった。

 血がだくだくと流れる。


「傷薬!傷薬とってきます!」


 慌てて部屋へと駆け上がろうとするリザを静止させたのはミラだった。


「落ち着きなさいリザ」


 俺の傷箇所をミラの手が優しく包む。


 次の瞬間、パアァッと光が手の内より漏れたかと思うと同時に、優しい温もりを感じた。


「魔術ですか?」


「ええ、もう大丈夫ですよ」


 ミラ・ハントフィールド 治療師Lv28

 エルフ 90歳 女性

 スキルポイント 2/28

 特性 夜目 直感 促進

 光魔術 C級

 魔力操作 C級

 調理 D級


 そういえばミラさんのステータスは確認していなかったな。

 ステータスの深くまで見るには、数秒間は直視しなければならないため、見るには少し時間が必要なのだ。

 会った直後に、その顔をじーっと見つめ続ける訳にもいかないだろう。


 まぁ見つめるのは顔じゃなくて、胸でもいいわけだが。


「見えましたか?」


 既に俺の能力を知り、直感も持つミラさんは俺の行動は筒抜けのようだ。


「すいません、勝手に見てしまいました。治療師だったんですね」


「ええ。街の治療院で少し前まで働いてました。体調を崩してから出てないのですが、最近はだいぶ調子がいいので、また仕事に戻れるかもしれません」


 仕事に出れるようになれば金に余裕が生まれ、ジンさんに沢山出してもらわなくても大丈夫になりますね。とミラは言う。


 治療院の仕事はそれなりにいい給料になるらしい。


 冒険者の街ということもあり、客が幾らでもいるそうだ。


 それにしても金くらいは出しておきたい。

 これからはどうなるかわからないが、今のところ金には余裕があるので、少しばかり出すことには何の問題もないのだ。


「母様」


 シアンの声が静かに響く。

 鈴の音のような綺麗な声だ。


「あら、ごめんなさい。ありがとう、助かったわ」


 料理はこの家では普段ミラとシアンが作っているらしい。


 ミラはスキル持ちであるし、リザは薬師の仕事があるのだろう。


「シアン、君のステータスも見ていいかな?」


 シアンの直感はあまり強くないらしく、おそらく勝手に見ても気づかれない。

 ステータスを勝手に見るのはマナー違反というのはこの世界では聞いたことがない。

 しかし、なんとなく断りを入れたほうがいい気がした。

 ネットゲームだとそういう考え方もあるので、俺がそう感じてしまうだけなのだが。


「……いいですよ」


 シアンは無表情でそう静かに答えた。 

 


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ